うさぎの中身

@leftright

第1話:ぬいぐるみ

私は3歳の誕生日のとき、お母さんからうさぎの縫いぐるみを貰った。お母さんの手作りだ。「ううたろう」という名前をつけた。

ううたろうは、普通のうさぎとは思えないほどの奇形だった。全長は20cm。ピンク色の地肌の布に、赤く愛くるしいお目々。そこまで聞いたら、

「なんだ、普通のうさぎと違うの、ピンク色ってところだけじゃないか、」

と思われるかもしれない。

何を言う。本番はここからだ。

このうさぎには手足が無いのだ。然し、千切られた形跡などもない。作られた時からこの状態だったのか。

また、頭と胴体の境目がない。頸と云われる部分が無く、前述の二部は完全に同化している。

この縫いぐるみを作った人間の意図がどうかしている。‥‥‥‥‥面白くなかった?

全体的なフォルムのイメージとしては、市販で売られるヤクルト1000をプレスして、上部に裂目を入れたというようなものだ。他に良い例えが思いつかん。

そんな奇妙な形をした縫いぐるみだが、私はそれが大好きだ。毎日一緒に寝ている程には。



登場私が9歳の時、ううたろうが居なくなった事がある。朝起きたら、居なくなっていたのだ。休日だったので、午前中お母さんとお父さんに頼んで、一緒に探してもらった。結局見つからなかった。私は、ショックのあまり午後は布団の中で引き籠もった。大粒の涙で布団を湿らせた。

翌日も、ううたろうは見つからなかったが、私も両親も「数日すれば見つかるだろう」という楽観的な希望観測を抱いていた。

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