のれないブランコ

クロノヒョウ

第1話


 年末ということもあり、テレビではどのチャンネルも様々なジャンルの三時間の特別番組、いわゆる特番が放送されていた。


「あ、これこれ、これ見ていい?」


「ん? 心霊特集? お前好きだよな、こういうの」


「うん、好き」


 夕食の片付けを終えた千春は泊まりにきていた彼の隣に座り嬉しそうにテレビを眺めていた。


 心霊番組では珍しく生放送で人気のタレントがどこかのお寺の住職に話を聞いているところだった。


 住職の後ろにはたくさんの古い人形やおもちゃが並んでいる。


 おそらくどれも何らかのいわく付きでこのお寺に供養されたものなのだろう。


『住職、この中で一番これはヤバいっていうやつはありますか』


 タレントが小声でそう聞くと住職は迷わずそのおもちゃや人形たちの中からひとつを手に取った。


『これです』


『これ、ですか』


 住職が目の前に置いたのは古いおもちゃのブランコだった。


 ワインレッドの木枠で作られており背もたれのついた椅子がロープに吊るされている。


 興味深くそれを眺めるタレント。


『これはどういったものなのでしょうか』


『これはですね、元の持ち主の話しによると……』


 小学生の娘の部屋に突然このブランコが置いてあった。


 娘に聞いてもどうしてここに置いてあるのかわからないと首を横に振るばかり。


 母親はすぐに捨てようとしたが娘は気に入ったらしくこれで遊ぶと言ってきかなかった。


 仕方なくそのままにしていると夜中に突然娘が泣き出した。


 娘に訪ねるとブランコにのせておいた猫のぬいぐるみが床に落ちたらしい。


 翌朝家の前の道路で猫の死体が見つかった。


 たまたま車にひかれてしまったのか。


 そう考えようと思った母親だったが何だか気味が悪い。


 母親はやはりブランコを捨てようと娘の部屋に行った。


 娘は学校で作ったという紙でできた仲良しの女の子の人形をブランコにのせていた。


 母親は慌ててその人形をブランコから取り上げたが次の日その女の子は行方不明となり学校は大騒ぎとなった。


 娘を説得しブランコを捨てると約束させた母親はひとまず安心していた。


 しかし次の日の朝、ごみ捨てに行こうとしたところあのブランコが見あたらない。


 もしやと血相を変えて娘の部屋に入った母親は泣き崩れた。


 娘が肌身離さず大切にしていた人形がブランコにのっていたのだ。


 そして娘の姿はどこにもなかった。


 母親は泣き叫びながら自分が着ていた服と自分の髪の毛で人形を作った。


 そしてブランコにその人形をのせた。


 帰宅した父親は心の底から後悔していた。


 妻からブランコのことは聞いていたがそんなものただの偶然だし考えすぎだと笑い飛ばしていたことを。


 妻と娘が行方不明になり憔悴しきった父親がブランコをこのお寺に持ってきたのだという。


『住職、それ本当に真実なのですか?』


『恐ろしいことに全て真実でした。父親は奥様と娘さんの捜索願を出していました。いまだに行方はわかっていません』


『どういうことなのでしょうか。こうやって間近で見てもこのブランコがそんなに恐ろしいものだとは信じられませんが』


『私もそう思いましてこのブランコのルーツを探ろうとしました』


『はい』


『すると翌日、同じようなブランコが手紙と一緒に郵送で送られてきました』


『え? どういうことですか?』


『このブランコはどうやら全国各地の家に突如として現れるようです』


『なんですって?』


『見てください、これを』


 そう言って住職が隣の部屋の襖を開けた。


『ひぃ!!』


 そこには大量のおもちゃのブランコがところ狭しと並べられていたのだ。


「うわっ」

「何だよこれ」


 テレビを見ていた千春とその彼も思わず顔を背けていた。


 異様な光景は恐怖そのものであった。


「……ちょっとまてよ千春! あの玄関に置いてあるブランコ、あれってまさかこれじゃないよな?」


「は? 何言ってるのよ。私ブランコなんて置いてないわよ」


「でも俺が来た時確かに玄関のシューズボックスの上にブランコがあって……何ものってなかったから寂しいなって思って俺……」


「ちょっと! なに? 何をのせたの?」


 二人の顔が青ざめてゆく。


 千春の家に入ってきた時彼はブランコの横に置いてあった二人で撮った写真が入っている小さなフォトスタンドをそっとブランコの上にのせていたのだった。


『全国の皆さん、もしもご自宅に突然おもちゃのブランコが現れても決して何ものせないでください。これは冗談ではありません……』


 誰もいなくなった千春の部屋のテレビでは住職が視聴者に向かって真剣な表情でそう訴えかけていた。



           完





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