第26話 やんごとなき身
店に戻るとロルカの目にじたばたしている枝が映った。枝から生えている根が人の足のようにじたばたとしている。紐で吊り下げている状態なので何か枝自体に出来ることはなく実害はないが、非常に不気味な光景である。
「よし、王城へ行こう!」
暴れている枝をそのまま放置し、扉の鍵を閉め札を『店主不在、午後から営業』へとかえ王城へと向かった。
「魔法諸店のロルカと言います。先日賜った品について話をしたく来ました」
ロルカはあの宰相には不遜な態度をとるが、それ以外の人にはちゃんと接するようにしている。その中でも門番とは一番気をつかう相手だ。顔つなぎでもある門番ににらまれるとまともに取り合ってもらえなくなるからだ。ましてや呼ばれているわけではなく、今日はこちらから伺っている。通常であれば事前に連絡して日時をうかがう必要がある。要件を先に伝え必要があると判断された場合だけ王城に入ることができる。といっても話を聞いてくれるのは文官であり一般市民であるロルカが王や宰相に直接会うことは基本的にない。
「はい、魔法諸店のロルカさんですね。宰相様より何か用がある時は通せとの命を受けています。案内しますのでついてきてください」
なんで? と思ったがおくびにも出さず、そのまま案内してもらう。よければ数日後に来てもいいと連絡がもらえれば御の字だったが、こうもスムーズにいくと身構えてしまう。不本意ながらさいきん来慣れた王城への門をくぐる。いろいろと聞きたいことも増えそうだと連れられながら考える。
「宰相様に連絡いたしますのでしばらくここでお待ちください」
通されたのは応接間。庶民のロルカにとってはほんとは縁のないところである。高そうな壺やよくわからない絵画が飾られていた。手持無沙汰であったがうろうろするわけにもいかずじっと待つと、ノックと共にメイドが中へ入ってくる。
「お茶をお持ちしました」
城といえばメイド。そういえば兵士しか見ていないかったロルカにとって新鮮である。
手慣れたように湯を注ぎ、お茶請けともに紅茶が出される。
「ありがとうございます」
なんの紅茶かよくわからないが、とてもいい匂いのする紅茶だった。メイドは出ていくわけでもなく、そのまま後方の扉の横に立ったまま動かなくなった。
お茶請けはさまざまなジャムの塗られたクッキーだった。芳香なジャムは甘く、見た目も色鮮やかでとてもおいしいものだった。反対に紅茶は高そうな味がしただけだった。カップが空になると控えているメイドがお代わりを注ぎ、それを二度ほど繰り返したところようやく宰相がやってきた。
「いや、待たせたようですまないね」
なぜか
メイドはやって来た人数分に紅茶を出し、扉の横へ戻った。
「さて、まずは話をしよう。」
そう切り出したのは宰相。意外なことにサティスはおとなしくこちらに食って掛かりそうな雰囲気はしていない。
「不幸な入れ違いが起こったようだけど、ロルカ嬢に渡したのは間違いなく世界樹の枝だ。記録によると今から百二十年ほど前に当時の国王陛下が流浪の森人から譲り受けた品物だそうだ。どういった経緯で頂いた物か詳細は書かれていないが、けして折れず曲がらず燃えない品でその森人は杖として使っていたそうだ。その御仁はメディウス・サーディスと名乗ったそうだ」
がたっ、と音がした方を見るとわかりやすく動揺しているサティスが目に映る。
「そこのばん、いえ……知っている名ですか?」
「ちちだ」
「えっ?」
「私の父だ」
「……なるほど」
この蛮族の父親が国へ渡したものをその国からもらった現所有者のロルカから奪い返そうと? どういった経緯でもらったか経緯がわからないからなんとも言えないが、無理やり奪っていたとしたらこの蛮族の行動もまだ納得できる。
ただ、そうでなかった場合この蛮族は大変な事をしでかしてしまっている。
「たい、へん……、大変もうしわけありませんでした!」
両膝に手を着き、大声でサティスは謝罪したのだった。
「父は今は故郷で長をしておられる」
改めてメディウス・サティスファティと名乗ったこの森人は故郷では王族に身を連ねる人物らしい。父親からどこかの国で世話になったことがあり、その時に剣として使ってきた世界樹の枝をあげてきたとの話を聞いたことがあったそうだ。故郷の事もあり旅をやめるためにも剣を置く必要があると思っていたらしく、この国へ剣をあげたことによって国へ帰ったとのこと。
「そんな父が譲ったものを取り返そうと大変申し訳ない事をした」
旅をして見識が広まった、旅はいいものだとして育ったサティスは大人になるや否や故郷を飛び出してきたという。各地で冒険者として過ごしてきた中、たまたま立ち寄った国で覚えのある気配を感じたサティスは店に突撃した。
「うちの店消し飛ばされそうになったんですけど?」
経緯はわかった。だけど、そんな早とちりでごめんね、で済ましていい話ではない。
「まぁまぁロルカ嬢落ち着きなさい」
「そもそも国からもらった物でトラブルに巻き込まれたんだけど」
「うぐっ、それについてはこちらも申し訳なく思っているところだ」
本当に申し訳なく思っているのか怪しいのがこの男。
「ランク9の冒険者が魔法を使っても君の店には傷ひとつつかなかったのだろう」
「そうですけど……今何て?」
「彼女はベテランの冒険者でソロで冒険者ランク9だ」
「うち、そんな化け物に。攻撃されたの?」
「攻撃されて無傷な店の方がおかしいでしょ」
「あれはちょっと自信を無くしたぞ」
店は師が作った物だからおかしくはないだろう。
「あれは師が作った物ですから。私の及ぶ範疇ではない」
「あー」
「お前の師ってのはすごいのか?」
「サティス嬢? ロルカ嬢の師匠さんはこの城を更地に出来るくらいの人だ」
「おお、それは凄い!」
仮にも国に使えている宰相が自分のいる城をたとえ話でつかっていいのだろうかと疑問が浮かぶ。
「それで、今回の落としどころはどういった感じに?」
「国としては国民に危害を加えられたのでこのまま無罪放免はしたくない。かといってよその国の王族を罪に問うのは難しい。なのでしばらく無給でロルカ嬢の店で働いてもらうのはどうだろうか? ランク9の店番だなんて相当安心できるだろう」
「そのランク9に店を飛ばされそうになったんだけど?」
「なに、大丈夫だろう。父親が譲った物を取り返そうと魔法を放ってしまった相手に今後そのような態度をとるようなことはしないだろう。どうかね? サティス嬢?」
「そ、そうだな。父の耳に入るととんでもないことになりそうだ。こちらからお願いしたい。そして今後あのような事をしないと誓おう」
「それにロルカ嬢も労働力があればゆっくりできる時間が確保できる。魅力的ではないかね?」
「それは、そうだけど……。これに店番とか無理じゃない?」
ロルカは危うく口車に乗せられるところだった。どう考えてもこの蛮族に細かい料金設定を覚えられる能力がありそうとは思えない。
「ふむ、そうなると素材の調達はどうかね?」
「それなら……出来るか。ランク9であればそれこそお手の物だろうし」
「指定した素材を調達。そのほかで討伐でもしたらサティス嬢は生活に困らない程度のお金は調達できるし、ロルカ嬢は仕入れ値がかからず済む」
なんだかうまく乗せられている気がするけど。
「なに、身元ははっきりしている。サティス嬢の身分は国が保証しよう」
「そこまでいうなら何も言うことはないかな」
「それでは期間は明日より最低一ヵ月。そこからはサティス嬢に任せる。もしくはロルカ嬢がここまでと思ったら伝えてくれればいい」
「わかった」
「受け賜った。この汚名、見事晴らそう」
「……」
何かあれば国が保証してくれるし大丈夫だろう。
「あ、そういえば! あの世界樹の枝動いてるんだけど」
「「えっ!?」」
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