第9話 おっさん、殴り合う





 冒険者ギルドの表に出る。


 すると、喧嘩の気配を感じ取った飲んだくれの冒険者たちが僕たちを囲み、野次を飛ばし始めた。



「おい、ボガード!! そんなオッサンに負けんなよー!!」


「オレはボガードに今夜の飲み代を賭けるぜ!!」


「やれやれー!! 俺は大穴狙いでオッサンに賭けるぜ!!」


「ボガード、加減間違って殺すなよー!!」


「オッサンも少しは粘れよ!!」



 一気に周囲が騒がしくなる。



「坂橋先生、少し暴れるので下がっていてください」


「は、はい。怪我しちゃ駄目ですよ!!」


「いや、喧嘩なんですから、多少はしますよ?」



 怪我しないとか喧嘩じゃない。


 それと、今回はステゴロがルール。魔力による肉体強化はしないでおこう。


 え、今までそんなことしてたのかって?


 当たり前でしょ。どこの世界に刃物を生身で受け止めて無事な人間がいるのか。



「行くぞおらぁ!!」


「おっと」



 ボガードの振り抜いた拳を首をひねって回避する。

 思ったよりもずっと速い拳だった。


 少し大振りではあるが、体重を乗せて足腰を使った重い一撃だ。


 こりゃ当たったら痛いだろうなあ。


 まあ、当たらなければどうということもないけどね!!


 僕は回避と同時にボガードのがら空きとなった胴体へ拳を打ち込む。



「ふん!!」


「ぐおっ、くっ」



 腹筋で僕の拳を受け止めるボガード。表情が苦悶に満ちる。



「はっ!! やるじゃねぇか、オッサン!!」


「僕と大して歳は変わらないでしょう!!」


「オレはまだ二十歳だ!! よく間違われるがな!!」


「それは失礼しました!!」



 それからボガードの拳打を捌いたり、裏拳で打ち落としたりして防ぐ。


 もうその頃になると、周囲の野次馬たちも見方が変わってきた。



「お、おい、ボガード!! いつまで遊んでんだ!!」


「そうだそうだ!! そんなオッサン、さっさとやっちまえー!!」


「こ、これ、もしかしてもしかするか?」


「ナニモンだよ、あのオッサン!!」


「つーか、ボガードの拳を全部躱してないか?」



 ちらっと坂橋先生の方を見ると、ハラハラした様子だった。


 相当心配させているらしい。


 ここは早々に決着を付けて、さっさと冒険者登録して退散した方が――



「はあ、はあ、ちょこまかと、や、やるじゃねーか」


「おや、納得してくれましたか?」


「アダマンタイト級を騙るだけのことはあるぜ。だが、こんなんじゃ認められねぇなあ!! アダマンタイト級ってのは、もっと荒々しく、誰よりも強く、何よりも最高にかっけぇんだよ!!」


「……そうですか」



 ボガードはあれだな、アダマンタイト級冒険者の厄介ファンだな。

 これではどれだけボコボコにしても納得しないだろう。


 こうなったら、僕も少し熱くなろうかな。



「まだまだ行くぞ、おらぁ!!」



 ボガードがこちらに向かって駆け出す。


 その振り下ろした拳を、僕は今度は動かずに顔面で受け止めた。


 踏ん張りはしたが、鼻が曲がりそうな威力だ。



「な!?」



 僕が避けなかったことに、自分の拳が当たったことにボガード自身が誰よりも驚く。


 そんな彼に向かって、一言。



「今度は僕の番ですね」


「……へへっ。来いや!!」


「ふんっ!!」



 ボガードの顔面を打ち抜く。


 そこから始まったのは、お互いにノーガードの殴り合いだ。


 野次馬さえも静かになってしまった。


 しかし、最初の方に拳を食らってダメージを蓄積させていたボガードの方が、一足先に膝を着いてしまう。


 僕の勝ち、だった。



「ぜはあ、ぜはあ、オレの、負けだ」


「はあ、はあ、納得してもらえたようで何よりですね」



 あー、ちっくしょう。全身が痛い。


 僕は治癒魔法を発動し、お互いのパンパンに腫れ上がった顔を治す。


 その様子を見て、ボガードが目を見開いた。



「お前さん、魔法使いだったのか」


「ええ、まあ」


「ぶっ、はっはっはっ!! こりゃあ傑作だ!! オレぁ魔法使いに殴り合いで負けちまったのか!?」


「そうなりますねぇ」



 何が笑いのツボに入ったのかは分からないが、ボガードが機嫌を良くする。


 野次馬たちも意外な結果に満足しているようだ。



「柊さん!! 何してるんですか!!」



 坂橋先生が慌てて駆け寄ってきた。



「おっと、すみません。ついつい熱くなってしまいまして」


「言ってる場合ですか!! 怪我は――え、もう治ってる!?」


「魔法って便利でしょう?」



 そんなことを話していると、不意に冒険者ギルドの建物の方から大声が響いた。



「お前ら何をしとるのかあッ!!!!」


「ひゃっ」



 あまりにも大きな声に坂橋先生が小さく悲鳴を上げる。


 かわいいな。


 っと、そんなことを考えている場合ではない。冒険者ギルドの方を見ると、背丈の低い男性がずかずかとこっちに向かって来ていた。


 まるで樽のような体型から察するに、ドワーフらしい。

 結構お年を召しているようで、長い髭が特徴的だった。



「ボガードくん、彼は?」


「王都支部のギルド長だ。安心しろ、俺から言い訳しておく」



 そう言うとボガードは立ち上がった。



「ボガード、お前が問題を起こすのは昔からだが、敢えて聞く。何をしておった!!」


「アダマンタイト級の騙りがいたからボコってやろうとしたら、これがノリの良い奴でお互いに楽しくなっちまった」



 いや、ボガードくん。それは言い訳じゃないと思うよ。普通に事実を述べてるじゃん。



「ぬぅん!!」


「へぶっ」


「おいそこの!! うちの若手が悪かったな!!」


「いえいえ、お気になさらず。僕も紛らわしいことしちゃいましたし」



 ギルド長がボガードをぶん殴って気絶させ、それをボガードの仲間と思わしき冒険者たちが回収する。


 手慣れてるなぁ。



「オレぁ冒険者ギルド、アトランティス王国王都支部長のペペロンだ。よろしくな」


「どうも、柊伊舎那です」


「……ヒイラギイザナ、か。邪神大戦の大英雄じゃねーか。お前さん、冒険者プレートを見せてみな」


「え? あ、はい。どうぞ」



 言われるがままにアダマンタイト級の冒険者プレートを手渡す。


 すると、ペペロンは目をカッと見開いた。



「……やはり本物か。来い、奥の部屋で話をしよう」



 こうして、僕は冒険者ギルドの奥の部屋に案内された。

 僕の隣に坂橋先生が座り、テーブルを挟んだ向こう側にペペロンが腰かける。


 会話を切り出したのは僕の方からだった。



「その様子からすると、信じてもらえました?」


「おうとも。生きてるうちにアダマンタイト級の冒険者プレートを見る機会なんて無いからな。うちの受付嬢が失礼をしたらしい。あとで謝らせよう」


「その言葉だけで十分ですよ。彼女も自分の仕事をしただけですし」


「そうか? そう言ってもらえると助かる」



 しかし、納得した。


 アダマンタイト級の証明である冒険者プレートを見せても信じてもらえなかったのは、そもそも本物を見たことが無いからか。



「ヒイラギイザナと言えば、邪神殺しを成した後に色々やらかして元の世界に帰っちまったはずだが?」


「最近また召喚されましてね。まあ、僕は偶然巻き込まれただけです。少し困ったことがあって、冒険者業を再開しようかと」


「……ふむ。それなら、各地の冒険者ギルドの支部長に話を通しておこう」


「助かります。ところで、ここに後藤くんと八神さんという方が登録に来られたと思うのですが」


「ゴトーとヤガミのことか。まさか、あいつらも異世界人だったのか?」



 やはり、ここで二人が冒険者登録をしたのは間違いないらしい。



「故あって二人を探しているんです。どこに向かったか教えてもらえませんか?」 


「……ふむ。普通は、冒険者の向かった先を無断で伝えるのはご法度だ。騎士団にも言っていないが、まあ、あんたなら大丈夫か。昔の恩もあるしな」


「恩?」


「がははは、気付かないわな!! ……昔、お前さんに助けてもらったことがあるんだ。故郷の村を邪神の眷属から守ってもらった」



 おっと。



「すみません、そういう村が多すぎてどこの村だか」


「そうかそうか!! なーに、気にしちゃいない。それより、二人の向かった先だったな」



 こうして僕と坂橋先生は冒険者となり、二人の情報をゲットするのであった。






―――――――――――――――――――――

あとがき

打ち切りです。



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学校の近くを通ったら召喚転移に巻き込まれた元勇者のおっさん、追放されそうな美人女教師に一目惚れしたので異世界の理不尽から守り抜く! ナガワ ヒイロ @igana0510

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