クリスマスの鴉

滝口アルファ

クリスマスの鴉

晴天のクリスマスの

路地裏の電線に止まりながら、

鴉は呟いた。


《それにしても、

例えば、SNSに投稿しても

全然読まれない作品があるけれど、

あれは、お笑いで言うところの

「滑ってる」ってことなんだろうか。

まあ「滑り芸」ってのもあるくらいだから、

それはそれで、

面白いと言えるのかもしれないなあ。

いや、

PVが0の場合は、

読者はその作品の全貌を

見ていないわけだから、

面白い面白くない以前の問題なんだろう。


でも、結局のところ、

自分の納得のいくものを

手間ひまかけて書き綴って、

それを、SNSに記録できただけでも、

幸せなことなんだろうなあ。

ウクライナやパレスチナの

戦争状態に比べたら、

火を見るよりも明らかに、

幸せなことなんだろうなあ。


とは言うものの、

読者の反応が皆無ってのは、

正直なところ、心が折れるんだよね。

そんなときは、

「笛吹けども踊らず」状態かあと、

少なからず寂しがりながらも、

先日亡くなった、

シンガーソングライターの

KANさんの

大ヒット曲『愛は勝つ』の歌詞

「心配ないからね 君の勇気が

誰かにとどく 明日はきっとある」って、

心の中で口ずさんで、

自分を励ますようにしているんだ。


それにしても、

こんな問わず語りの

私の言葉を聞いてくれる

物好きな人なんて、いるんだろうか。

いないんだろうなあ。

そもそも、

私の存在なんて、

PVが0みたいなものなんだろう。》


まるで、

無名のSNS投稿者が

転生したような鴉は、

そんなふうに悟って、

晴天のクリスマスの

路地裏の電線から

あの世へ向かうように

飛び去っていった。


あの鴉は、もしかしたら

サンタクロースの化身だったのだろうか。

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