天使と悪魔

Danzig

第1話

天使と悪魔


(ぼんやりと道を歩く男)


男1:あぁーあ、暇だなぁ

男1:何か面白い事ないかなぁ


悪魔:それなら、今からパチンコに行こうぜ、パチンコ!


男1:あれ? 君は?


悪魔:私? 私は堕天使(だてんし)。 悪魔っていう人もいるかな


男1:あ・・・悪魔?!


悪魔:悪魔って言ったって、そんなに怖がらなくても大丈夫さ。

悪魔:別にあんたを取って食おうって訳じゃないんだから。

悪魔:ただ私は、どうしたらあんたの人生が楽しくなるかを、教えてあげようってだけだよ


男1:そうなの?


悪魔:あぁそうさ

悪魔:ところで、あんたは暇を持て余してるんだろ?

悪魔:そういう時は、ストレス発散が一番さ。

悪魔:あんた、日頃からストレス溜まってるんだろ?


男1:そりゃ、確かにそうだけど・・・

男1:でも、パチンコって、なんか時間とお金が勿体ない気がしてさ。


悪魔:何言ってんのさ、時間なんて、どうせ何もしなくたって、どんどん過ぎていっちゃうんだから、今楽しいって思う事に使うのが一番なんだって


男1:まぁ、それもそっか・・・・


悪魔:そうそう

悪魔:さぁ、という事で、パチンコに行こうぜ!


男1:うん、そうしよう


(物陰から、申し訳なさそうに話かける女性)


天使:あ・・あの・・・


男1:ん? また、別の声・・・今度はどこから?


天使:は・・はーい、こ・・ここ・・に


男1:君は?


天使:私は天使です。


男1:天使?


天使:えぇ・・・

天使:あなたを善良(ぜんりょう)な道に導く為にですね・・・


悪魔:天使が何の用?


天使:きゃ・・・すいません・・・


(物陰に隠れる天使)


男1:なんか気の弱そうな天使さんだね


天使:すみません・・・そうなんです・・・私、気が弱くて・・・すみません・・・


男1:そうなんだ、気が弱い天使さんって、何だか可愛いね。


天使:はぁ・・ありがとう・・ございます・・・


男1:ははは、で、天使さんは俺に何か提案をしてくれるの?


天使:え、えぇ、そうなんです。


男1:で、どんな提案?


天使:それは・・ですね・・・あの・・何といいますか・・・その・・

天使:あ、すみません、上手く話せなくて・・・ホントすみません・・・


男1:ははは、本当に気が弱いんだね


天使:すみません・・・


悪魔:もういいよ、そんな子、放っておけば


男1:そうなの?


悪魔:そうそう、そんな子相手にするだけ時間の無駄だって。

悪魔:だからさ、さっさとパチンコ行こうぜ

悪魔:早くしないと、いい台が取られちゃうかもしれないぞ


男1:う、うん・・・そうだね


天使:あの・・さ、差し出がましいようですけど、お金は大事にしたほうが・・・


悪魔:は?


天使:きゃ、すみません・・・


男1:天使さん、大丈夫?


天使:はい・・・大丈夫です


悪魔:ったく・・・

悪魔:さぁ、もうパチンコ行こうぜ

悪魔:うまく行けば、大金が手に入るかもしれないし、運が悪くても、小遣いが少しなくなるだけさ。

悪魔:その小遣いだって、どうせ何かに使っちゃうんだから、そんなに気にする事ないさ


男1:それもそうだね


天使:でも、じ、時間だって・・・

天使:もっと有意義に使ったほうが・・・その・・・


悪魔:何?


天使:きゃ、すみません・・・

天使:私なんかが偉そうな事言ってごめんなさい


悪魔:あぁそうさ、天使っていつも偉そう

悪魔:善良だか何だか知らないけどさ、偉そうな事を言って、人間にいい夢をチラつかせて、努力ばっかりさせて、結局、上手く行かなくて、その人が挫折したって、天使は責任なんて取らないだろ。


天使:それは・・・あの・・人生というものは、誰かに責任を取ってもらうとか、そういうのではなくてですね、努力したという尊い経験が足跡(そくせき)となって、その人の人生の幅を・・・


悪魔:まったく、何が人生の幅だよ、人生の幅が何だっていうのさ

悪魔:青春時代に楽しい思い出も作れずに、しかも、努力しても結局人生に挫折しちゃった人の気持ちになってみなよ。

悪魔:天使が救えるのは、ごく一部の、生まれつき天才的な才能を持った人だけだろ?


天使:それは・・・


悪魔:ほらごらん、、

悪魔:天使の囁(ささや)きなんて、多くの人にとっては、人生を惑(まど)わすだけの、言ってみれば、セイレーンの歌声みたいなもんなのさ


天使:そんな・・・


悪魔:ったく、とんだ邪魔が入ったな。

悪魔:さ、気を取り直して、パチンコ行こうぜ。


天使:でも、やっぱり時間は大切にしたほうが・・・


悪魔:しつこいな!


天使:きゃ・・・すみません・・・で、でも・・・


悪魔:「でも」も「へったくれ」もないんだよ

悪魔:さ、こんなの放っておいて、さっさと行こ♪


男1:・・・・


悪魔:どうしたの? さぁ、早く行こうぜ。


男1:いや、俺、やっぱり止(や)めておくよ


悪魔:え?


男1:やっぱり、時間は無駄にしちゃいけないと思うんだ。

男1:実は、俺には諦(あきら)めかけてたけど、やりたいと思ってた事があるんだよ。

男1:ダメかもしれないけど、もう一度、努力してみるよ。

男1:天使さん、ありがとう


悪魔:あんた、何を言って・・・


天使:そうですか、頑張って下さいね、こんな私ですが、いつもあなたを応援してますよ。


男1:うん、ありがとう、可愛い天使さん。

男1:君のお陰で、俺の人生に光が見えた気がするよ。

男1:じゃぁ、俺はもう行くよ、少しの時間も無駄にしたくないんだ。


悪魔:そんな・・・


男1:悪魔さんごめんね、折角誘ってくれたのに


悪魔:いや・・・あの・・・・


男1:じゃぁ


(去っていく男)


悪魔:あの、ちょっ・・ま・・・


(小さくなる後ろ姿)


悪魔:あぁ・・行っちゃった・・・


天使:ふっ、まったく、チョロい男ね


悪魔:もう、なんでだよぉ、もうちょっとだったのに・・・


天使:あなたもバカね、もっと男ってのを知らなきゃ。

天使:男っていうのは、可憐(かれん)な女に弱いのよ。

天使:あぁやって、「純情可憐な女の子」ってやつを演じてやれば、男なんてイチコロよ


悪魔:あんた、いい性格してるわね、天使にしておくのが勿体ないくらいだわ


天使:そう?

天使:まぁ、実際これで実績が稼(かせ)げるんだし、何言われてもいいわ。

天使:私はこれで、これまでにもガンガン実績を稼(かせ)がせて貰ってるから。


悪魔:なんか容赦(ようしゃ)ない感じだな・・・


天使:でも、他の天使達だって、多かれ少なかれ、結構この方法を使ってるわよ。


悪魔:そうなのか?


天使:そうよ

天使:人間は天使を可憐なものだと思ってる事が多いけど、大概(たいがい)の人は騙(だま)されてるわね


悪魔:そっか・・・天使って結構エグいな


天使:そんなもんよ♪


悪魔:でも、いいなぁ・・・私なんて、全然実績上げられてないんだよ

悪魔:ただでさえ悪魔ってだけで不利なのにさ、そんなテクニックまで使われちゃ・・・


天使:そうね・・・駆け出しの悪魔には辛いかもしれないわね。


悪魔:あぁ、私はどうすればいいのさ

悪魔:なんかいい方法はないかなぁ・・・


天使:うーん、何だか可哀想になって来たわね・・・


(少し考える天使)


天使:じゃぁ、今度は、あなたが「可憐な女の子」を演じてみる?


悪魔:え? そんな事できるの?


天使:ええ、私が「がさつ」な天使を演じてあげるから、次からあなたが「可憐な悪魔」を演じてみなさいよ


悪魔:ホント? いいの?


天使:まぁ、実績が上げられない辛さは私も知ってるからね。

天使:仕方がないから、あなたの実績が上がるまで、何度か付き合ってあげるわ。


悪魔:ありがとう・・・何だかあんたが天使に見えて来たよ


天使:本物の天使なんですけど


悪魔:今ならそれも少し分かる気がする


天使:・・・・まぁ、いいわ

天使:じゃぁ、今度は、あそこのオフィスの喫煙所にいる男性の所に行きましょうか


悪魔:でも、私に上手く出来るかな・・・


天使:大丈夫、コツは教えてあげるわよ。


悪魔:うん、わかった。 やってみる。


(夜のオフィス 喫煙所

自販機で缶コーヒーを買って飲む男性)


男2:ふー、結構時間かかっちゃったなぁ・・・

男2:部長に押し付けられたこの仕事、最初は無理かと思ったけど、何とか目処(めど)が立ったな。

男2:まだ全部終わった訳じゃないけど、今日はもうこのまま帰っちゃっても大丈夫そうだな・・・


天使:ダメよ、サボるなんて。


男2:え? この声は?


天使:私は天使、いつもあなたを見守っている天使よ。


男2:天使?


天使:ええ、今あなたが仕事をサボろうだなんて、堕落した考えをしたから、私が現れたのよ


男2:いや、別にサボろうって訳じゃなくて、仕事に目処が立ったから、今日はもう帰ろうかなぁって・・・


天使:言い訳は男らしくないわよ

天使:この仕事を始めた時、あなたは今日中に終わらせようと決心をしたんでしょ。

天使:それを途中でやめちゃったら、なんでも途中でやめてしまうような、中途半端な人間になっちゃうわよ。

天使:さぁ、仕事に戻りましょ


男2:そうか・・・そう言われれば、そんな気もしてきたな


天使:そうよ、思い出してくれたのね、よかったわ。 あなたは、わりと立派な人間ね。

天使:さぁ、オフィスへ戻りましょ。


男2:あぁ、じゃぁ今から戻るよ。


天使:はい、頑張ってね♪


悪魔:あ・・・あの・・・


男2:ん? 別の声・・・どこから?


悪魔:は・・はーい、こ・・ここ・・に


男2:君は?


天使:私は堕天使(だてんし)です。


男2:堕天使?


悪魔:えぇ・・・あの・・悪魔なんて呼ばれる事もありますけど・・・決してあなたを傷つけようとか、そういうのではなくてですね・・・


天使:悪魔が何の用?


悪魔:きゃ・・・すみません・・・


(物陰に隠れる悪魔)


男2:なんか気の弱そうな悪魔さんだね


悪魔:すみません・・・そうなんです・・・私気が弱くて・・・すみません・・・


男2:そうなんだ・・・

男2:気が弱い悪魔さんって、あんまりイメージ出来ないけど、何だかギャップ萌えで可愛いね。


悪魔:はい・・ありがとう・・ございます・・・


男2:で、その気の弱い悪魔さんは、俺に何かを提案をしてくれるの?


悪魔:え、えぇ、そうなんです。


男2:で、どんな提案?


悪魔:それは・・ですね・・・あの・・何といいますか・・・その・・

悪魔:あ、すみません、悪魔になったばかりで、上手く話せなくて・・・ホントすみません・・・


男2:ははは、本当に気が弱いんだね。

男2:それに、悪魔になったばかりなら、緊張しても仕方ないよ。


悪魔:すみません・・・ありがとうございます。


天使:いいのよ、そんな子、放っておいたって

天使:それに、悪魔に「さん」付けなんて要らないわよ


男2:そうなの?


天使:そうよ、相手にするだけ時間の無駄よ、あなたには大切な仕事が待ってるんだから。

天使:さぁ、オフィスに戻りましょ、今から頑張れば、早く終われるわよ。


男2:う、うん・・・そうだね


悪魔:あの・・さ、差し出がましいようですけど

悪魔:その仕事って、別にどうしても今日までという訳じゃないですし・・・


天使:何ですって?


悪魔:きゃ・・・すいません・・・


(物陰に隠れる天使)


天使:ったく・・・

天使:さぁ、気を取り直して、オフィスに行きましょ。

天使:この仕事を終わらせれば、部長の評価も上がるわよ。

天使:そうすれば、あなたのやりたがっていた仕事も、させて貰えるかもしれないわよ。


男2:うん、そうだね


悪魔:でも、なにも会社の為にそこまで・・・

悪魔:もっと自分を大切にした方が・・・


天使:は?


悪魔:きゃ、すみません・・・

悪魔:何か私・・出過ぎた事言っちゃってすみません


天使:そうよ、悪魔っていつもそう、人を堕落させる事しか考えてないじゃない。

天使:輝(かがや)かしい未来ある人間を、一時(いっとき)の快楽に溺(おぼ)れさせて、努力する事を忘れさせて、その人の人生が台無しになったって、悪魔は責任なんて取らないでしょ


悪魔:それは、あの・・人生というものはですね、誰かに責任を取ってもらうとか、そういうものではなくて、趣味とか娯楽とか楽しいという尊い経験が足跡(そくせき)となって、その人の人生の幅をですね・・・


天使:ったく、何が人生の幅よ、人生の幅がなんだっていうの。

天使:人は真っすぐに、細く長く進まないと、自分の目標には辿り着けないのよ。

天使:一度堕落をしちゃったら、もう夢なんて掴(つか)めなくなっちゃうのよ。


悪魔:いや、堕落とか、そういうのじゃなくてですね・・・・人生には楽しみというものが、少しは必要だと思うんです・・

悪魔:決して、夢を諦(あきら)めろとかそういうのでは・・・


天使:しつこいのよ!


悪魔:そんな・・・


天使:この人はね、今からオフィスに戻って、今回の仕事をやり切って、周りの人から信用を勝ち取るのよ。

天使:そして、よいポジションを得て、出世して、人生の勝ち組になるの。 だから邪魔しないで頂戴。


悪魔:で、でもぉ


天使:何よ、あなたさっきから・・・


悪魔:すみません・・・

悪魔:で、でも働き過ぎは体に毒ですし・・・


天使:そんな事ないわよ、この人はまだ若いんだし、多少の無理は平気なのよ。

天使:今は身体の事よりも、仕事で実績と信頼を勝ち取る方が、この人の人生には大切なのよ。


悪魔:で、でも、その方は、これまでにも十分、プライベートを犠牲に働いていますし

悪魔:今しか出来ない事というか、そういうのも人生には大切かなぁって・・・


天使:だからサボってもいいっていうの?


悪魔:さ、サボるっていう事ではなくて、今は、少し仕事にも余裕が出来たみたいですし・・・

悪魔:余裕のある今のうちに、身体や心をを、少しでもリフレッシュさせるっていう感じに考えて・・・

悪魔:またいつ無理をしなきゃいけない時が来るか分からないんですから・・・


天使:だから堕落しろっていうの? まったくこれだから悪魔は


悪魔:いや、その方の身体が、本当に心配なんですよ

悪魔:このままだと、身体を壊しちゃいますよ・・・


天使:何ですって!


男2:まぁまぁ、まって、まって、二人ともちょっとまって

男2:そんな言い争いなんてしないで


悪魔:はい・・・ごめんなさい・・・


天使:ふん!


男2:二人の言い分はしっかり聞かせてもらったよ。

男2:そのうえで、俺なりにちゃんと考えたからさ


天使:あっそ


男2:うん

男2:ありがとう悪魔さん、悪魔さんの言葉、胸に染みたよ。

男2:俺の事を心配してくれて、本当にありがとう。


悪魔:あぁ・・・ありがとうございます

悪魔:私の気持ちが伝わってよかった・・・


男2:悪魔さんの気持ちはとても嬉しいよ。

男2:でも俺、やっぱりオフィスに戻るよ


悪魔:え?


天使:(小声)あらら・・・


男2:悪魔さんの言っている事も間違ってないと思うけど、天使さんの言う事にも説得力があって、すごく迷ったんだけど・・・

男2:やっぱり、俺は天使さんのいう通りにするよ


悪魔:どうして? どうして私じゃダメだったの?


男2:いや・・・どうしてって言われても・・・


悪魔:お願い、お願いだから、それだけでも教えて・・・私、もうどうしていいか分からないの・・・


男2:うーん・・・そうだな・・・

男2:まぁ、強(し)いていうなら・・・天使さんの方が美人だったからかな


天使:まぁ♪


悪魔:・・・そんな・・・


男2:じゃぁ、ありがとう悪魔さん、君の事は忘れないよ


悪魔:あの、ちょっ・・・ま・・・


(立ち去る男)


天使:あぁーぁ、行っちゃったわね・・・

天使:あれで上手く行くとは思わなかったわ、男ってホント、バカね。


悪魔:なんだよ、結局顔じゃないかよ!


天使:ふふふ、まぁ、まぁ

天使:どんまい♪


悪魔:私の実績が上がらない理由が分かったわ

悪魔:やっぱり、世の中って不公平よね。


天使:ふふ、仕方ないわよ、顔が良ければ、人生イージーモード♪


悪魔:あんた、ホントは絶対天使じゃないだろ


天使:そんな事ないわよ、私は可愛い可愛い天使さん♪

天使:うふ♪


悪魔:あぁー、超ぉ腹立つわぁ

悪魔:もう、神様のバカ!


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天使と悪魔 Danzig @Danzig999

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