恋焦がれるあまりに魔王がとった行動

 ここはレイナザリアという世界。そして遥か南西部に位置するグレイブスと言う小さな火山島だ。

 その島の北西部の地中深くに、魔界都市デバスニイラがある。

 そこには多くの魔族が存在し暮らしていた。この都市の中央部の魔王城には、魔族の女王である魔王エマンア・イーダ・オジェウルがいる。

 エマンアは部屋で水晶を覗き溜息をついていた。


(ハァ~、どうしたものか。まさか妾が、このような人間の男を好きになるとはな……)


 すると目の前に突然、サキュパスのミュール・フェスが現れる。

 ミュールが現れためエマンアは、驚き慌てて手を翳し水晶を消した。


「エマンア様。慌てて水晶を隠されたようですが、どうされたのですか?」

「いや。たいした事ではない。それよりミュールいきなり現れて、どうしたのじゃ」


 そう言うとミュールは、エマンアに要件を伝える。


「……なんという事だ! 勇者を名乗る者が現れたと言うのか」


 エマンアはそれを聞き怒りを露わにして、側に置いてある紫の毒バラの刺さった花瓶を持った。そして、その花瓶を地面に投げつける。


「エマンア様、落ち着いてくださいませ」

「ミュール。なぜこの状況で落ち着けと?」

「はい、その者かなりの女好きと噂されております」


 それを聞きエマンアは考えた。


「女好きか……なるほどのう。それで、その勇者をどう仕留めるつもりじゃ? 勿論、策は考えておるのだろうな」


 そう問われるとミュールは頷く。


「エマンア様、少々お耳を……」


 そう言いミュールはエマンアの耳に口をあて、フーッと息を吹きかける。

 するとエマンアは「ヒャー」と叫び、体の力が抜け床に座り込んだ。


「……ミュール!?」


 エマンアは悔しそうにミュールを睨みつける。


「クスクス。相変わらず耳が弱いのですね」

「クッ……ふぅ、お前は悪戯が過ぎる!」

「アララ、いつになく怒ってるのですねぇ。ですが、エマンア様をからかうと面白いのでついつい。テヘ!」


 悪ぶる様子もなくミュールは、満面の笑顔でそう言った。

 それを聞きエマンアは、呆れて頭を抱える。


「ハァ、まあいい。それよりも、勇者が現れたというのは本当なのだろうな」

「はい、それは間違いありません。それで考えがあるのですが」


 そう言うとミュールは、その策をエマンアに伝えた。

 エマンアはそれを聞き、少し考える。


「……ミュール。その者は、まだ真の勇者として力を成していない。今であれば、お前の力で魅了できる。そうね……お前がいうように腑抜けにすれば、倒せるかもしれぬ」

「ただ、これはあくまで上手くいった場合となります。失敗すれば最悪、アタシは返り討ちに合うかも知れません」

「そうか……それは構わぬ。それで、その勇者の特徴を知りたい」


 そう言われミュールは苦笑した。


「ハハハ、相変わらずですね。……特徴は銀色の髪に凛々しい顔だち。右頬に小さな傷があり、アタシからみても……かなりのイケメンです」


 ミュールがそう言うとエマンアの顔は、驚きの表情へと変わる。

 そう水晶が映していたエマンアの思い人と、特徴が似ていたからだ。


「ミュール。もしやその勇者とは、この水晶に映っておる者か?」


 そう言いエマンアは水晶を出しミュールにみせた。

 そう聞かれミュールは、なんだろうと思いながら水晶を覗いてみる。


「あー、そうそう……コイツです。だけど、どうしてエマンア様が……この勇者を知っているのですか?」

「そ、それは……あまりにも退屈でのう。暇つぶしと思い……水晶を覗いたら、この男が映っておったのじゃ」

「暇って……。エマンア様! 水晶など覗く暇があるなら、もう少し教養を身につけてください!!」


 そうミュールに言われエマンアは、シュンとなり体を縮めた。


「ミュール……そうは言っても、嫌な物は嫌なのじゃ!」


 エマンアはそう言いミュールから目を逸らした。


「ハァ……。それで、なぜこの勇者をみていたのですか?」


 そう問われてエマンアは、モジモジし始める。


「それはのう……」


 そう言いエマンアは、その訳を話した。


「……なるほど。エマンア様は、その勇者が好きなのですね。それでは、こうしたらどうでしょう」


 ミュールは、とある計画を思いつき提案する。


 その計画とは、エマンアが人間に化けて勇者を射止めるというものだ。


 それを聞きエマンアは、もの凄く悩む。

 そう自分がこの城を離れるという事は、誰かこの場に影武者を置かなきゃならないからである。


「その案は、いいとして……妾の代役をどうするのじゃ」

「それならば、アタシがここを守っててあげます。ですので、ゆっくりと楽しんで来てくださいませ」

「そうか……そうじゃな。まぁミュールであれば、この城の護りも任せられるだろう」


 そう言われミュールは頷いた。

 その後、二人はじっくりと計画を練る。

 そしてエマンアは勇者を射止めるため、城を出て旅立った。

 しばらくしてエマンアは、人間の姿で想い人である勇者と出逢う。

 しかしエマンアは勇者にしつこく迫り逃げられた。それをエマンアが追いかける。

 そうここから勇者と魔王の、壮大な追いかけっこが幕を開けたのだった。


 ――って、そんな馬鹿な……――

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異世界系★創作集 ミケネコ ミイミ♪ @myimi

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