第12話 街の名はラチノア②

 センジュと別れて、しばらく東に歩いたところでプロミが突然、そうだ、と呟いた。


「そういえば、これさっき作ったんだよ」


 プロミがポケットから何かをそっと取り出し、歩きながら私の首にかける。


「ヒガンバナの花冠はなかんむり。よく出来てるでしょ? カナタちゃんと一緒に作ったんだ」


「きれいでしょ! 」


 プロミの真似をしてカナタが胸を張る。

 少し頭を揺らすと確かに私の頭の上に、あの赤い花の冠が載っているのが分かった。

 頭の上なのでよくは見えないが、しっかりと編まれているようで、私が頭を振った程度では解けてしまう心配はなさそうだ。

 

「よく作り方を知っていたな。綺麗だ。ありがとう」


「それが、実は作り方はカナタちゃんから教わったんだよね」


 えへへ、とプロミが苦笑する。ゾクリと、腹の中を何かが這いずるような嫌な予感がした。


「本当か? カナタ」


 動揺を隠しつつ尋ねるとカナタは力強く頷いた。


「うん! なんか覚えてたからプロミさんといっしょに作ったの」


「そうか……凄いな」


 カナタに相槌を打ちつつも、私の考えはまるで違うところにあった。

 花冠を作れるということは、さっきブーツを問題なくはけていたように、これも行動記憶の一種ということになる。カナタは体がそれを覚えるほど何度も、花冠を使ったことがあるという事だ。


 長年世界を旅する、私やプロミですら花畑を見るのはあれが初めてだった。この子は、一体何処から……


「どうかした、ナチャ? 」


 プロミの声で我に返ると、2人が心配そうに私を見ていた。内心の、一抹いちまつの不安を振り払うように、2、3度首を振る。


「いや、なんでも無い。ただ、綺麗だったからな。これをどうにか保存はできないものかと思ったんだ」


「確かにね。うーん」


 プロミが腕を組んで少し考える。


「えーと何だっけ……そうだ! 昔読んだ本にドライフラワーってやつがあったでしょ? あれにするとか」


「あぁ、そういえば。良いかもしれないな」


 プロミに言われ、昔の記憶が掘り起こされた。

 確かに、昔読んだ古文献こぶんけんに、ドライフラワーという比較的手軽な植物の保存法があったはずだ。

 あれが丁度いいかもしれない。


「詳しくは私も覚えていないが……次の街に有識者がいることを祈ろう。考古学を学んでいる者も、1人くらいいるかも知れない」


「そうだね」


「こーこがく? 」


 カナタが聞き慣れない単語に眉根を寄せた。


「学問の一種だ。それを学んでいる者に会えれば、この花冠を保存できるかも知れない」


「うーん。よく分かんないけど……ともかく、お花の輪っかがとっておけるようになるってこと? 」


「そうだよ」


 プロミの肯定に、無邪気にカナタがはしゃぐ。

 本当は考古学自体についてもこの機会に説明してしまっても良かったが、それはどうもはばかられた。

 考古学というのは、灰炎かいえんの日以前の人類の遺物や、文化を研究する学問だ。

 

 カナタにそれを伝えれば、当然、灰炎かいえんの日についての事もカナタに教えなければいけなくなってしまう。

 今カナタに教えるには、あれは凄惨せいさんすぎる。


「子供を育てるのは、夢と希望だと。昔先生も言っていたからな」


    

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