第10話

 柚香と会ってから2度目の夏が来た。僕は夏生まれだ。夏になにか特別な思いがある。その夏に、柚香の個撮がある。そのときに浴衣を買って、柚香にプレゼントし、撮影会で着てもらおうと思っていた。どんな浴衣にするか散々悩んだが、夏にはやっぱりひまわりということで、ひまわりの浴衣をネットで注文した。


 撮影会当日、僕はプレゼントの浴衣を持って撮影場所に向かう。都内の公園が撮影場所だった。天気は快晴で撮影にはもってこいだ。待ち合わせの場所で待っていると、柚香が早目の時間に姿を現し「おはよー」と元気な声をかけてくる。僕もおはよう返す。

「これ、言っていた浴衣のプレゼント」

 僕は事前にSNSでプレゼントのことと、撮影会で着てもらいたいことを伝えていて、了承を得ていた。

「ありがとー、今、急いで着替えてきちゃうから待っていてね」

「あ、これ役に立つかわからないけど、ビニールシート」

 公園のトイレで着替えなきゃいけないことになるだろうことを考慮して一応持ってきていた。

「お! 気が利く! ありがとう」

 そう言いながら柚香は着替えに向かった。数分経つと、柚香が着替えて戻ってきた。普段柚香は担当カラーの青色の服を着ていることが多いが、黄色いひまわりの浴衣が、目が奪われるほど似合っていた。僕はつい見とれてしまう。

「すごく似合っている」

「ほんと? 黄色なんて新鮮。でもひまわり好きだからありがとう」

 そう言う柚香の耳にひまわりのイヤリングが付いているのに気づいた。

「あ! イヤリング可愛いね」

「そうなの! ひまわりの浴衣を買ってくれるって言うから、合わせたいなと思って見つけて買っちゃった」

 僕は柚香のそういうところが好きだった。細かな気遣いというのだろうか、柚香は衣装が変わるごとに髪型を変えたりアクセサリーを変えたりする。

「じゃあよろしくお願いします」

「よろしくね。今日は楽しもうね」

 そう言い合って撮影会は始まった。何度も言うが黄色い浴衣がよく似合っている。太陽の日差しに照らされて、柚香がキラキラ輝いているように見えた。広い公園だった。僕達はゆっくり歩きながら、僕は写真を撮り、柚香はその都度ポーズを決める。うまく撮れたら柚香に写真を見せた。「わー! 綺麗!」と柚香はその都度喜んでくれた。公園を抜けて、土手に出た。こっち行ってみようと柚香は土手の階段をのぼる。僕もその後を付いてのぼった。 そのまま土手の上で、何枚か写真を撮っていると柚香が「かげおくりって知っている? こうやって自分の影をじっと10秒以上見つめて、空を見上げると、空に影が見えるの」と言った。柚香は僕より年下だが、僕の知らないことを知っている。僕が無知なだけかもしれないが。僕は真似してやってみたが、できなかった。

「できないよ」

「え? 瞬きしないでやればできるよ」

「――うーん。やっぱりできない」

 そう言うと、柚香はキャッキャと笑っていた。なにか素敵な時間だなと僕は気持ちがほっこりしていた。

 土手を降りるとその先に遊具が見えた。「わー! 遊びたい!」と柚香は僕そっち抜けで、走って行ってしまう。僕はその姿を見て微笑ましく思う。柚香はやっと振り返って「はやくはやく!」と僕を呼ぶ。僕は慌てて走って柚香のもとに行った。ブランコやすべり台で遊ぶ柚香を写真に収める。いい笑顔がたくさん撮れた。柚香は基本子供っぽい。そんなところも好感が持てた。


 遊具から離れ、また公園内を歩く。柚香が今度は一面のクローバーを見つけ「四つ葉のクローバー探ししよう。先に見つけた方の勝ちね」と言い出した。柚香はそう言い終えると、もう屈んで、四つ葉を探し始めている。撮影会そっちのけで探しているのも微笑ましい。僕も負けじと探した。

「――見つけたー! 私の勝ち!わーい!」

 柚香がそう言い、四つ葉のクローバーを摘んでこちらに見せてくれる。「おめでとう」と言いながら僕はその姿を写真に撮った。

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