第17話 紫外線は美肌の大敵です!
森で迷子になっていた
金色の艶やかな髪にエメラルドグリーンの瞳が特徴的で、華奢な身体には真っ白な布を巻きつけたようなワンピースをまとっていた。
儚げな雰囲気を醸し出すエルフの少女は、岩に腰掛けて足先を川に浸している。水面から軽く足を上げると、パシャっと水しぶきが跳ねた。それは思わず見入ってしまうほどに美しい光景だった。
陽葵は走る。走ってエルフのもとへ向かった。その瞳はキラキラと輝いている。
「本物のエルフなんて初めて見たぁ!」
陽葵の気配に気付いたエルフは、ビクンを身体を跳ね上がらせる。一直線で突進してくる陽葵を見ると、サッと恐怖を滲ませた。
「きゃあああああ!」
悲鳴を上げるエルフ。怯える彼女に構うことなく、陽葵はエルフの肩を掴んだ。
「本当に本物だぁ。凄い。やっぱり綺麗……」
初めて見るエルフに興奮する陽葵。それとは対照的に、エルフの少女は恐怖で涙目になっていた。
「あ、あの……手を離して……」
「本当に耳尖ってるんだねぇ。髪も綺麗。触ってもいいかな?」
「さわっ!? こ、困ります。やめてください……」
「うわぁ、瞳も宝石みたいで綺麗」
「そっ……そんなに近くで見つめないでください……」
エルフの少女は身体を縮こまらせながら怯えきったように陽葵を見つめている。そこで陽葵もようやく、距離感の近さに気付く。
「ごめんね、急に! 私、エルフって初めて見たから興奮しちゃって」
肩に置いた手を離して、適切に距離を取る。それから彼女の警戒を解くように、にっこり微笑んで自己紹介をした。
「私、佐倉陽葵。この森にある『ティナとヒマリのコスメ工房』で働いてるんだ」
そう告げると、エルフの少女はほんの少しだけ警戒を緩めた。
「魔女様のお知り合いだったのですね」
「もしかしてティナちゃんのことを知ってるの?」
「ええ。同じ森に住むものですから」
エルフちゃんはティナと知り合い。それなら話は早い。いまの状況もサクッと解決できるような気がした。
「お恥ずかしい話なんだけど、私いま迷子になってるの。お店までの道のりを案内してもらうことってできるかな?」
助けを求めると、エルフちゃんは若干躊躇いながらも頷いた。
「道案内なら、構いませんよ……」
「本当!? 助かるー!」
陽葵は再びエルフちゃんと距離を詰め、真っ白な手に触れた。そのまま以前ティナにもしたように、ブンブンと繫いだ手を上下に振る。
「ありがとー! エルフちゃん!」
「ど、どういたしまして……」
エルフちゃんは成すすべなく、手をブンブンと振り回されている。その表情はどう見ても困っているようだった。
「そういえば、エルフちゃん、お名前を聞いてもいいかな?」
お近づきになったところで名前を尋ねると、エルフちゃんはおずおずと答えた。
「リリー……です」
「リリーちゃん! 可愛い名前だね!」
陽葵がにっこり微笑むと、リリーは恥ずかしそうに視線を逸らした。
~*~*~
リリーの案内のもと森を歩く。森に住んでいるというだけあって、リリーは迷うことなく道を突き進んでいった。
「リリーちゃんは一人で森に住んでるの?」
「はい、そうです」
「逞しいなぁ。町に降りていくことはないの?」
「私、人見知りで……大勢の人の視線があると緊張しちゃうんです……」
「そうなんだぁ。たしかに町には人が多いからねー」
ここまでのやりとりで、リリーは恥ずかしがり屋で内気な性格であることが判明した。とはいえ、決して人が嫌いというわけではなく、こうして初対面の陽葵にも道案内をしてくれている。結構優しい子なのかもしれない。
「そういうヒマリさんは、どうして森へ?」
「私? 私は植物の調査に来たんだ」
「植物?」
「そう、化粧品の原料として使えそうな植物を探しにきたの」
そう言いながら陽葵は、ポケットにしまったカモミールのような植物を見せる。するとリリーは、一目見ただけで植物の名前を言い当てた。
「ああ、カーミルですね」
「カーミル?」
陽葵は咄嗟に植物図鑑を広げる。リリーの言う通り、カモミールのような花にはカーミルと名付けられていた。
「パッと見ただけで花の名前が言い当てられるんだぁ」
「一応、森に生息している植物は全て把握しているので……」
「本当!?」
驚くべき事実を知らされて、陽葵は目を丸くする。森に住んでいるとは聞いていたが、全ての植物を把握しているというのは予想外だ。
驚いているのも束の間、リリーはさらに言葉を続けた。
「カーミルをお探しということは、傷を癒す魔法薬でも作られるんですか? カーミルは炎症を抑える作用がありますからね」
「植物の効能まで知ってるの?」
「ええ、全ての植物の効能も頭に入っています」
「凄い……!」
リリーは陽葵が想像していたよりもずっと植物に詳しかった。感心していると、リリーはカモミールのような花を愛おしそうに見つめた。
「カーミルには私もいつも助けられているんですよ。外に出ている時間が長いと、肌がピリピリしてしまうので、陽に当たり過ぎた日には干したカーミルを肌に当てて炎症を抑えているんです」
そう話しながら、リリーは自身の肩に触れる。つられて陽葵も注目すると、肌がほんのり赤くなっていた。
「リリーちゃん、日焼けしちゃってるじゃん!」
「日焼け……なんですか、それ?」
「紫外線に当たって肌が炎症を起こしている状況だよ!」
「紫外線?」
「そう! 紫外線は美容の大敵だからね!」
「敵……なんですね」
「敵だよ! 日焼け止めクリームを塗って、ちゃーんと対策しないと」
「日焼け止めクリーム?」
リリーは不思議そうに首を傾げる。そこで陽葵は、この世界に化粧品の概念がないことを思い出した。
「そっか。化粧品がないんだもんね。日焼け止めクリームを知らないのも無理はないか……」
納得しつつも、このままでいいはずはないと気付く。
「保湿も大事だけど、紫外線対策も美肌には欠かせないのに」
陽葵からすれば、日焼け止めクリームは一年中使うマストアイテムだ。夏の時期だけなんて甘っちょろいことは言っていられない。
紫外線は一年を通して降り注いでいるから、季節に関係なく外出するときは必ず日焼け止めクリームを塗っていた。
この世界に来て、日焼け止めクリームを塗らない無防備な状態で外に出ていることの方が異常だった。
「これじゃあ、初期装備のまま魔王に挑むようなもんだよ」
「な……何を仰っているんです?」
「こっちの話だから気にしないでー」
陽葵は日焼け止めクリームの必要性にあらためて気づく。紫外線という美肌の大敵に、いつまでも晒されているわけにはいかない。
「よし、次は日焼け止めクリームを作ろう!」
リリーと出会ったことで、次の商品アイデアが思い浮かんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます