第8話 『噓つき』


    引き継ぎ(アイリス視点)

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魔女が私たちに姿を現したあの日から、2日目の朝、(時間列では3話~4話の間)

私はいつも通り朝食をとり、魔法省へと足を進める。


(今日も、夜空さんの情報はないか…………捜索隊も役に立たないわね……)


私はスマホをしまい、青信号になった横断歩道を渡って、すぐそこにある魔法省に

向かった。


「おはようございます」


私の姿に気づいた佐藤さんが声をかけてくる。


「佐藤さん、おはようございます」


佐藤さんと挨拶を交わし、私は魔法省内の自室へと向かう。


「っち! また来やがったか」


すれ違い際に小声で私の悪口を言う魔法少女。


(バレバレだっつーの……)


自室につき、私はベッドに倒れこむ。


(大丈夫、私! 夜空さんはちゃんと帰ってくるって、約束したんだから!)


今の私に、夜空さんがいなくなれば、私どうなるのだろうか。

想像しただけで吐き気がする。…………せめて、まだましな魔法少女がいれば

いいのだが…………と私が考えに浸っていた時。


…コンコン、ドアをノックする音が聞こえた。


「……佐藤です、…少し、個人的なお話があるのですが……よろしいでしょうか?」


(佐藤さんが、私に話があるって……何の話だろうか)


「…はい、私なんかの部屋でよければ、どうぞ」


私は自室のドアを開け、佐藤さんを中に迎え入れ、椅子に座るように誘導する。


「…それで……要件はなんでしょうか?」


私は、ベッドに腰を下ろして佐藤さんに見やって語り掛ける。__すると、佐藤さんは

申し訳なさそうに、灯に語る。


「単刀直入に言います。……夜空さんの捜索を、アイリスさんにやって

いただきたいのです」


「…………………………は?」


私は目を丸くする。


「驚く気持ちも分かりますが、どうか、お早めに決断していただきたいのです」


淡々と語る佐藤さん。


「……、ど、どうして、私なんですか?……捜索隊に任せた方が……」


「その探索隊が出動してないのです」


「………………はぁ!??」


私は立ち上がり、怒鳴りつけるように叫ぶ。


「ど、どういうことですか!!どうして捜索隊が動いてないんですか!!」


佐藤さんの胸倉を掴みながら私は問う。


「…………断られたんです。最高司令官に、……Aランク魔法少女には探索隊は

必要ないと……ですが、私は納得できませんでした。……色々考えましたが、

個人的に探すことにしたんです。……私だって夜空さんには、お世話になって

いますので …………」


いつもの彼女と違い、悲しげな表情を見せながら話している。

その仕草だけで夜空さんが、どれだけ慕われてるのかが分かる。


「……わかりました。一緒に探索しましょう。……それと、さっきはごめんなさい、

熱くなってしまいました」


私はその誘いに乗り、先程の出来事を佐藤さんに謝る。


「いいえ。貴方の気持ちは私もわかります。

ですので、気にしないでください」


表情ひとつ変えない佐藤さん。


「では、捜索に参りたいのですが、普通に

捜索していても魔法省にはバレてしまいます。

なので、野獣の依頼が来てから捜索に参ります」


佐藤さんがそう言いながら一枚の紙を私に

渡してきた。


「これは魔女が現れた場所からすぐ近くに

出現した野獣です。これを討伐しながら

捜索をしていただきたい。……私は基本的に捜索には出られませんが、裏から探してみようと思っています。大変なのは承知の上ですが、どうぞ、よろしくお願いします」


彼女は立ち上がり深々くお辞儀をした。

そしてそのまま、退出していった。


「……さて、私もやらないとな」


私は野獣討伐のために準備を整えて、その場を後にした。


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________私が山の中に入ると、前に来た時と違い、異様に辺りが静まり返っている。

これも、野獣の影響なのだろうか……。しばらく歩いていると前回襲われていた、

小さな小屋を見つけた。私は少しでも手当たりがないかと辺りを見渡す。

____すると、


ガサッ


小屋の中から小さな音が聞こえる。


(……誰かいるの?)


私は僅かな期待と不安を抱えながら小屋の扉を開ける。

小屋の中は殺風景で、所所湿っていたりガラスが割れている所があった。


しばらく部屋を捜索していると、子供一人くらいなら入れそうなクローゼットを

見つけた。……私は魔法の杖でクローゼットを軽くつつく、すると小さな音と共に

クローゼットが揺れた。


(ここが、さっきの音の正体か)


私は少し残念な気持ちになったが、気持ちを切り替えてクローゼットを開ける。


「っ!?」


私は目を見張る。クローゼットの中にいたのは、7歳ぐらいの小さな女の子だった。


「み、見つかっちゃったの! た、助けてお母さん!! た、助けて!」


女の子は私の姿を見ると慌てだし、泣き始めてしまった。


「っ!?お、落ち着いて!!私は怖い人じゃあないよ!!」


私は、唐突すぎて一瞬困惑するが、女の子を落ち着かせるために言葉を発する。


「メイ!騙されないの!あなたは多分魔法少女なの!メイ達にひどいことする

やつなの!」


この子の名前はメイちゃんと言うらしい。


「こいつは重症だな」


私の髪の毛からでてきたこいつは私のパートナー精霊のアル君、人見知りで余り姿を

現さないが、私のことを励ましてくれたりする優しい子なのだ。


「とりあえず、早く話を聞いてやれよ」


「あんたに言われずともそうするわよ……」


私はちょこんとメイちゃんの目の前に座った。


「……ねぇ、メイちゃんなんで魔法少女をそこまで警戒するのか、教えてもらってもいい?」


私が真剣な表情で答えると、少し警戒心を解いたのか涙を引っ込めながら話す。


「野獣がどっかに行って村の人達が避難所から出て行ったの。メイもお母さんに

連れられて一緒に出ようとしたの、……で、メイ達が出るときに村の村長さんが

叫んだの、メイたちは気になって、どんどん集まっていったの、見に行ったら、 魔法少女って名乗る女の人が村人をどんどん人を刺してきたの、メイは村人たちが一生懸命に逃がしてくれたの、だから、メイは魔法少女怖いし、嫌いの!」


「……酷い」


メイちゃんから聞かされたものは、あまりにも残酷だった。

私と同じ魔法少女が行ったと思えないくらいに……。


「……わかった、私、その魔法少女をやっつけるよ!」


私は力ずよく宣言する。


「……嘘なの、……そんなことをお前に得がないなの」


「得なんていらないよ、……ただ単純にそいつが許せないだけだよ」


「でも、お前がここに来たのはなにか用事があるの」


「大丈夫、用事はいつでもできるから!」


私は村に向かって歩きだす。


「私を信じて、待っててよ!」


私はメイちゃんに振り返り、安心させるように笑顔を見せ、小屋を後にした。


「……珍しいな、お前があんな風に振舞うなんてな……」


髪の中で私に語り掛けるアル。


「…………どっかの先輩にあこがれちゃって……」


「これは帰ったら自分がしたことが痛くなって悶絶するパターンだな」


「そこっ!うるさいよ!」


そんな他愛のない会話をしながら私たちは村に向かう。


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しばらく歩くと村が見えてくる。


(あそこに魔法少女が……………………)


心の奥がメラメラとうずいているのがわかる。


(私だって、困っている人を助けるんだ!準備はしてきた、後は自分が出来る

最大限のことをしよう)


私は腹をくくり、村めがけて歩き出そうとした時だった。


ザシュ


そんな音が響き渡る。飛んできた針に右肩を刺されたのだ。


「っ!!」


私は苦痛な表情をしながら、飛んできた方角をみる。___するとそこには、


「…へぇ~? 今のでも死なないんだ~?」


金色の髪をしたツインテールな女の子がいた。

服装は着物とドレスを融合させたかのような衣装で、一目見て、

魔法少女だとわかった。


「……あんたがこの村を襲ったっていう魔法少女か…」


私は溢れ出す血を抑えるために右肩に左手を置きながら話す。


「へぇ~、そこまで知ってるんだぁ~、…なら、死んでもらおうかなぁ?」


金髪魔法少女はべらべらと喋り、嘲笑いながら突っ込んでくる____________が、


(遅い……)


私は金髪魔法少女の拳をよけ、お返しと言わんばかりに氷魔法で肩までコーテイング

した拳を、金髪魔法少女に浴びせる。これなら多少動かしていても問題ないはずだ。


トゴッ

「ぎゃあ”あ”!!」


鈍い音を出しながら吹き飛んでいく、

金髪魔法少女。


「……そんな程度じゃあ私には勝てない」


吹き飛んでいった金髪魔法少女に、私は

淡々と告げる。


「(ランクはCランクといったところかな)」


「(この程度なら、その通りだと思う……)」


金髪魔法少女を探しながら私たちは

アルくんの能力を使って、頭の中で

会話する。____しばらく歩いていると、

崖を背に体を支えている金髪魔法少女が

こちらを睨んでいる姿が見えた。


「……っ!く、くそガァ!!」


「今まで自分がやってきたことを反省しなさい」


叫ぶ金髪魔法少女を、魔法省で配られる、魔法少女専用の縄でくくろうとした

その時だった。


ドタッ

「?」


私の体が座り込む、起き上がろうにも力が入らない。すると金髪魔法少女は

苦笑いをして____


「今更効いてきたのかよ……」


愚痴るように言葉をこぼす。


「な……に、が……」


「うちが最初に放った針はうちの固定能力である毒を入れているんだよ。

……初見じゃあ見破れないだろう?……あーあ、うちがこんなボロボロじゃあなければ

いくらでもいじめられたのに……一撃で終わらせることしかできなさそうじゃん」


金髪魔法少女はのこのこと歩いてきて、私の首筋に針のような剣を出現させる。


「じゃあ、さようなら」


そう言い残した金髪魔法少女は私の首筋目指して____________


ドスン


地面が揺れる音がする。うつ伏せの私がわかることはただ一つ、巨大な生物がこちらに向かって来ていること。


「な、なにあの化け物……」


金髪魔法少女が絶望するかのように呟く。


「っ!!」


完全に私を見ていない彼女から逃げるように、コロコロと……

アルくんに転がされながら小さな洞窟へと避難する。


外では、「こ、こっちに来るな化け物!!」


叫ぶ金髪魔法少女の声や鉄が割れる音、

更には獣の雄叫びまでも聞こえた。

____しばらくすると


「ふざけ……」グシャリ 、何かが潰れる音が聞こえ、それ以来、

彼女の声が聞こえることはなかった。


「このままでは見つかる!……魔法省へ救助要請をだせ!!」


的確に指示を出すアルくん。私は急いで佐藤さんに電話をかける。


【……もしもし、佐藤です。何か手がかりでも見つけm……】


【すみません!救助要請をお願いします!】


私は早口で要件を伝える。


【……わかりました。司令官に知らせてきます。急ぎますので通話は 

そちらが消すなりしてください】


佐藤さんは冷静に判断し、テキパキと行動する。ものの数分に

最高司令室が開く音が聞こえる。……ようやく、救助隊が来るのだと、

誰もがそう思っていた。


【司令官、魔法少女アイリスから救助要請が送られたので、救助t……】


【くどい!……何回も言わせてくれるな、魔法少女には救助隊など必要ない】


「…………………………………………………………………………はっ?」


思わず声が出た。


【……何の為に救助隊があると思ってるんですか!!】


珍しく 佐藤さんが声を荒らげながら口をする。


【救助隊は市民のためにあるものだ。魔法少女如きが使っていいものではない】


司令官は平然と答える。


【…………もういいです。私一人でいきまS……】


私の為に、佐藤さんが意を決して助けに行こうとするが、


【………………魔法少女達よ…反逆者を捕まえろ】


【「っ!?」】


私は息を呑み、ただただ呆然とする。


【佐藤さん、悪いけどあいつを助けにいくなら、容赦はしないよ?」


スマホから、一人、見知った声が聞こえる。


(こ、この声は……朝、私の悪口を言っていた魔法少女!??)


【舐められたものです。……私はこれでも

Aランク魔法少女ですよ? Cランク程度が

束になったところで私には勝てません】


【でも今はただの一般人、変身する前に

貴方の身動きを封じれば、

どうってことないでしょう?】


【っ……】


会話が聞こえる。……だが、私にはもう

スマホから聞こえる声に反応をすることすら

できずにいた。


ドンッ!

洞窟が揺れる音が聞こえる。__野獣に私の 位置がバレたのだ。


「ふざ、ふざけるな!」


ドンドン!

数回殴られただけで、洞窟にひびが入る。 


ドン!

遂に洞窟が壊れ、その衝撃で私の体は

いともたやすく吹き飛ばされる。


「う、うぐ…」


うずくまる私に近づいてくる化け物。

________私の姿を見た化け物はニヤリと

笑みを浮かべながら……じっくりと、

数日間かけて私を弄んでいく_______________

_________________________________________


●月●日 今日は腕を噛まれた。じわじわと手から肩まで……アルくんは、ひと足先に

旅立ったよ。


●月●日 今日は身体中を抉られた。

……もはや痛みすらない。


●月●日 佐藤さんとの通話がまだ繋がっていたようだ。……誰かの声、いや、

ゴミ魔法少女の声が聞こえる。


【本当に、あのゴミを始末できて良かったわ。……佐藤に関しても、身動きさえできないようにして、どこかに捨てといたから、……ふふふ、私ってばなんて素晴らしい人間なんでしょうか!】


「……………………………………あの、女」


●月●日 どうやら、ようやく私は野獣に

食われるらしい。……バキバキと骨が砕ける

音が聞こえる。もはや、恐怖の感情すら、

微塵もない……今の私に残されたたった一つの感情、それは___________________________



   魔法少女を憎む気持ちだけだ。

         バクッ

___________________________________________________________________________


遅くなりました!!いえ、遅くなりすぎて

しまったかもしれません!  ゴメンナサイ!


  次回 第9話 『私の気持ち』 です。

       ホントニゴメンナサイ

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