2-8 収容所の怪

1958年 ドイツ第三帝国 シュトラウツ収容所


 「あんな化け物が『超人類』だって!あいつらの頭は、どうにかなっているんじゃないのか?」

 大尉が、部屋に入るなり憤慨した声で吠える。

 「奴らにとっては、臨んだ姿なんでしょ。私としては、あんなのごめんですが」

 記者が、嫌な顔をしながら置いてある物品や渡された資料に目を通しながら答える。

 ウィーンのことを思い出したのか、それともアドルフの真似をしたためなのか、疲れ切った顔をしていたルセフは、全国指導員の肩を借りながら近くにある椅子へと向かう。

 「閣下。大丈夫ですか」

 「すまない。どうも疲れてしまったみたいでね」

 腰を下ろしたルセフに全国指導員は、コーヒーを入れに行く。

 「しかし、あの薬を摂取し続けた奴ってのが、ウィーンでみた化け物になるとはな」

 「まぁ、あいつらの戦闘力に対しては、これでわかりましたね。後は、いかに抑え込むかです」

 大尉と全国指導員がコーヒーセットの置かれている棚でさっき見た者のについて考察していた。

 「ちょっといいか?」

 記者がそう言いながら二人に会場に行く前に読んでいた本を手渡す。

 「さっき閣下とみていた小説か」

 「まぁ、物語より必要なのはこれだよ」

 そう言って記者は、本に挟まっていた一枚のカードのようなものを取り出す。

 「これは?」

 「わからんが、何かの役に立つかなと思ってね。少し前にカード型の記憶装置を軍が開発したって聞いてね」

 ユーラシア大戦時に急速に発展した電算機や暗号装置は、大戦終了後に官民一体となってさらなる開発がすすめられていき、1950年にトランジスタ搭載型のコンピューターをドイツ国内で組み立て上げると、翌年にアメリカが開発した「エドバック」をしのぐと豪語したドイツ製コンピューター「ケーニス」を作り、最新鋭の電子技術を見せつけた。

 56年には、この分野にて急速に頭角を現してきた大日本帝国の技術者岡崎文次ら富士写真フイルムのスタッフと共に開発した、国内最大の電子計算施設「トォール・デ・ヒミール」を敷設し、国内の技術躍進に協力していた。

 記憶媒体も進化を続けており、従来の磁気テープを使ったものから、ディスク上に加工されたものが開発され始めたために、保存や管理が容易になり始めていた。

 「じゃあ、これもこれもその一つだというのか?」

 「専門家じゃないから詳しくないが、もしかすると」

 三人がそう言って顔を見合わせると、後ろに居ておいいかれた状態のルセフが軽く咳払いをする。

 「ゴホン。その調査は後にして、まずはここから出ていく事を考えないか?いつまでもこの状態ではまずいだろ」

 「それもそうですね。閣下もお疲れになったと言う事で外に出ましょうか」

 全国指導員が取り繕うように他二人に提案する。

 「確かにこの人数じゃ施設を制圧することはできませんからね。クロー大佐にお力を借りたほうがいいでしょう」

 「同意見です。第一、この案件は大佐の持ち込みなのですから」

 ルセフに同意した一同は、まずは外に出る方法を考え始める。

・・・・同時刻 施設内の一室・・・・

 「総統閣下があそこまで好印象を持ってもらえば、この研究により資金を投じてもらえるぞ」

 バルトホッフがそう言いながら研究データなどの資料を見てもらうように編集作業を進めているが、施設管理者であるシャイドルは、妙な違和感に頭を支配されていた。

 「なぁ博士。総統閣下は、かなりの重病でドクターの救護を受けないと出歩けない状態って話だったよな。なんでまた、あんな小数でここに来たんだ?」

 「何を言っているんだね大佐。せっかく閣下が病気の体を押してきてくれたのに疑うとは」

 シャイドルは、バルトホッフの疑惑に一喝すると共に笑いながらタイプライターを叩く。

 「しかし、気になる事が多すぎるんだ」

 バルトホッフが何か頭に残る中で作戦報告書などを整理していると一束のファイルが目に入る。

 「・・・・『ウィーン特別任務』?こんな作戦を許可した覚えはないが」

 バルトホッフは、手に取ったファイルをほどき、中に入っている作戦内容を確認する。

 「・・・・奴らの身柄を拘束しなければ。早急にだ」

 「どうしたのだね大佐。一体何があったのかね」

 慌てているバルトホッフに驚いたシャイドルは、事の次第を確認するも彼を止める事が出来ずにいた。

 部屋を飛び出したバルトホッフは、どこかへと走っていく。

 「一体何があったというのかね」

 一人置いて行かれたシャイドルは、彼が見ていたファイルを手に取った。

 そこには、1月ほど前にベルリンにてアドルフ・ヒトラーの命令を受けた者たちと現地職員であるルセフ・ヒュルールの身柄を拘束し、アドルフより受けた命令を確認し速やかに対策する事。

 現地には「総統後見役」指揮下の部隊が展開しているので、現地にて被検体5~14番までの配備を申告する。

 追記)現地にて「総統後見役」の命令により、被検体5~10までの実践能力テストと指揮・誘導、戦術テストを実施し、市街地での作戦行動を承認する。

 なお、当作戦において最終決定権は、「総統後見役」に一任される。

 シュトラウツ研究所及び収容所担当者からの許可は、後承認とする。

 ファイルの中身は、上記の命令文に数枚の写真。そして、総統後見役と呼ばれる人物のサインがあったのであろう黒塗りのサイン欄が付いた譲渡書が挟まれていた。

 「これは・・・・」

 脱出を考えるルセフたちに危機が迫り始めていた。


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