第15話 寝不足
少年はイスカと名のり、あの後三人で暫く話し込んだ。魔物の群れを撃退したあと討伐部位を切り取って冒険者組合で討伐依頼報告をしてきたところ、軽いお説教と状態がいいなら買い取りも高いという事で、大人数で出向き魔物の死体を回収した。
説教に関しては駆け出しで勝てる魔物を逃げずに討伐したことに関してだ。逃げれない状況だったのはわかるけど無謀な事はしてはいけない。
今回に関しては生き残ったのは彼らの実力だ。事前準備をしていたから彼らは生き残った。
どうやらこの二人の周りには良い大人がいるらしい。駆け出しでも慎重だったのはそういった背景があったからなのかもしれない。怒ってくれる大人がいて、それを素直に受け入れる事ができるのであればいつかは高位冒険者になれるかもしれない。
それはそれとして……。
「眠い」
彼らと話し込んだ事により作業が遅れロルカは夜なべして準備にいそしんだ。ほとんど寝ていない状態で遠征の準備をしており絶賛睡眠不足中である。何なら遅い時間に来た別な冒険者の依頼で先程作製したスクロールを冒険者組合の依頼で職員へ渡してきた程だ。普段だと職員へ頼むのは良くない事だが、国からの要請の影響という事で「今回だけですよ」と咎められることはなかった。冒険者組合葉国が運営元となっているためだ、通常であればそういったことは絶対にしない。
時間通りに指定の場所へ向かっている最中、ロルカは普段通りのローブと肩掛け鞄を身にまとっているが、腰には数本スクロールを挿しているポシェットを身に着けていた。
若干猫背気味に歩いていくと軽装の集団が視界に入る。宰相の姿も見えたため、恐らくこの集団が調査団なのだろうと予想する。街の外が集合場所であったが明朝という時間なのにちらほらと遠巻きに兵達を見ている住民の姿もあった。
数台の荷馬車に馬車、数匹の騎獣、鎧を纏った兵と軽装の兵が散見していた。
恐らく責任者であろう見覚えのある頭を見つけそちらの方へ向かう。
「おはようございます」
「おや、ロルカ嬢ではないか。おはよう。ささ、こちらに」
見慣れたニル隊長ともう一人別な男性がいた。肌はやけており体格はよく厳しそうな顔をしている。かっちりと鎧を身にまといいかにも出来る兵士のような雰囲気をしている。
「こちらはドリエル第三隊隊長だ。んでこちらは今日協力してくれるロルカ嬢という。ドリエル第三隊隊長は今回調査団の指揮をつとめる者だ」
「初めまして!今日指揮をとりますドリエルと言います。協力者であるロルカ殿には危険がないように道中気をつけますので宜しくお願いします」
「ロルカです。力になれるかわかりませんが宜しくお願いします」
「ドリエル隊長は真面目な男だ。ロルカ嬢も道中は安心してほしい」
「はぁ」
「ドリエル隊長、くれぐれもロルカ嬢を丁重に扱うこと」
「はっ、この身にかえても守り通します!」
随分真面目で熱心そうな人だ。
「では我々はこれで。本当は私も着いて行きたいのだが……諸君、原因の究明、解決が上手く行くことを願う」
宰相のその声を皮切りに野次馬に来ていた民主よりまばらな拍手が起こる。
「出発!」
「ロルカ殿は馬車での移動でお願いします」
別な兵士からの案内で馬車へと乗る。
どうやら完全装備しているのは騎獣に乗っている兵と馬車の御者だけで、あとの者は軽装で荷台に集まって乗っているようだった。
「うーん考えられてるなぁ」
ちなみにロルカ乗っている馬車は一人だけどなっており、
「なんな偉い人になったような気分。これなら気にせずに眠れそう。」
揺れる座席にカバンから取り出した掛け物を下に敷き、枕代わりに寝息を立て始めた。
「ロルカ殿、ロルカ殿」
扉の外から何か呼ぶ声がするなと思ったら予定地点までたどり着いたので休憩と進行予定の説明をするとの事だった。明朝出発だったが、今は陽はすっかり高い位置まで登っていた。
「では改めまして。宜しくお願いしますドリエルです。今回の調査の予定をお伝えします。可能な限り通りがかりの町や村が有るところで休息と補給を取るようにしておりますが、火山に近くなると野宿もございます。また、王国兵とわかる格好で出てきていますが盗賊のような馬鹿な事を考える輩もいるかもしれませんし、魔物の襲撃もあるかもしれません。ですが我々兵士と王宮魔道士殿もいますので安心してください。騎獣に乗っている兵が遊撃となり止まらずに進行する予定ですが、相手の数が多い場合は進行を止め兵全員で相手をします。ここまでは大丈夫でしょうか?」
ロルカは話を中断させないよう頷くにとめる。
「食事の準備や寝床の設営、夜警も全て兵たちが行いますので、ロルカ殿には調査まで英気を養っていただきたい。女性の兵士は少ないですが近くにいますので、何かあれば彼女たちに言ってください。説明は以上になります。なにかご不明な点がございましたら聞いてください」
「いえ、なにも、ないです」
偉くなったような気分では済まされないような高待遇に内心ロルカは引いていた。さらに宿泊場所では二人護衛がつくという。宰相が魔女の弟子と言っていたのは間違いないし、スクロールに関しては正真正銘の弟子である。だけどそれまでだ。基本中の基本しか教わってないし、魔道具作製は見様見真似で独学の域だし、知識に関しては師がどれくらい凄いか知らないくらい。第三者から見て評価だけが高すぎているような気もする。
さらに、学者も二人連れてきているようだし自分の知識程度では役に立たないどころか過大評価されすぎている予感がする。
「ここまでされたらできる範囲では協力したいけど」
凄い魔女だから弟子も凄いとは限らない。ましてやロルカは魔力なし。そもそも魔女と同じ立場にすら立てない存在なのだから。
初日は王都周辺ということもあってか、何事もなく予定していた町へ夕方前にはたどり着くことができ、そのまま解散となった。ロルカの宿泊先は確保されており、その宿泊先まで女性二人が案内してくれた。この案内してくれた二人が本日の護衛であり、「いくら強いからといっても一人では絶対出ないように」と念押しされた。ロルカ自体戦った事がないのになぜそこまで言われるのかわからなかった。
王都より西にあるサハンの町、それが今日泊まる場所だ。
王都に近いだけあってそれなりに栄えている。ロルカも本で地名や位置関係だけは知っていたが、実際来たのは初めてだった。
「折角来たんたがら色々みまわらないと損」
十分な睡眠時間をとったロルカは元気が有り余っていた。ポシェットは鞄の中にしまい、肩から下げて部屋をでる。
「ひっ!?」
ロルカは兵士にちゃんと声を掛けようと思っていたけど、廊下に出たらすぐ横に立っていたことに対して非常に驚く。
「あ、失礼しました。まだ早い時間ですし、どうしようかと二人で話しいたところでした。驚かして申し訳ないです」
「たまたま話してましたー。ところで外出ですかー?」
愛想のよさそうな表情を見せながら護衛の二人が尋ねてきた。
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