第6話  燃える裏庭3

 数日前、真知子と桜子を家まで送る事になった正太郎は、真知子を家まで送り届けると、桜子と二人きりで人通りの少ない道を歩いていた。

「……昨日の小火や、課題が無くなった事に、君が関わっているんじゃないか?」

唐突に正太郎が聞いた。

「……どうして私だと……」

「雪子にノートを見せて欲しいと言われた時、君は忘れたと言っていたが、鞄を開けて探す素振りすら見せなかったから変だと思っていたんだ。それで、もしかしたら、鞄の中に見られたくない物が入っているのかもしれないと思った」

それだけなら事件に繋げる事は無かったが、もう一つ正太郎には引っかかる事があった。

「君は、小火のとき雪子がいつもより早く学校に来たと察した。何故小火が起きた正確な時刻を知っていた?」

「そんなの、皆の噂話とかを聞けばわかるのでは……」

「雪子が第一発見者だった事すら知らなかったのに?」

「……」

「恐らく君は、あの朝ある物を火を付けて燃やそうとしていた。そこで足音か何かで人の気配に気づき、慌ててその場を去った。近づいてきているのが雪子だとはわからなかったのだろう」

そして、燃やす為の道具として予め職員室から失敬していたマッチやタバコを、火が付いたまま落としてしまった。マッチだけでなくタバコもくすねたのは、いざという時西岡に罪を着せようとしていたのかもしれない。


「君が燃やそうとしていたのは、小火の前日に締め切りだった課題なんじゃないのか?そして、君の鞄の中に入っているのは、燃やし損ねた課題の一部」

小火の事件と、課題が無くなった事件とが、無関係という事は考えにくい。


「……いい成績を取るのに、必死だったんです」

桜子は、話し始めた。厳しい両親の下で育ち、必死で勉強した事。でも、最近は授業についていくのが難しくなった事。先日の課題も、わからない所がいくつも残ったまま締め切りを迎えてしまった事。

 そして、課題の答えを出鱈目に記入して提出したものの、教師に露見するのが恐くなり、他の生徒の課題と一緒に燃やす事で事実を隠そうとしたとの事だった。

「……今回は小火で済んだが、一歩間違えれば人の命にも関わる事だ。真実を隠しておく事は出来ない。……君が自分で犯人だと名乗れるなら良いが、もしそれが出来ないなら、俺が付き添って教員達に説明しよう」

「……お願いします」

桜子は、目を伏せてそう言った。


「……そうだったんですね……」

雪子は、溜め息を吐いて呟いた。

「普通の人間なら、課題が出来なかったからといってそんな事はしないと思うが、それだけ追い詰められていたんだろう」

これから桜子がどうなるかわからない。でも、立ち直ってくれると良いと思う。

 雪子は、ちらりと正太郎を見た。桜子が自分で名乗り出る機会を作った正太郎は、やはり優しいのだなと思った。

 窓から外を見ると、柔らかい日差しが降り注いでいた。

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