第三話「かわいい人形」

 大学で知り合った友人の話なんですけど。


 つい最近あったことで、その友人が急に「かわいい人形を何体か買って部屋に飾ってみたから見に来ないか」って言ってきたんです。彼女にそんな趣味なんてあったかなと不思議に思いましたが、曰く「もともと人形に興味なかったけど、別の用事で来た店で偶然見かけて一目惚れした」とのこと。私自身も人形には大して興味がありませんでしたが、どちらかというと彼女が唐突に人形を買ったことの方が気になり、誘いに乗って見に行くことにしました。よっぽど人形を見に来て欲しかったのか、私が飾ってあるそれを見て何か言い出す前に捲し立てるように喋ってきたんです。「この子が一番かわいい」とか「この子はスタイルがいい」とか「この子は表情がいい」とか。普段の彼女の雰囲気からは、ちょっと信じられないくらい熱く人形たちの魅力を語ってきました。






 ……ただ、私はすごく返答に困りました。


 私が人形に興味がなかったからではありません。


 普段と違う彼女のテンションに引いたからでもありません。


 その、彼女の部屋に飾ってあったの……
















 藁人形だったんです。


 どう見たって顔やスタイルも何もない藁人形が、四体ほど置いてあったんです。しかもボロボロで薄汚れていました。本人は買ってきたと言っていたけれど、到底そんな風には見えませんでした。まるでどこかの木に打ち付けられていたのを、そのまま引っぺがしてきたような見た目でした。私は一瞬、自分が何か勘違いしているのだと思いました。しかし彼女は明らかに藁人形を指して喋っているし、部屋のどこを見渡しても他にそれらしい人形がないんです。

 私は怖くなって、彼女の話に適当に相槌をうって足早に家を去りました。あの日以来、私は彼女とは少し距離を置いています。でも何か起こるということもなく、彼女はいたって普段通りです。「人形どうだった?」とか聞いてくることもなく、人が変わったようになっているわけでもなく、本当にいつもの彼女です。そのことが、却って恐ろしいんですけど。






 私の目がおかしかったんでしょうか?


 あの藁人形、彼女には何に見えているんでしょうか?











 ……聞き出す勇気なんて、ありません。

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