第14話 前準備と接客

 店に帰り着いたロルカは早速ドアの札を『営業中』へ変更する。ギルドに暫く休みだと知らせが行っているため、急を要する場合は今日中に来るだろう。といっても全員日帰りで依頼を受けているはずもないだろうし、冒険者組合によらないでくる冒険者もいるかもしれない。


「貼り紙だしておかないと」


 利用してくれている客には真摯しんしでいたい。明日から暫く不在になる事となにか文句は王城へ、の旨を書いて店の外に貼り出しておく。


 さて次は何をするかを考えて、明日からの準備もしていかないといけないため、今日寝るのは遅くなりそうだと諦観する。気持ちを切り替えて火山へ行くという事の対策を取る、そのためにはまずアークウェイルという火山がどのような地域かを知る必要がある。


「確か活火山で温暖な気候の土地柄。溶岩は火のエレメントが好む土地であり、多くは火属性の魔物が多い。気を付ける点としては活火山には見えない毒が存在するため周囲を浄化する必要もある」


 店と居住スペースの間には大量の本があり、店番中や作製中にわからないことはよく調べながらしていた。手に取った本から必要な情報と自分の持つ知識を合わせながら大事な部分だけを覚え、対策を練っていく。


「必要なのは熱対策、火属性の魔物、無毒化」


 この三点。特に目に見えない毒素というのは非常に危険だ。目に見えるものには対策の立てようもあるけど、目に見えなければどうしようもない。

 かといって国お抱えの学者連中がこの程度の情報を知らないとは思えないのでロルカは自分の身を守ることを最優先に考える。


「火属性に優位なのは水属性」


 そのため先ほど仕入れた多くの素材は水属性だ。大抵の活火山は火属性が多い。まれに雪国の方にある活火山は属性が混在していることがあるが、時期としては夏だし今回は関係ない。これらをもとに魔石を大量に使った即席スクロールを作製していく。言葉を発動トリガーにしたもので、取り出さなくても即座に使える状態にする。次に無毒化のスクロールだ。上位の素材・高位の魔石を使用し持続時間を伸ばしたものを作製する。使用者周囲の人体へ有害な毒素を遮断するというものだ。これといった原因が分かっていればその原因だけに対応をすることが可能であるが、わからなければできない。なので大きな範囲で使えるものを作製する必要があった。

 黙々と作業をしてく中、時折客が来てスクロールを購入していく。作製中に接客をするとまた落ち着いて作成に戻るのに時間がかかる。途中まで作成中の図であっても最初から確認しなおす必要があり、失敗をしない為には必要な工程になる。誤って同じ図を二つ書いてしまうと必要以上の魔力を消費してしまい、最悪発動しないということもある。また、素材も限られたもので作っているため失敗は許されない。これれらは師からきつく言われたスクロール作製において守っている手順である。昔はこれで失敗するとよく雷が落ちたものだ。


 時計を見るとすでに二十二時を回ってきており、ひと息つこうとしたところ来客を知らせる鐘がなった。ドアの方を覗くといつか見た少年少女の冒険者二人組だった。


「いらっしゃいませ」

「こんばんは、この前はありがとうございました!」

「あ、ありがとうござい、ました」


 どうやらあの時投資として格安で譲ったスクロールは使ったらしい。使ったということはそれなりの窮地に陥ったということでもあるが、二人とも大きな怪我やどこかを欠損している様子はないところをみると、無事に切り抜けられたらしい。確か少女の方はリリカ、少年の方は……名前を聞いていなかったなと思い出す。


「いえいえ。どうでしたか当店のスクロールは?」

「すごかったです。受けていた依頼の途中運悪く魔物の群れと出くわしてしまって。依頼は討伐依頼であとは帰るだけという時に囲まれてしまって。多分音を聞いて寄ってきたんだと思います。二十匹以上に囲まれて、けどリリカの魔力はもう余裕がなくて」

「す、すごかったです。きれいで氷の魔法。い、一瞬で全部氷ついて、助かりました」

「それは良かったです。切り札といっても使うタイミングを誤れば意味はないので、あなたたちの判断力のおかげともいえます」


 実際スクロールなど全般に言える事であるが、魔道具は使えるときに使ってしまう事が大事だ。高価なものだからといって躊躇うと簡単に命を落としてしまう。命を落としてしまえばいくら高価な道具を持っていたとしても二度と使うことは出来ない。


「わ、私にもあんな魔法使えるようになりますか!?」

「リリカさんでしたね。氷は複属性ですよ? 二属性を使える人は稀なので……。冒険者に聞くのもあまりよくない事ですが使える属性は何ですか?」

「水と風です」


 どもりがちな少女から珍しくはっきりと口に出したかと思えば、まさかの二属性持ちだったとは。よりによってあの男シリウスと同じとは。いい事はいい事なのに最近の出来事を思い出して微妙な感じになってしまう。


「……そうですね。その二つであれば使えるようになるかもしれませんね。氷は水と風の複属性です。複属性の使い方は私にはわからないですが、頑張ってほしいです」

「よかった、ありがとうございます」


 例え二属性持ちだったとしても複属性の魔法が使えるとは限らない。それくらい希少でありそれなりの腕前があって初めてなれるのが王宮魔導士という役柄だ。もちろん在野にもっと素晴らしい魔法使いもいるかもしれないけど、あの男シリウスはそういう選ばれた人間だということは間違いない。

 まぁこんな野暮なことはこの少女には言えないけど。


「いえいえ。それで、今日は何か買われますか?」

「はい、そのために来ました。倒せた魔物の中には危険度の高い魔物のいて買い取り金額がすごかったんです」

「そう、なんです」


 なるほど。


「ではご予算と、どういったものをお求めか教えていただけますか?」

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