第48話 ヤンヤン、新たな脅威に迫られる!

 通信の内容は、階級についてお話があるから早く戻ってきなさーい、というものだった。

 叙勲式とかあるのかな。


 こうして私たちはたっぷり時間をかけて、グエン共和国支部に戻ることになった。

 華国本部はもう、都市ごと戦場になって復興に時間がかかりすぎるということで、しばらくは本部機能をグエン共和国で担当するということになったのだ。


 大尉になった私はそりゃあもう、偉い人として悠々自適な生活を……。


「おうヤンヤン大尉殿よ! この料理持って行ってくれ!」


「はいシェフー!」


「シェフじゃねえ!!」


 ……あれぇ?

 料理を持って艦橋に向かう私。

 階級が上がったけど何も生活が……変わっていないのである……!!


 一応、変わったこともあって。


『オソウジシマス。オソウジシマス』


 犬型のちびMWが格納庫あたりをトコトコ歩き回ってる。

 お尻についているモップが、床をピカピカに……いや、まあまあ拭いてくれてる。


 スバスさんが作ってくれたこのAI搭載MWは、グワンガン隊のみんなのペットみたいな扱いになった。

 ルクナフと名付けられたこの子は、一時間くらいお掃除をすると自分から充電ステーションに移動してまったりし、その後は無目的に艦内を練り歩く。


「おおー、ルクナフは今日も可愛いねえ」


 しゃがみこんでナデナデすると、ルクナフは尻尾モップをちっちゃく振った。

 割りと頭がいいAIが搭載されてるらしい。


「コサックのデスマン-3に積まれてたやつだからね。いいAIが手に入ったお蔭でやっと作れたよ。ヤンヤンさん、ずっとペットがほしいって言ってただろ」


「うんうん! 欲しかった! ルクナフが可愛くて助かるよー」


 後ろをちょこちょこついてくるルクナフ。

 そうかそうか、今日のノルマは終わったかあ。

 正直、お掃除ロボとしてはあんまり仕事ができてないけど、艦内の誰もそんなことは気にしてない。


 艦橋にお料理と一緒に来たら、みんなわーっと寄ってきてルクナフを撫でたりし始める。

 陸上戦艦は娯楽と愛玩動物に飢えているのだ……!!


「あーん、ルクナフを愛でたいのに通信が……」


 オペレーターのメガネさんが慌てて席に戻っていった。

 そして、「フーン」とか言ってる。


「どうしたんだ?」


 艦長に聞かれて、メガネさんが首を傾げる。


「なんか、南部大陸同盟と北欧純血連邦が開戦したらしくて」


「なんだと!? コサックが我々にこてんぱんにやられたのに、まだ連邦はやる気なのか!」


 艦長の呆れに、みんな同意なのだ。


 というか、大変な話が通信できてるのに、割とみんな平然としている。

 コサックとやり合って感覚が麻痺しちゃったよねー。


 だけど副長がハッと気がついた。


「そう言えば……。コサックがあまりに数が多いので失念してたが、向こうはそれぞれの地域で異なる勢力が存在するのだった。しかも同じ連邦内で反目し合っているとか……。ガリアか、ゲルマかどちらかだろうな」


 ガリア共和国とゲルマ共和国は、北欧純血連邦を構成する中でも最大の三国に数えられる。

 この他にコサック社会主義共和国を加えて、連邦の盟主という扱いらしい。


「ゲルマには確か、内戦で名を馳せた英雄がいたはずだ。クーゲルという男で、連邦からの独立戦争を起こした小国のMCをたった一人で壊滅させたとか。死神クーゲルとか呼ばれていましたね」


「へえー、ヤンヤンじゃないですか」


 メガネさんの言葉に、うなずくみんな。


「あ、私がもう一人、連邦にいるっていうことですか? いてもおかしくないですよねー。私はほら、割と普通の人なので……」


「ヤンヤンが二人もいてたまるか! 世界の終わりだ!」


 艦長がひどいことをおっしゃる!

 でも、連邦にそんなすごい人がいるなら、なんでこっちに来なかったんだろう?


 この疑問にも副長が答えてくれた。


「環太平洋連合は弱小勢力だからな。エースを出すまでもないと連邦も判断していたんだろう。むしろ、我々よりも南部大陸同盟を危険視していた可能性が高い。現に、同盟はあの巨大MCやサソリ型陸上戦艦を密かに作ってただろう」


「なるほどー!」


 艦長、昼食のソーセージをばりばり食べながら何か思いついたようで。


「そうだ。支部に戻ってちょっと休んだら、国境線まで連中の様子を見に行ってみるか! 俺たちの遊撃任務はまだ正式に解かれて無いからな!」


「いいんじゃないですか? 支部にいても何か娯楽があるわけじゃないですし」


 副長も乗り気だ!

 私としては……うーん。


「ヤンヤンも来ないと我々が全滅する……」


「わ、わ、分かりましたよー! 行きますよ行きます!」


 なし崩し的に行くことになってしまった。

 それに、私のイケメン旦那様探しの旅もこの辺で終わりにしようと思っているし。


 これからは理想の旦那様に育て上げる日々が始まるのだ……!!


「ヤンヤンがなんか憑き物が落ちたような顔をしている……。前のギラギラしてたヤンヤンはどこに行ったのよー!」


「メガネさんなんか裏切り者みたいに言わないで下さいー!!」


 私は!

 身の丈で満足することを覚えたのだ!

 下手に美形とか高スペックな旦那様を求めると、すぐに死んだりめちゃくちゃ厄介な状況に巻き込まれたりする!

 私は覚えた……。


 なので、ほどほどの男子を育成するのだ!


「ねえルクナフー」


『ワンワン! ナデナデシテイイデスヨ!』


 おおかわいいかわいい……。


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