第13話 車内もいいよね

 ナビの目的地はここから車で1時間半くらい先の岬。岬近くにある街中には美味しい魚介類をウリにしている食堂がたくさんあるんだとか。

 お肉も大好きだけどお魚も大好きなわたしとしてはとてもテンションの上がるセレクトだ。単にわたしが食いしん坊だってことが誠さんにバレているだけのような気もしなくもない。


「音楽でもかけられたら良かったんだけど、この代車だとブルートゥース付いていないからスマホと繋げられないんだ。ごめんねっ」


「もうっ、謝んなくていいから。わたしはラジオでもいいよ。なんならBGMは風切り音とロードノイズでも十分だよ。あとは、誠さんと話ができれば上々でーすっ」


 最悪話すらしなくてもいい。誠さんの運転でドライブに出かけているのだ。それだけでもだいぶ進展しているというもの。

 このまま岬などに行かずにロードサイドに時たま見かけるラブな休憩所に入って既成事実だって作ってしまうのだって大賛成だよ。まぁ、誠さんに限ってそれはないだろうけどね。




 道中は色々な話ができた。趣味の話や好きな音楽、食べ物の好き嫌いから子供の時の夢まで。けっこう多岐にわたって話をしたね。たまーにふたりとも無言になる瞬間があるけど、そういうのもなんだか気にならない。

 今までだったら無言が気になり余計な気を回しすぎて変に疲れてしまうなんてことも良くあった。元カレ然り、合コン然り。


 でもね。


 誠さんとなら、無言の時間さえいいって思えちゃう。

 これほんとやばいな。本気で誠さんに惚れてしまっている。


「乃愛ちゃん、顔が赤いようだけど具合でも悪い?」


「いやいや大丈夫だよ。ちょっと日が当たって暑かっただけ。9月とはいえ未だ日差しは強いからねー」


「そっか。ちょっとエアコン強くしておこうか」


「うん。ありがと……」


 車窓から海がちらちら見え始める。今年の夏も海にもプールにも行かずじまいだった。まだ水辺ではしゃぐのを諦めるには早い年齢だと思うけど、今夏も一緒に行く相手がいなかった。唯一暇そうだったサチと一緒に行くとナンパされ待ちになるので嫌なのだ。いい年してもうそういう遊びからは卒業してもらいたい(わたしはそもそもナンパが嫌い)。


 久しぶりの海だし泳ぐのは無理でも磯遊び程度は楽しみたい。浜辺もあるなら素足での散歩なんかもいいかもしれない。


「そういうのって、どうかな?」

「そうだね。幾つか浜辺には心当たりがあるから、お昼ごはんを食べながら相談しようか」

「うん!」


 何にしても否定から話に入ってこないのも誠さんのいい所。最終的にわたしの提案が通らなかったとしても、一回は話を聞いてくれるし、通せない理由もちゃんと話してくれる。過去のカレシ連中を思い返しても、すぐ否定してくるやつのほうが圧倒的に多かった。自己主張強すぎなんだよね。

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