第6話 リッカ、正式に臨時講師に就任する

「じ、自分でゼロから魔法を……構築して開発……!?し、しかもそれを属性からって事?あり得ないわよ!」


 ルジアが驚きの声を上げる。無理もない。使う自分も未だに全てを理解出来ている訳ではないのだから。


 本来の魔法は地水火風を原則に属性が存在し、そこから氷や雷といった形で属性が分かれていく。それらを基に先人達が築き上げた魔方陣や詠唱を軸にして自身のイメージを組み立てていく。


 だが、自分が一人で色々と試行錯誤している際に編み出したこの魔法は現時点ではどの属性にも当てはまらなかったのだ。いまだ信じられないといった顔のルジアに声をかける。


「おい、口開いたまんまだぞルジア。まぁ、正直俺自身もまだ良く分かってないんだがな。それに関しては幸い、この学園には俺も始めて見るような色んな資料や書物が揃っているし、講師の合間にそれらを見ながら詳しく調べられたら良いとは思っているけどな。あ、もちろん講師として引き続き働けることになったらの話だけどな」


 慌てて口を閉じるルジアの横で、再びオルカが手を上げ質問してくる。


「……では、ひとまず次の質問です。現時点で先生の分かる範囲での知識を私たちがお聞きしたとして、私やクラスの皆が先程の先生のようにその『光』と称された魔法を使う事は可能ですか?習得する際の時間や難易度については問いません」


 先程からオルカの質問が常に的確な内容が多い事に感心する。彼女の今後が楽しみだと思いながら答える。だからこちらも嘘偽り無く正直に答える。


「……残念だが、現時点では答えは『ノー』だ。なんせ特進クラスのお前たちですら始めて見る魔法だ。当然後世に伝えるために記録には残しているさ。俺自身の存在はともかく、新たな魔法発見となればそっちは世に広く知らしめるものだしな。だからパーティーを抜ける時点で、国の連中にも今の時点で分かる範囲は全て正直に答えたよ。それを基にして国のお抱え魔術師はもちろん、俺の代わりに入った魔術師も試してみたんだが、何故か誰一人として魔法は発動しなかった。何か他にも知識を隠しているんじゃないかと最後まで散々疑われたがな」


 はっきりと使えないと言われた事に、僅かだが表情に失望の色を浮かべたオルカに続けて声をかける。


「おっと、勘違いするなよ。あくまで今は、って事だからな。俺自身も正直、何故男の俺が何故魔法を使えるのかとかはもちろん、『光』と例えたこの属性が何なのか、そしてどうすればこの魔法を他の魔術師も使える様になるかも含めて調べていくつもりだからな」


 自分の言葉にオルカが分かりづらいが少し安堵した表情を浮かべる。それを見て話を続ける。


「俺もずっと前から調べてはいたんだが、魔王討伐のために勇者パーティーに所属している以上、調べる時間は当然限られていてな。旅をしながらじゃ満足に調べる事が出来なかったのさ。だから、これからはそれにも時間を使えると思う。もちろん、ここにいる内にそれらが分かれば講師としてお前たちにも教えていくつもりだしな」


 そこまで自分が言うとオルカが手を上げ、皆の方へ向かって言う。


「皆さん。今までのお話を聞いて、やはり私はリッカ先生がこのまま講師になっていただく事に賛成します。先程の魔法、実力、そして知識に至るまでこれから私たちが十分に教えを乞うに値する存在かと思います」


 オルカに続いてナギサが手を上げ、元気な声で言う。


「あ、あたしも賛成ー。リカっちがいてくれたらもう変な講師も来ないだろうし、授業以外も何か色々楽しくなりそうだしね。あ、マキラっちも当然賛成っしょ?何せ、運命の再会を果たした訳だしねー♪」


「ナ、ナギサさん!私は別にそういう事では……!で、でも、また先ぱ……いえ、リッカ先生にこうしてまたお会いできて、しかも今度は生徒として教わる事が出来るなら素直に嬉しいです。よろしくお願いします」


 マキラが答えると、他の生徒たちからも次々と手が上がる。手を上げていない最後の一人となったルジアに向かい、ナギサが声をかける。


「さーさー。どうよルジっち?あたし、多数決ってどっちかというと嫌いなんだけどさ、正直これはもう決まりじゃない?そもそも、ルジっちにとっちゃリカっちは命の恩人なんだしさ?」


 そうナギサが言うと、ルジアが悔しそうに大声で叫んだ。


「あぁもう!分かったわよ!それで良いわよ!ここであたし一人がムキになって反対したらあたしだけが悪者じゃないの!……ただし!前も言ったけどあんたが講師に相応しくないって思ったら全力で叩き出してやるんだからね!」


 そう言って手を勢い良く上げるルジア。これでクラス全員の手が上がった。こうなってくれればと心の中で期待してはいたが、やはり自分の事情を伝えた上で全員に受け入れて貰える事はやはり嬉しかった。


「おう。皆ありがとな。疲れるから全員手を下ろしてくれよ。ルジアも今言っていたが、臨時とはいえお前たちに教える講師となる事には変わらねぇ。もし俺が講師にふさわしくないと思った時は言ってくれ。んで、やるからにはきっちり講師としての役割を果たしたいと思う。皆、改めてよろしくな」


 こうして、紆余曲折あったものの皆に受け入れられた自分は正式に特進クラスの臨時講師の座に就く事となった。

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