追憶50 HARUTOとMALIAを仕留める為の最後の一手(鞭使い、INA)

 蛇腹剣による名も無き鞭擊べんげきJOUジョウに食らい付く寸前――凄まじい斥力が生じて、明後日の方向を空振った。

 カウンター気味に、坊主の非実体鞭があたしへ迫る。

 届かない――と一瞬思ったものの、あたしは考えを改めて退避。

 秘文字がにわかに増幅し、土壇場でリーチを伸ばしてあたしの肩口を掠めた。

 そう言う“必殺技”なのだろう。

 ほんの数ミリかすっただけで、あたしの身体が大きく弾かれ、骨が軋んだ。

 時間加速は順調に進んでいるようだ。

 通常攻撃の禁止、か。

 手数で勝負するあたしには、些か不利なルールを課せられてしまったものだ。

 あたしは、両手の鞭を交差させた。

【紅蓮螺旋】

 蒼い焔と紅い焔を宿らせた双鞭が、左右からJOUジョウを挟撃。

 ギア・ヘイストによる加速に飽かせ、あの坊主が避ける動線を全て閉鎖した一撃だ。

 紅炎の鎖鞭を辛くも躱されたが、蒼炎の蛇腹剣が文字通りの袈裟懸けに坊主の胴体を引き裂いて燃やした。

 先の教訓を踏まえて、あたしは大きく間合いを離した。

 坊主の秘文字鞭が先端で二又に分かれ、あたしの居た地点を直撃。衝撃で土がし拡げられ、小さなクレーターを作った。

 痛みに全く頓着が無い敵。

 それは同時に、鞭を当ててからすぐに退避しなければ確実にカウンターを貰う事も意味する。

 だが、例え痛みを問題としなくても、断じて不死身では無い。

 本人の認識がどうあれ、物理的な損壊は確かにある。

 ヒット&アウェイで、奴の肉体を維持不能なレベルまで破壊するだけだ。

 そして。

 奇しくも、間合いを離した事で分かった事がある。

 蛇腹剣に削ぎ落とされた坊主の肉が、紅蓮螺旋の焔に焼かれた所から修復されている。

 蛇腹剣による切創が焔で燃焼すると、治癒する。

 これが、奴の変異エーテルか。

 暫定的に、“属性吸収能力”と仮定しよう。

 その性質が、たまたまRYOリョウのそれに近かった事が、あたしの理解を早めてくれたと思う。

 坊主が、手元で印を結んで念仏を口にし出した。

 あのスタングレネードみたいな術【蒙昧道もうまいどう】か。

 前回は遅れを取ったが、今回はさせない。

瞬交閃しゅんこうせん

 双鞭でクロスを描く、あたしの中で最速の技。

 絶影が坊主の喉を打ち、強引に発声を阻止した。

 今や、あたしの視点で、奴の動きはスローモーションも同然。

 ほんの一句、「蒙昧道」と唱えるだけの間が、途轍もない無防備になる。

 JOUジョウへのリベンジ戦が結局ギア・ヘイスト頼みだったのが、やや気に食わない。

 こんなので、純粋な鞭勝負と言えるのかは分からないが。

 ――今回はあたしの勝ちだ、生臭坊主め。

友引破砕殺ゆういんはさいさつ

 あたしは、鎖鞭で坊主の首を巻き取った。

 そのまま奴の身体を力任せに振り上げて、


 背後から迫る、半焼死体ながら生きていたHARUTOハルトの脳天目掛けて振り下ろす。

 

 HARUTOハルトは、襲い来るJOUジョウの身体を、特大メイスで打ち払って逸らした。

 坊主の身体はボロ雑巾のようにくたびれ、地面に突っ伏した。当然、もう動く事は無い。

 やはり、今のあいつは仲間を躊躇無く迎撃するか。

 ……いや、それよりも。

 に近い。

 時間加速で、現在三倍速に達したあたしと比べて、である。

 単純な話だ。

 副作用度外視で、許容量オーバーの強化バフを掛けたのだろう。

 別のポストアポカリプスゲームでも、ユニークスキルで超反応を得たあたしに対し、似たような手で対抗して来た事がある。

 今の場合、自分の魔法の反動であいつは早晩死ぬだろう。

 このまま逃げ回れば、あいつ“個人”には勝てるが。

【断頭昇龍斬】

 あたしは勝負に出た。

 鎖鞭であいつの脚を巻き取り、頭上高くに放り投げる。

 宙で無防備となったあいつの首を、もう一歩の蛇腹剣で掻き切――、

 

 宙でパイクを実体化させたあいつが、それをあたし目掛けて投擲。

 長槍は綺麗な直線を描き、あたしを心臓から串刺しにした。

 

 やっぱりね。

 後一手でHARUTOハルトを殺れたと――、

 欲張り、過ぎたか。

 破れた心臓から、腹から背中に開通した裂け目から、全身を賄う血液がたちまち零れ出す。

 回復役のTOMOトモが死んだ今、あたしももう、助からないだろう。

 視界の端で、凄まじい振動と崩落。

 見れば、MALIAマリアが、大魔法の【ミーティア・リバース】を完成させた所だった。

 地面が逆回しの流星群となって、RYOリョウを呑み込んだ。

 彼一人を殺す為に、大技を使わされたでしょう、MALIAマリア

 ざまは無い。

 いよいよ、鞭を握る握力が無くなった。

 死ぬまで秒読み段階に来た。

 

 これで、良い。

 

 あとは、

 たった一人残された、EIJIエイジ

 あんたにこの勝負を託す。

 

 例えあたし個人が負けたとしても。

 最後に戦略で勝てば、それで良い。

 今まで散々、HARUTOハルトから叩き込まれた事だった。

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