第16話 オフ会 1 ~side:柚季~
「やあどうも、俺が主催者のナハラね。今日はみんな集まってくれてサンキュ~。って言っても、君しか居ないけどねえ?」
迎えた6月中旬の週末。
柚季はこの日、この世から消えるつもりで自殺オフ会の待ち合わせ場所(都内のカラオケ店)を訪れていた。
すると、その場にはドレッドヘアの痩せ男だけが待ち受けている状態だった。
ナハラと名乗ったからには、彼が主催者のナハラその人なのだろう。
「ど、どうも……」
「6月ってさ、自殺者の人数減り始めるんだよね」
壁に背を預けて佇んでいたナハラは、楽しそうな表情で少し移動し、椅子にぼふんと腰掛けた。
「夏に向けてだんだん気温が上がってきて空も陽気もカラッとすんじゃん? 人間ってわりかし季節によってメンタルが左右されるとこあってね。寒い季節の方が死にたくなりやすい。正しくは日照時間が短い季節の方が、だけど」
「……はあ」
「都道府県別の自殺率ランキングを眺めてみると面白いよ? 東北勢や北陸勢が上位独占。そりゃそうだ、それらの地域は日照時間が短い挙げ句に雪っていうゴミが降り積もる。メンタルやられる条件揃い踏み。好き好んで住んでるヤツが居たらバカだと思うね。出身地だから特にそう思う。北関東以南に住むのが利口だよ」
ナハラは楽しそうに語った。
(何この人……)
死ぬ気あるんだろうか、と柚季はそう思ってしまう。
「まあ話を戻すと、今の時期から秋にかけては『死にたい』って思う人が少なくなる。だからこんな感じで集まりも悪くなるわけだ。そこで質問なんだけど」
「……なんですか?」
「2人しか居ないけど、オフ始める? それとも今回は出直すかい?」
問われて柚季は迷ったが、これ以上生きていてもしょうがないと思っている。
悪いことが重なった。乗からまた遊ぶ連絡が来たのを無視していたら、ムカつかれたのかなんなのか知らないがハメ撮りのデータを腹いせに流出させられてしまったようで、昨日クラスのLINEグループに貼られたりしてお祭り騒ぎになっていた。
ただでさえやられていたメンタルがもうポッキリ折れている。
この場に2人しか居なかろうと構わない。
楽に死ねればそれでいいのだ。
「……始めてもらっていいです」
「オーケーオーケー。じゃあ少人数時限定の特別プランで行こっか今日は」
「……特別プラン?」
「まぁそれはそうと、君はなんで死のうと思ったんだ? 軽く話そう」
まず座りなよ、と言わんばかりにナハラが椅子に手を差し向けた。
なんとなくそれに従うと、ナハラが準備していたっぽいドリンクバーのジュースが差し出される。
「色々ミックスしといたから多分美味しいと思う」
試しに飲んでみると、マズかった。
「美味しくないです……」
「そうかい。まぁ話を戻そう。君はなんで死のうと思った? DMじゃそこまで話してないからね。気になるんだよ」
「あたしは……自分が無価値になったので、もういいやと思って……」
「自分が無価値?」
「浮気をしていたのが彼氏にバレて……フラれたんです……あたしが初めて自分から選んだ男だったのに、フラれて……ショックで……」
「率直に言ってゴミだね」
「……ですよね、あいつオタクのくせに……」
「いやもちろん、君がってことだよ?」
「…………」
「で? ショックだから死のうとしたの? それだけ?」
ナハラは楽しそうに尋ねてくる。
生き生きとしていて、まるで自殺オフの主催者には見えない。
しかしそこに文句を付ける気力もなく、柚季は淡々と応じた。
「……フラれてから……色々上手く行かなくなったんです……学校でガラス割ったり、ハメ撮り流されたり……」
「それはどっちも君の自業自得に聞こえるけど?」
「そうです……だから自分の価値の無さを実感して、もういいやって思って……」
「しょーもないねえ」
ナハラはそう言って笑った。
「まったく死ぬ理由になってなくて笑える」
「……は?」
「自分不幸ですみたいな顔しといてさぁ、言うことがしょーもないよ君」
「な、なんでそんなこと言われなきゃならないわけ……?」
さすがに憤りを感じてそう告げる。
「……あんた自殺オフの主催者でしょ? だったら来た人が気持ち良く死ねるようにするべきなんじゃないの?」
「かもね。でも君そんなに怒ってるけど、死ぬ気あんの? ちょっとバイタリティ感じるけど?」
「あ、あるに決まってるでしょ……死にたいんだから、苛立たせないで……」
「そうかい。ならまぁ、ちゃぁんと死にいざなってやるから安心しとくといい。今ちょっと興奮したおかげで巡りも速くなっただろうしねえ」
そう言われたのと同時に、意識がぐわんと湾曲したような感覚に駆られた。
(な、なに……?)
強烈なめまいにでも襲われたかのようなふらつき。
思わず背もたれに寄りかかってしまう中、ナハラは楽しそうに笑っている。
「効いてきたかな? 日本じゃ認可されてない強力な睡眠薬」
「……え」
「そのジュースがマズかったの、多分それのせいw」
「な……」
柚季は掠れて薄れゆく意識の中で唖然とする。
「な、なにを考えてるわけ……?」
「え、いやまぁ、そうだね」
ナハラは楽しそうに笑って、柚季の意識が落ちる寸前にこう言った。
「どうせ死ぬなら殺させてよ」
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