第5話 届かなかった刃


 軍配は白雪にあがった。

 通用しなかったと言う事実がまたしてもリンの中で暴れ疑似回路の維持に支障をきたす。必死に抑えこんでいたトラウマが心をかき乱す。こうなっては疑似回路は愚か紅雷系統の魔術すらまともに扱えない。


 魔力の循環速度を平常運転に戻したリンは認める。


「私の負けです。今の私にこれ以上の魔術は扱えません」


 軍配と同時に決着も着いた。


「そうですか。ではここまでとしましょう」


 白雪はさっきの攻防で穴が空いた魔術結解を見つめる。

 しばらく見つめた後は「……お見事です」独り言を言って立ち去って行く。

 離れていく背中を見たリンは胸に手をあて一安心する。

 ここにはもう用がないと判断したリンも皆が待つ観客席に向かって足を進める。

 その途中リンは今後について考える。


「私……戦う度弱くなっている……」 


 純粋なポテンシャルだけで言えば決して高くない。

 扱える魔術の数も体内の魔力量も地元では恵まれている方でもあくまで周りと比べたらの話し。当然比べる環境が変わり、本当に優秀な者だけを集めたこの場所では自分は恵まれていない方だと気づかされる。そこに追い打ちをかけるように襲い掛かってくる自信喪失と死の恐怖。必死に目を背けても切り離すことができない現実はリンのポテンシャルに悪い影響を与える枷でしかない。自己の闇となったそれは簡単に埋没することはできず成長を続ける。今日は機転でなんとか最低限の戦いはできた実感があるが、それもいつまで続くかわからない。根本的な解決がいずれ必要になる。最大の問題は闇に形がないこと。だから触れることも壊すことも簡単にはできない。外部からの妨害を受けることもない。


「浮かない顔をしているな。正直に言おう。白雪相手によく善戦した」


 リンに声をかけてきた先生の声に一度立ち止まり頭を下げる。

 そして歩き始めようとした時だった。


「スランプか?」


 確信をつかれたようにリンの全身に電流が流れる。

 先生は周りに配慮して小声でそう言った。


「迷い、怒り、躊躇い、悲しみ、そう言った感情と向き合うことから逃げるな。苦しくても前を見て歩きながらそれらを乗り越えろ。お前は過去に縛られるのでなく未来に向かって歩く足を持っている。だったら迷うなスカーレット・リンベル」


 全てを見透かしたかのように先生はその言葉を残して観客席に戻る。


「これでレクリエーションマッチは終わりだ。全員クラスに戻って次の指示を待つように」


 何事もなかったかのように次の指示を出した先生は一度俯くリンの方を振り返って新入生の後を追うようにして歩いて行った。



 この日――リンは今度のことについて一人考えた。

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エイプリルフールが起こした奇跡は記憶継承者によって語り継がれる 光影 @Mitukage

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