第36話 ロミオとディアナ2

 ロミオとクリスたちがオルランド司教に経緯を吐かせた。


 ディアナを誘拐時、オルランド司教は、キャピレット家の使用人を使ってディアナを眠らせ、ベッドのシーツ毎ディアナとポポまで紛れ込んで馬車に運ばせたらしい。ディアナが連れていた護衛まで眠らされて、小部屋に隠されていたのだとか。


 教皇や次期教皇候補、他にも神聖帝国マリデンは、神殿が権力争いでかなり腐っているらしい。オルランド司教は、次期教皇になるために亡命皇帝の血族の誘拐を目論んだ単独行動だったようだが、他の誰かが再びディアナなどの亡命皇帝一家の生き残りを狙うとも限らない。


 モンタール家だけでなく、キャピレット家も共通認識で、その腐りきった教皇たちを権力の座から引き下ろす計画で共同戦線を張ることが決まったのだ。仲の悪い同士が共同戦線とは驚くべきことだった。ただし、主導はロミオであり、キャピレット家には計画実行のための資金提供をお願いした。


 まずは、ロミオはポポにオルランド司教の神聖力を奪わせた。神聖力を与えられるなら奪えるだろう、というロミオの一言で、ポポは魔王なロミオが怖くて震えながらオルランド司教から神聖力を奪った。神聖力が使えるものには、それを生み出す核のようなものが体内にあるらしく、そこから根こそぎ奪った。オルランド司教は一生神聖力が使えなくなったのだ。また、オルランド司教は死ぬまで監獄に入れられることが決まった。


 それから、オルランド司教から帝国の神殿内部について、事細かく確認した。そして、教皇たちから権力を奪うべく、帝国へ内密に渡ることになった。


 編成されたのは、ロミオとクリス、青騎士団の魔術師団チームと、ディアナとポポである。ディアナが行くことは、ロミオも父もずいぶん渋っていたけれど、ディアナが行かないとポポが行かないので、しぶしぶ許してくれたのだ。


 船で内密に帝国に渡ったディアナたちは、教皇とその子らに接触し、ポポが彼らの神聖力を奪った。そして、教皇以外の神殿の上層部の腐った人たちからも神聖力を奪う。


 その後、ある日、大神殿がある場所の空中に、大人の女性の姿の女神マリデンが現れた。もちろんポポである。クリスが作った音声拡張器機能のある魔道具を持ってもらい、ポポが民に向けて口を開く。


『教皇ら神殿は、我が愛し子の一族、皇帝の血族を権力と金欲しさに害し、我が怒りを買った。許しはしない。今後、神聖帝国マリデンには、私の力と祝福の恩恵が及ぶことはない。古に与えた聖物は、力を発することもない。さらば、愛しい子が愛した国よ』


 突然の女神の『国から手を引く』宣言に、民の怒りは神殿に向いた。これで、今までの神殿のあり方はなくなっていくだろう。


 このパフォーマンスと同時に、ロミオたちは、今までの神殿を憂い、危機感を持っていた地方領主たちにそれぞれ接触もしていた。神殿を打倒しようと裏で集まっている人がいる情報を得ていたのだ。神殿の地位が地に落ちたことで、今後は領毎に人を選出して議会のようなものを作り、国を育てていく予定らしい。民主政治な国が誕生した瞬間だった。


 そのようにして、教皇たちから再び狙われることへの懸念を絶った。


 そうやって忙しい三ヶ月はあっという間に過ぎていったのだ。


「そういえば、ディアナのストーカーは今日は留守番?」

『いる! ストーカーじゃないんだからね!』


 ずっと見えないまま付いてきていたポポが、クリスの目の前に現れた。念話も聞こえるようにしたらしい。帝国へクリスとポポも一緒に出張したため、クリスは今はポポが女神マリデンの化身と知っている。


「ロミオがストーカーって言ってるけど。ディアナにくっついてたら、ロミオのイライラは買うよね。まだ生きてるのが不思議」

『やめて!? 魔王がいるときは、離れてるんだから! 自分はディアナにちゅーしてばかりいるくせに、私には絶対にさせてくれないしー!』

「そりゃそうでしょ」

『ディアナは私のでもあるのに! 私の愛し子なのよ! なのに、ディアナもちゅーしてくれるって言ったのに、ちゅーしてくれなかったぁああ』

「ポポ、それって、誘拐の時の話よね。羽の生えた巨大猫で逃げなかったし、条件が成立してないわ」

『……!! ディアナまで、魔王に毒されていくー!』


 ポポはどうして、そんなにディアナとキスしたいのか。あれかな、生まれた我が子が可愛くてキスしちゃう親目線?


「それはそうと、ストーカーのその体、何で出来てるのか確認していい?」

『……? どういう意味?』

「女神の化身だったっけ? 泣くしお腹も壊すし、意外と痛みや衝撃にも弱いんでしょ? 何で出来てるのか気になっちゃってさ」


 クリスがどこからか、ナイフみたいなものを持ってきた。


『ぎゃゃああああ! ディアナ! 助けて! 殺される!』

「ク、クリス? さすがにお腹を割くのはちょっと」


 猫なポポがディアナに縋りつき、プルプル震えていた。


「さすがに、いきなりお腹からは割かないよ。ちょっと毛とか採取していい?」

「毛? 毛ならいいよね、ポポ」

『いやよ!』


 ポポはプルプル震えるだけだが、嫌なら見えなくなればいいのでは? と内心突っ込む。しかし、それにやっと気づいたらしい。


『魔王の親戚はみんな魔王だわ!』


 そう言って、ポポは見えなくなってしまった。まあ、ディアナには見えてるけれど、クリスには見えていない。「残念ー」とクリスはがっかりしていた。


 その日、家に帰った後、屋敷に呼んだ服飾店の従業員と話をした。実は、ディアナは数ヶ月後にはロミオとの結婚が決まっていたのだ。


 誘拐された直後、モンタール家とキャピレット家が共同で新聞に発表したことがある。皇帝一家の暗殺時に互いの娘が入れ替わってしまったことが発覚したこと、元の家には戻さずこれまで通りの家の子であることを。


 暗殺事件は、タリア王国では誰もが知っている話で、最近すでに娘が入れ替わっていると噂されていたため、正式に発表したのだ。暗殺時の悲劇ということで、ずいぶん同情された。


 そして、その後、すぐにディアナとロミオの婚約を発表したのだ。


 ずっと父はディアナとロミオの結婚には反対していたけれど、やっと許してくれた。


 とはいえ、ロミオはちょっと不機嫌だった。ロミオの当初の計画では、ディアナが十八歳になったと同時に協会で結婚の契約をしてしまうつもりだったからだ。先日、ディアナは十八歳になった。でもまだ結婚の契約はしていない。きちんと婚約した後に結婚することと、父と約束したのだ。それでも、最初は婚約期間は最低一年と父に言われたところを、ロミオが父と何度も話し合って半年に落ち着いた。


 婚約期間が半年って、貴族の結婚としてはかなり短いと言える。


 逆行前に婚約していた第一王子と婚約しなくて済むことは安心したが、それだけでなく、大好きなロミオと結婚が決まり嬉しい。


 夕方になり、ロミオと父と三人で夕食にする。


「ウェディングドレスだけど、前に案として聞いたダイヤモンドを散りばめたものにしようかなって思ってるの」

「そうか。ディアナの好きなようにしなさい。ディアナならどんなものでも似合うだろうから」


 父はそう言いながら、涙ぐんでしまった。


「結婚なんて、あと十年は先でもいいのに……」

「父上、ディアナは結婚しても屋敷にいるんですよ。それでいいじゃないですか」

「……お前は! いいか、結婚までは、絶対にディアナに手を出すんじゃないぞ! 約束だからな!」

「……分かってます」


 ロミオは不機嫌だ。父とロミオはいつも、ディアナの貞操の危機について定期的に会話している。目の前で話されて、恥ずかしいんですけど。この点はロミオは父にまったく信用されていないようだ。まあ、キスについては、父は見て見ぬ振りで許してくれているようなので、父は寛大だと思う。


 夕食を終え、風呂に入り自室でゆっくりしていると、ロミオが訪ねて来た。最近寝る前までは、いつも部屋に来てくれる。


 いつものように、ディアナを抱き上げたロミオは、ソファーに座った後、ディアナを膝に乗せた。ちなみに、ポポはロミオが来た時点で、部屋の遠くへ移動した。ロミオから逃げたとも言う。


「お兄様、部屋の改装の提案書を貰ったの」


 結婚に会わせて屋敷の一部の部屋を改装することも予定していた。それぞれの自室以外に、夫婦用の寝室や共通の部屋をいくつか作ろうとしているのだ。


「こういうの見ると、本当にもうすぐ結婚するんだなって実感するね。結婚式の流れとか招待客とか、考えたり忙しいけど楽しい」

「……そうか。それなら、婚約期間を作るのは結果的にはよかったな。最初は内密に教会で結婚する予定だったから」


 ディアナ達の婚約が発表された後、友人たちは喜んでくれた。「ロミオ様のシスコンは重度だなって思っていたけど、あれは実は兄妹じゃないって知ってたからなんでしょ? 納得したわ~」と、ディアナをそっちのけで、実は血の繋がらない兄妹の禁断愛! というストーリーに、友人たちは妄想を膨らませて楽しんでいた。


 内密に結婚ではなく、みんなに祝われる結婚ができるのは嬉しい。


「うん。婚約期間を作ることを了承してくれてありがとう、お兄様」

「……そんな風に言われると、もう父上に苦言を言えないだろう」

「ふふふ。婚約期間も、あと三ヶ月ちょっとよ。忙しいから、あっという間に結婚式になると思う」

「その三ヶ月が長いんだよな……。お預け喰らってる俺の身にもなってくれ」


 ロミオはディアナの首筋に唇を当てる。


「ちょっ!? お兄様! お父様との約束は!?」

「まだ首にキスしただけだろう」


 そのキスが危ないのだ。エスカレートするのは目に見えてるのだから。焦りながら口を開く。


「駄目ったら! キスするなら、唇にして!」

「……最近、ディアナから強請るのが上手くなってきたな?」


 ロミオがニヤっと笑った。やっばい。また際限のない口づけが始まりそうだ。まだ結婚式について、話したい事があるのに。


 結局、二人は寝る寸前まで、繰り返し口づけすることになるのだった。





 それから三ヶ月以上過ぎた天気の良い日、モンタール公爵家の後継者ロミオとディアナは結婚式を上げた。大勢の招待客に見守られ、幸せな結婚式だった。


 ロミオとジュリエットのように、教会で結婚の契約ができない、なんてこともなく、無事、結婚は契約された。


 ディアナとロミオは夫婦となり、これからたくさんの幸せが待っている。


おわり

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ロミオとジュリエット-平行線- ~悲恋な兄の恋路を邪魔する義妹は悪女ですか?~ 猪本夜 @inomotoYoru

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