第25話 異変

 「で、あれって何だったの?」

「森人と言ってた。耳の形や魔法の使い手であること、そして話の通じないような人柄は間違いないと思う」

「うえぇ、蛮族と呼ばれてるあれ?」

「多分」


 森人。獣人と比べ人の活動圏内にいる人数は極端に少ないと言われている。女性であれば容姿端麗ようしたんれいであり、男性であれば眉目秀麗びもくしゅうれいと言われるほど種族的に顔が整っていることが多い。獣人のように奴隷となっている個体も大昔にいたというが、その型破りな性格から奴隷向きではなかったらしい。また、そろって魔法への適性が高いことが多く、そこら辺の冒険者では敵わなかった。その見た目の良さから奴隷へと望む貴族が多かったが、返り討ちになることがほとんどだった。


 いつしか”不可触人ふかしょくじん”といわれ腫れもの扱いされるようになった。


 王都の住人も多くは森人との単語は知っているが、どういった種族かは細かく知らない。ただ関わらないほうがいいという偏った情報だけが残っていた。


「なんでそれがロルカの店に来たの?」

「うーん、こないだの火山の件のお礼としてもらった品にどうやら曰く付き《いわくつき》の品があったみたいで、それめがけてって感じかな」

「えーそれは災難だったね。その品って返せないの?」

「さっきちょこっと調べ始めたばかりでこうなったから返却しようとは思ってる。変なものをお礼の品に混ぜないでほしい」


 自分が選んだ事を棚に上げてロルカは怒る。


 みたことのない物・珍しい物を調べるのはロルカにとっては楽しみなことだ。師は多くの事を知っていて、取り扱う素材はどんなものでも知っていた。その師の口から聞いたことのないような素材であれば興味をそそられても仕方ない事だ。


「だったんだけどなぁ、身の丈に合わないことはしないほうがいい。呪われた素材は私には早かったかも」

「えっ!? 呪いの品だったの? それはともかく、あのお店だったから壊れなかったで済んだけど、普通のお店だと吹き飛んでてもおかしくなかったでしょあれ」


 店の柱に刻印されている陣。ロルカにはわからない陣ではあるがそういった師の残した陣が店を支えている。物理的に。魔法ではびくともせず切り付けでも傷ひとつつかない。地震が来ても店は壊れないし、もし雷が落ちても火事にならない。あくまでも外側からの力だけに効果が出る。店の中から火が出れば防ぎようがない。


「事情を聴いてもよろしいですかな?」


 あの蛮族の姿がみえなくなっても暫くヘレナと話をしていると、衛兵のお偉いさんのような人の姿がみえた。


「はい」

「あの森人の言い分はわかりにくくて、一から話を伺っても?」

「はい、構いません」

「んじゃ、私はこれで、ロルカ頑張ってね」

「ありがと、またね。えーっと、私はいつも通り……」


 ロルカは朝からの行動を説明した。

 王より賜った世界樹の枝を使っていろいろ実験していると突然店にやってきて、なにやら聖なる気配がするといってきたこと。難癖をつけられたので一度強制退店してもらい、二回目は店に入れないようにしていたら魔法で攻撃してきたと。


「それは大変でしたなぁ」

「朝から疲れましたよ」

「おおよそ地域の住人からの証言と一致します。大きな声での会話も聞いていたみたいでして……。あの森人しばらくは我々のほうで身を預かることになるでしょうが、森人なのでどうなるかはわからないといったところです」

「なるほど……わかりました。戸締りはしっかりすることにします」

「それでは、ご協力ありがとうございました」


 まだ一日が始まったばかりなのに精神的に疲れたロルカであった。

 ただ、先ほどの言葉に引っ掛かりを覚える。


 ここデームヴルム王国は身分保障制度を導入している。いずれかの組合に属すことで身分保障してをもらうことができる。もしくはいずれかの組合に属している人の庇護に入ることで身分を保証してもらう。それぞれの組合で一月に一度は最低限の活動をしなくてはならない。なので働ける人は自分で組合に行き、働けない人は庇護に入るというのが一般的だ。


 ただ簡単そうに見えるこの制度は多くの穴が存在し、現状王国に浮浪児が多く存在することも実在だ。書くいうロルカ自身も浮浪児だった過去があり、収入があっても働けなければ身分をもらえないということだ。また身分保障をもらうにしてもある程度の金額がかかるためお金のない家庭には厳しい法となる。


 あくまでもデームヴルム王国に住んでいる人の話であれば罪を犯した場合、国の法律で裁くことができる。身分保障がなくとも王国に住んでいる者であれば王国の方が適用される。ただ、他国の人間だとそうはいかない。ましてや貴族や王族であればもっとだ。


「拘留ではなく身を預かるか……」


 片腕を組みながら眉間を揉む。通常であれば殺人未遂くらいなのでしばらく牢屋から出られないレベル。ロルカは過去にも一度店が襲われそうになったことがあったが、今回と同じように店に被害はなかった。その犯人は未だに出てきていない。


「すごーく嫌な予感がする」



 とりあえず、まだ一日はまだ始まったばかり、気持ちを切り替えて店の準備を始めた。

 空は快晴、過ごしやすい気候へと移ろい始めたばかりだ。


「えっ! なんかあの枝動いてるんだけど!?」


 落ち着き取り戻した街並みにロルカの大きな声が響き渡った。

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