第12話 クリスマスは登校最終日
翌日。12月25日。
今日がクリスマスであることは言うまでもないことだけど、それと同時に、2学期の終業式でもある。そのため、学校は午前で終了だ。
明日からいよいよ冬休み。
―――といっても、俺の日常に何か特別変化があるわけではなく、今日も俺は教室で1人、休み時間を過ごしている。
隣にはいつものように大村くんがいて、彼を中心に男子たちが盛り上がっている。
しかし、そんな大村くんのテンションは……
明らかにいつもと違っていた。
めっちゃテンション高い(笑)
原口さんとの昨晩のあれやこれやを、とても熱量のこもった語り口で話している。そして、彼の周りのみんなは今日も今日とて、言っちゃアレだけどノリだけの、中身の伴わない合いの手を入れている。一応は、盛り上がってるみたいだけど……
正直、聞いているこっちが恥ずかしくなるレベルだ。
あの小動物系可愛い原口さんが……
まじか……
聞かなかったことにしよう。
うん。
しかし、そうしたいと思いつつも、その会話のせいで、どうしても昨日の別れ際の高篠さんとのやりとりを思い出さずにはいられない。
俺は大村くんとは違って健全な高校生だから、高篠さんの「ウチ寄ってく?」だけで、もう無理だった。
限界だった。
だが結局、どさくさに紛れてってのもあったとはいえ、何もできなかった俺は……
いや、そもそも俺は高篠さんとのスタートラインにすら立てていなかったわけで。
最近は高篠さんに距離を置かれているような気がしてたけど、昨日、少なくとも彼女に嫌われてはいなかったことを知って、それだけでほっとしてしまった自分がいる。
でもそれがダメなことかっていうと……
そんなことはないんじゃないかって思う。思いたい。
別に自分たちのペースでいいじゃないか。
周りに合わせて、それで焦る必要なんてない。
だから俺は、今日から少しだけ、本当に少しずつ、高篠さんとの距離を近づけてみようと思う。
俺たちの気持ちがちょっと接近する。その度に、ささやかな幸せを感じながら。
一歩だけなら…自分に自信がなくて臆病な俺でも踏み出すことができるから。
さっきはいつもと変わらない日常、なんて言ったけど、そんな俺も、昨日までとは違っているのかもしれないな。
「……で、蒼真はどうだったよ。お前の好きな高篠さんに、何かアプローチはできたか?……おっとわりい、あんま聞いていいことじゃなかったよな!まああれだよ、元気出せって、な?」
ふと、大村くんに声を掛けられる。
時計を見ると、休み時間の終わりが近づいていた。
それは大村くんのいつものセリフだ。
今日の彼は上機嫌。俺を見下すことでさらに優越感に浸りたいところだろう。
ふと、高篠さんの席の方に視線を移す。
これまでに何度も繰り返された大村くんとのやり取りだけど、俺はそのとき怖くなって、どうしても高篠さんの方を見ることが出来ずにいた。
勿論、彼女のことを目で追うことで、さらに大村くんにいじられるのが嫌だった、ってのもあるけど。
―――それ以上に、俺は高篠さんがどんな表情をしているのか見るのが怖かったんだ。
大村くんたちの話になんて興味ありません、といった風に、聞こえなかったフリをしているかもしれない。
それなら、まだ良い方だ。
俺なんかと付き合っていることなんて、絶対に言いふらすなよ、って。
そんな顔をしていたらどうしようって。
不安で仕方なかった。
だけど、今日の俺は違うんだ。
大村くんに気づかれないように注意を払いながら、俺は横目で高篠さんの席の方を見た。
すると彼女は……
寂しそうにこちらの様子をちらちらと伺っていた。
―――これはどういう意味だろう?
俺はつい、考え込みそうになる。
俺の言動に何か後ろめたいことがなかったか探して、つい悪い方へと考えてしまいそうになる。
だけど、そんなものなんてない。
俺は彼女のことが好きなんだ。
そんな大好きって気持ちを、ずっと押し殺すように生きて、何になるっていうんだ。
あんな高篠さんの表情……
―――それは、これからも俺らの関係を隠し通してくれってニュアンスには、とても捉えられなかった。
だから、俺は自分のしたいように、はっきりと伝えることにした。
「いや、俺高篠さんと付き合ってるけど」
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