灰被り姫とぶとうかい

九重土生

はじまり、そしてつづかない?



これは、少女が魔女に運命を変えられる物語。



──────────────



「……ああ、ぶとうかい、行きたい…」


 そう呟いたのは、側から見たら目を背けるような襤褸に身を包んだ年の頃なら16〜18の少女。


 二人の義姉と、継母に養われながらも最底辺の生活を強いられ、お城のぶとうかいが開かれた今夜も一人…寒いお家の掃除でもしてなさい、と留守番を命じられた哀れな少女。


 彼女は見目麗しい目鼻立ちをしていたが、その格好と薄汚れた身体が全てを台無しにしていた。


 雪がちらつき始めた冬の庭を見やりながら、白い息を吐き出しながら窓を見つめる小さな背中。


 その呟きを、聞き届けたものがいた。

 それは──人の願いを叶える奇跡の存在。


 ──魔女。

 それは現政権からすれば唾棄すべき異教の術理を操る異端のモノ。


 しかしてそれは己と同じに虐げられる人を救ってやろうなどとたまさか思い至った変わり者。彼女は絶大な魔力を持ち、あらゆる奇跡を叶えることが可能な大魔法使い。


 だからこそ、世に排他されながらも頓着せず好きに生きていた彼女が気まぐれを起こしたのだ。


 そして。

 少女にとって不幸だったのは、互いの意思疏通など無いままに奇跡が為されてしまった事にあった。


 少女の名はシンデレラ。

 虐げられた灰被り。


『…シンデレラ、シンデレラよ。』


「…え、えっ…だ、誰!?」


『我が名は偉大なる魔女、原初之火(プロメテウス)を報ずる烈火の魔女也。』


 その声は力強く、張りがあり、全てを恐れぬ自信に満ちていた。


「ま、魔女……異端者の崇拝する異教のっ!」


「まあそう構えるな、シンデレラ。」


 シンデレラが慄いたその時には、すでにその目の前に魔女は立っていた。


「ひ…!」


「…そう、我は火、原初の火…烈火の魔女カリギュラなり。」


 その衣服は燃えていた。

 未だ白い息が出るほどに冷たいこの部屋の中で、冬の夜気を知らぬかのようにカリギュラは赤々とした炎を真紅のドレスとして纏っている。


 だが、温度がない。

 カリギュラ自身は寒さを感じないかのような赤みを帯びた頬を笑みに歪ませ、シンデレラを見ている、だというのに熱を感じないのだ。


 寒い、だのに…熱い。

 互いの心に熱が通う。


 世界は冷えているのに、心には火傷してしまいそうな熱が奔る。


「シンデレラ、君は何を望む?」


「ぶとうかいに、行きたいの…!」


 もはやカリギュラが異端者であることも忘れ、いつしか願いを口にしたシンデレラ。


「ぶとうかいで、何を望む?」


「羨望を、成功を、人生を変える出会いを…!」


 シンデレラの頭にあるのはサクセスストーリー。二人の姉が行った、お城のぶとうかいに招かれ、そこで素敵な出会いを果たし──


 人生を、変えること。

 この悲惨な生活から抜け出したい、その思い。


「なるほど、君はこの極貧生活から抜け出したいのだな?」


「は、はい!!」


 満面の笑みで魔女に答えたシンデレラ。


 対する魔女は極上の人の悪い笑みを浮かべ。


「いいだろう、君に最高にハイで、馬鹿みたいな権能チートを授けようじゃないか…!」


 その時、シンデレラは思った。

 ああ、これで私は…煌びやかな衣装をもらって、お城のぶとうかいに招かれて、素敵な貴族の若君様に見染められて…順風満帆な人生を送るんだ、と。


 カリギュラが手を振りかざす。

 真っ赤な炎がシンデレラの足元から吹き上がり、その熱のない獄炎が身体を包む。


「さあ、行くがいい…惑星ほしの裏側のぶとうかいへ…!!」


 少し、変なセリフが聞こえた気はしたが……だ、大丈夫大丈夫!と。

シンデレラは持ち前の前向きさで聞こえなかったフリをした。


「逝ってこい、『だいぶとうかい』……!!」


 ……なんでかしら、なんかすごく違う響きに聞こえ……。


 カリギュラの背後によくわかんない筋肉質な男性がサムズアップするのが見えた。

 100%中の100%ってなんですか…?


 吹き上がる火が視界を奪い、ようやく戻った視界に映るのは。


 すり鉢状の地面、周りにあるのは巨大な客席。


 中心には二人の闘士が争い競う石舞台。


 大声援に後押しされた、「武闘会場」の光景だった。


「……は?…え?…ちょ、え?」


ワァアーーーーーーーーーー!!!


 歓声、歓声、歓声、大歓声。

シンデレラは知らぬことだが、そこは古代ローマににたコロセウムじみた闘技場。


「なっ、な、な、なにこれえぇーー!?」


 ようするに、ぶとうかい 違いである。



────────



「いやあ、良いことしたなあ、今頃私が与えた権能を使って武闘会で無双してるかな、シンデレラ?」



 カリギュラは、脳筋であった。


 因みにシンデレラが与えられた権能とは、全てを焼き尽くし、使用者に敵意を持つもの、害を与える可能性があるもの全てを消し炭にする地獄の炎を操り体組織すら作り変えるチート能力。


 滅殺業破炎ヘルブレイズ撲滅式肉体改造カリギュラズブートキャンプ、わずか数秒で貴方も世紀末覇者☆という最低の謳い文句の魔界通販品であった。


 これは──少女が無理やり脳筋チートにされてしたくもないのに暴力で全てを解決してしまう物語…。


 な、気もするけど続きは多分ない短編である。





「ちょっ、酷くない!?酷すぎない!?」


 酷くない。


「私の王子様とのサクセスストーリーは、私のラブロマンスわあああ!?」


 知らん、せいぜい幕が降りた後に脳筋チート無双してろ。


「いやあああ、私バスターゴリラじゃないの!むしろアーツがいいのぉーー!」


 あきらめろ、学の無いお前に煌びやかな術系(アーツ)はむりだ!


 続きがあるかは、不明!

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