第9話 道化師
あの後鎌瀬さんに続いて、2人の守護者が集合した。鎌瀬さんいわくチームメンバーであり戦友とのこと。
1人は茶髪を肩辺りで切りそろえた髪型で、愛嬌のある可愛い顔のお姉さんだ。名前は
2人目はちゃらちゃらした感じのお兄さんで、実際にチャラついている。黒髪に金色のメッシュが入っているので、遠くからでもわかりやすいと犬川さんがいっていたが、たしかにそうだと思う。
名前は
今も冬柄さんや子狐さんにちょっかいを掛けて、犬川さんに踏まれている。多分そういう人なんだろう、扱いが雑な感じの可哀想な人だ。
「とりあえず俺たちは北と西と東区域を見回るから、君たちは南をパトロールしてくれ。なにか困ったことがあれば支給されたこのバッチから連絡がとれるから、そこから聞いてくれ」
接敵時は戦闘が許可されているが、建物などはあまり破壊してはいけないので、必ず連絡を入れることが条件となっていた。
そんなわけでパトロールが始まった。
この商店街は首都付近ともあって近代的かつ広大に発展している。昔ながらのシャッター街を想像していた僕は、そこら中に立っているビルや店に恐縮していた。
「ひろくない?」
「人が集まる所には物も集まるものです」
「なにカッコつけてんだよ冷凍女」
「うるさい、凍らすわよ?」
「上等だ!てめぇの氷なんぞ水にして蒸発させてやんよ!」
「あんたの炎も氷点下まで冷凍保存してあげましょうか?あー、保存するのもおこがましいわね。埋立ごみになるかしら?」
エンマ君と冬柄さんがギャーギャーと言い合いを始め、早速このチームでのパトロールに不安を覚え始めた。
「ふたりとも、喧嘩はよくない…」
とりあえず声をかけておく精神なのか、子狐さんが感情のない言葉でポツリと言った。しかし当然それを聞く耳を持つわけがない二人は、バチバチと火花と氷をチラつかせ、いがみ合っている。
「なんか…平和だなぁ」
観客的にみると危なっかしいが、よくよく見れば加減されている取っ組み合いが始まる
「風船はいかがかな?」
急に後ろから声が聞こえ、振り返る。
気配がなかったことに一瞬驚いたが、そこに広がる光景でさらに驚いた。
「ピエロ?」
僕の視界いっぱいに広がるピエロの顔
サーカス団によくいそうな派手な格好をした男がそこにいた。
「イエスゥゥ!!!!今日はいぃぃい天気でっすね!ん〜こんな日はアオイ風船がお似合いだ。おっと少年の髪も青、いんや‼その深海を彷彿とさせるロイヤルブルー!!!!青空も霞むほど鮮やかな色だ……」
独特な喋り方にオーバーリアクション、自分の意志を体全体で表現しているような動きがまた奇妙で奇怪だ。
「ん〜!水色では足りなぁぁあぁぁいッ!深イ青を…」
そう言ってピエロは濃い青色の風船を渡してきた。
「あぁ…その青も少年の青に劣るッ‼おぉ、悲しきかな。お詫びの品をあげよう、バラ?それとも宝石?んぅもーしくは……世界なんてどうだろう?」
声が一オクターブ下がり、ニタリと笑ったピエロの手には、羊皮紙が握られている。
問題なのは、青く燃える炎に包まれながら出現したことだ。
「総員‼戦闘態勢!」
反射的に叫んだ、バッジを起動し攻撃態勢を整える。
周囲にいたエンマ君たちも、僕の切迫した声に気付き、すぐさま走り出してきている。
青く燃えるように出現した羊皮紙
それはユイとの契約書であり、狂気的な笑みでほほ笑むピエロは、獲物を狙うような目で僕を見つめている。
この場合考えれらるのは、ユイの母親が関連した強制契約
ユイの力ならば異能を強化したり、また別の力を授けることなど用意だろう。
そのことを唯一考えることができ、懸念できる僕だからこそ動ける瞬間だ。ピエロに今最も近い僕がやらなければならない!
「瞬間四倍強化ッ‼」
全力で踏み込み右手を突きだす
しかし、本来なら届いたはずの手は、空間がガラスのように割れたことで届かなくなってしまった。
気づけばもうそこは相手の異能の術中
にぎわっていた商店街は、ピエロの遊園地のように変わり果て、空はどす黒い赤と真っ黒な雲が渦巻いている。周囲から困惑する声が上がり、周りの人も巻き込まれていた。街並みが急変したことに人々は困惑し、パニックを起こす。
「なにが起こってッ!」
「世界に引きずりこまれてしまったようね」
焦る僕の隣から、説明するように冬柄さんが言った。
「一度だけですが似たような異能を見たことがあるわ。このタイプの異能は自分の周囲に結界のようなものを展開し、その人独特の世界を作り上げる異能のよ。私が見たのはせいぜい5m程度だったはずだけど…」
「だったら相当やべぇんじゃねぇか?この規模の異能ってなら相当の熟練者だぞ」
「そこら中から、ヤな気配がする…危険」
「守りは任せろ、警戒をおこたるでないぞ」
五人それぞれが背中合わせのように円を作り、周囲を警戒する。
「ようこそぉぉぉ!!!私のサーカスへ!今回のショーは商店街の皆さまをお招きしましたッ‼この世界を出る方法はただ一つ!私を見つけることぅぅ」
突然商店街全体にいきわたる声は、先ほどのピエロの声である。
「でーすがッ!ただ私を探すだけではぁあぁぁぁぁあぁおもしろくなーい!そこで‼私の仲間たちでショーを盛り上げようではないですか!」
パチンと指を鳴らすような音が聞こえた瞬間、いたるところからピエロが湧いて出る。それらはどれも僕が会ったピエロとは少し違った格好をしており、風船やロケット、花火やボール、フラフープから大きなハサミまで、多種多様なものをそれぞれが持っていた。
「ルールは簡単、数々のピエロからこの私を見つけるのみ!あ~、ですが…そのピエロたちは少々やんちゃでしてねぇ…」
すると突然悲鳴が近くで響いた、自然と視線が悲鳴の発生源に向かう。
そこにいたのは30代ほどの女性だ、腕を抱えて苦しんでいる。
よくよく見ると腕が不自然な方向へ曲がっていた。
「おっと!さっそくピエロたちが動き出しましたぁ!ん~ッいつ聞いても悲鳴はいい物ですねッ!ワンダフルッ!!!!さぁーはじまりましたよ!今宵のショーは鬼ごっこ!鬼は全員、ピエロはあなた方を、あなた方は私を追いかけるデスゲームの開演です!!!!!」
甲高いラッパ音と共に悲鳴が響き渡り、ピエロたちによる虐殺が始まった。
一瞬にして血の海と化した惨状に、僕らはただ唖然と状況を飲み込めないでいる。
カッターの刃がついているフラフープが、逃げ惑う男性の首を飛ばした。
風船をもったピエロが、風船を割ると、近くの人の腕や足が捻じれる。
笛を持ったピエロが鳴らす音と共に、ライオンのような怪物が小さな子供を食い殺す。
「なんだよこれ…、ふざけんなよ、やめろ!殺すな、人を…関係のない人を…ッ‼」
「落ち着け、俺たちがやるべきことはココで突っ立ってる事じゃねぇ、あの腐れピエロの処理が先だ」
怒りに震える僕の背を叩き、エンマ君が走り出す。
一瞬ちらりと見えたその顔は、激しい怒りの表情であった。
「私も行くわ、さすがにこれは許せない」
冬柄さんも動き出す
「わたしはまだ助かる人たちの治療する、守りは…よろしく」
「任された」
「あんたは私とあのバカの援護よ、早く来なさい」
あぁ、ほんと凄いなぁ…
確かな怒りを持ちながら、皆それぞれ自分のできることを素早く判断して、動けるのだから…
尊敬するし、このチームでよかったと思う。
だから…
「わかった、僕も行くよ」
あのピエロは絶対に捕まえてやる
支配系異能が絶対の世界で僕は君の英雄になりたい アズリエル @azurieru
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