名産品

朝本箍

名産品

 はーい、あ、すんませんね来てもらって。カフェとかじゃ何か話しにくいっていうか……いや、そんな凄い話はないんですけど。あの村で暮らしてた訳でもないですし。お、玄関で立ち話は良くないですね、すみません。どうぞ。男のひとり暮らしなんで大して綺麗でもないですけど。

 雑誌の取材って本当に話を聞いてるんですね。今だと電話とか、オンラインでとか選択肢はいくらでもあるか。オレの話も関係者として載るんですか? 採用されるような話が出来ればいいな。あ、すみません、ちょっと昼飯作ってて鍋うるさいですね。火ぃ小さくしてきます。結構煮込まないといけなくて。

 で、あの村。いやでもよくオレまで辿り着けましたね。母親があの村出身ですけど、炭鉱が閉山になってからの移住でそんなに長くもいなかったらしいのに。……まぁだから助かったようなモンか。記者ネットワークってやつです? それともあれ、怪を語れば怪に至る、でしたっけ。ちょっと違うかな。

 ……レコーダー見ると、会社の先輩が常に胸ポケットへ入れてたのを思い出します。脱線してすみません。あの村。村ぐるみで大量殺人を隠蔽してた、ってミステリーみたいですよね。古いのから、新しいのまでよりどりみどり。白骨になってもわかるって科学の進化って感じ。不謹慎ですか?

 で、怪しい風習とか、信仰とかそういうのがないか調べてるんですか。最近人気ありますよね、ホラーでもそういうの。雑誌も大変なんですね。

 さっきも言いましたけど、母親があの村出身なんでオレも小さい頃はよく行ってました。ただ、そういう話は残念ながら見たことも聞いたこともないです。寂れた神社はありましたけど、祀ってたのも普通の……普通っていうのもおかしいのか、でもよく聞くようなありふれた神様でした。アマテラスとか、そんな感じの。本殿は立入禁止だったんで何があったのかは知らないです。

 夏にはお祭りもやってましたよ。神社の前に出店がいくつか出てて、あ、そういや土俵もあったんです。ちびっ子相撲とか誘われた気ぃするな。出店は、今じゃなかなか見ないですけど、キラキラのアクセサリーとかばっかり売ってる店とかありましたね。今は海外通販でもっと安く買えますから需要なくなったのか、全然見ないっすけど。

 神楽とかもやってたんじゃないかな。毎年違う巫女さんが踊ってて、綺麗でしたね。大人もめっちゃ、食い入るように見てました。目ぇギラギラさせちゃって、ってこれ言っちゃ駄目なやつかも。あ、いや、別の意味で。

 そんな感じで、お祭りも普通でした。あーでもこれじゃ使えるトコ、ないですよね? せっかく来てくれたのにそれじゃ申し訳ないし、オレも雑誌に載るチャンスが…………あ、そうだ、キノコ。キノコが、名物でした。

 少し珍しいキノコだったらしいです。マジで森の中にある村……今は市町村合併で市ですけど、そんなとこで名産品ってなったらそれくらいですよね。珍しいとは言ってもそこでしか採れないとかそんなことはなくて、栽培が難しいからあんまり市場に出ない、程度だとか。菌床がなかなか用意出来ないからとか聞いたような。

 あの村でもご馳走ってポジションでした。お祭りとかお祝い事の時に皆で食べる。オレも食べたことあります。確かに美味しかったです、何かそう、肉みたいな、旨味ってのがガツンと来る感じで、無理矢理例えるなら牛肉です。でも食感は柔らかくて、香りは獣臭さがない、でもキノコのあの湿った感じもないんで確かにご馳走らしかったです。肉よりもいい、ってじいちゃんとかは言ってました。一度経由するから美味いんだとか何とか。

 結構買いに来る人とかもいて、それである程度潤ってたんですってね。今回の事件で行く人増えますかね。殺人事件で町おこしって、洒落にならないですけど……あ、でも村人全員関与してる可能性もあるんでしたっけ。じゃあ駄目か。

 そういや、話題の白骨死体の山ってどこで見つかったんです? 報道だと村で、としか言わないじゃないですか。雑誌の記者さんならそういうの知ってたりするのかなって。犯人がうっかり話して捕まるってのもパターンですよね。

 お、煮えたみたい。まだ色々聞きたいし、どうですか、お昼。寒くなってきたし、鍋にしたんです。いいっすよね今時期の鍋。鱈が安かったんで、水炊きにしたんです。ポン酢で食べるのがやっぱ一番ですよね。

 キノコもたっぷり入ってます。さぁ、食べましょう。一度経由させたんで絶対美味いですよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

名産品 朝本箍 @asamototaga

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ