48. 色とりどり

 私とルーシーは映画が終わったあとも定期的に会っている。あの映画の関係者たちとは今も連絡を取り合うし、たまに皆で集まってパーティーをしたりする。寿司パーティーが開催されることもある。


 ジョーダンの家で飲んだ帰り、ルーシーは珍しく酔っ払って千鳥足になっていて心配だったので家までついて行くことにした。


 ルーシーは最近の仕事で疲れやストレスが溜まっていたらしい。彼女は部屋の床に投げ出された私の両膝膝の上に頭を乗せひとしきり泣いた。私はいつものように泣いている彼女の髪を撫でてやった。


「やっぱり、私はあなたのことが放っておけない」


 私の膝の上に後頭部を乗せ仰向けになったルーシーは、そんな台詞を吐いた私の目を覗き込むように見つめ涙で滲んだ目を細めた。


「それは……私に恋をしてるから?」


「調子に乗るな」


 額を手のひらで叩く振りをするとルーシーは口を尖らせた。


「何よ、この乱暴者」


 私は乱暴者と言われたお返しに尖ったルーシーの口にキスをする振りをしてやろうとした。だが身体が硬すぎるあまり唇には全く届かず、ただ上体を前のめりにしただけのおかしな体勢になった。


「何やってるの? リオ」


 怪訝そうに尋ねるルーシー。


「何でも」


 姿勢を元に戻しUmiの最近発表した"Variousヴァリアス"という曲を口ずさむ。彼女にしては珍しい失恋をテーマにしたラブソングで、いろんな感情に翻弄されて苦しんでいるというもろに私への気持ちを歌ったものだった。


「あなたの声、好きだわ」


 ルーシーが微笑んだ。


「ありがと。じゃあ結婚しよ」


 世にもあっさりすぎるプロポーズに目を丸くしたルーシーに向かって「冗談だよ」と戯けてみせる。ルーシーは「ビックリした」と安堵の息を吐く。


「だけど、あなたをお嫁にもらう予定は無くなってないからよろしく」


 これは以前から何度も伝えていたことだった。ルーシーはそのたびにはぐらかしていたが。当たり前だ。私たちはまだ恋人にすらなっていないのだから。


「そうね、いつかはね」


 ルーシーは笑顔で短い返事を返した。驚いてもう一度彼女の目を見つめた。身体が固まった。


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