第14話 一番最後の魔王


「なんか、勝っちゃったね」

 娘がやや気まずそうな感じで帰ってきた。

「決勝戦の後で気が緩んだかも」

 さわこちゃんも納得いっていないようだった。

「もしかしたら、カードを出す位置が同じだったから有利だったのかも」

 ギャラリーのひとりが指摘してきた。

 

 2人で対戦する場合、右手に置かれたカードと左手に置かれたカードでは、若干だが反応速度に差がでる。そのため公式の試合では、60枚のカードを半分にして、30枚を右に置き、残り30枚を左に置くことで、両者が同じ環境で戦えるよう公正が保たれていた。


 今回は記念の野良試合のつもりだったので、そこまで厳密に行っていなかったのだ。

 どうせ負けると思っていたし。


 だが、僕は他の可能性に思い当っていた。

 おばけキャッチはメンタルも重要な競技。

 優勝直後で、さわこちゃんの気が抜けていたことも大きいだろう。

 

 だが、それ以前に、僕がカードをめくったことが大きかったと思う。

 家で練習するときは、いつも僕がカードをめくっていた。

 傍にいる安心感、心地よいリズム。


 そう、猪熊柔はどうして不敗神話を貫けたのか?

 それは、そこに松田耕作がいたから!!

 

 つまりは愛!

 父への愛が奇跡を起こしたのだ!

 はい、反論は許しませ~ん!


 と、そんなことを考えて、不審者よろしくニヤニヤしていると、3位決定戦が始まった。

 まだ終わっていなかったのだ。


 3位決定戦は、両者とも予選で敗退し、敗者復活から勝ち上がってきた、ひじき氏と千代氏の一騎打ちだった。

 結果はわずか1枚、31-29でひじき氏が勝利した。

 本当に僅差の実力だったのだ。


「バニラさん、対戦したい人はいる?」

 村山さんが尋ねてきた。


 本当はこのタイミングでさわこちゃんと戦うべきだったが、既に戦い終えていた。

 さっきの微妙な空気もあり、なんだか言い出しにくい。


 実は僕個人としては、イマムラ氏と戦いたかった。

 気を遣って話しかけてくれたイマムラ氏。

 場を盛り上げて、誰よりも大きな声を出していたイマムラ氏。

 おばけキャッチの大会の最中に、おそらくはドミニオンの攻略本を読んでいたイマムラ氏。

 是非とも娘とバトルしてほしかったのだが、彼はかもしー隊長の帰京の手伝いで、早々に居なくなっていた。


 3位決定戦の最中、村山氏から質問が来る前に、娘に最後に誰と戦いたい? と尋ねていた。

 娘は首を傾げながら、「ひじきさんかな」と答えた。


 今日の戦いは、ひじき氏に始まり、ひじき氏に終わる。

 妥当な判断だと思った。


 なので、村山氏からの質問に、僕は「ひじきさんで」と返事をした。


 娘がひじき氏と相対する。

 思えば、サシでの勝負はこれが初めてのことだった。


 村山氏が審判となり、カードをめくる。

 同時に、両者が動く。

 何度も何度も見た光景。

 

 けれども、常にそこには緊張と興奮があった。

 魔王とボーパルバニー、楽しそうにバトルするふたりの超人の姿がある。

 娘にとって、最高の思い出となる、最高の瞬間だろう。


 やがて人外たちの饗宴が終わる。

 勝ったのは……、


 31-29で、娘だった。


 ガチの真剣勝負で、娘は魔王を倒したのだった。



 その後、帰ろうとしていたら、再び声をかけられた。

 参加者の血でも吸っているのか、まったく疲れを見せないひじき氏と、さわこちゃん、ぺるてぃ氏のテーブルに誘われた。


「せっかくだから、行ってこい」


 僕が言うと、娘は頷いてテーブルに着いた。

 これが広島でのラストゲームとなった。


 ひじき氏、22枚。

 さわこちゃん、17枚。

 娘、17枚。

 ぺるてぃ氏、4枚。


 さっきは勝ったはずのひじき氏に、今度は負けてしまっていた。

 そして個人戦の準決勝では大差で負け、野良試合では圧勝したさわこちゃんとは、同数の17枚。


 おばけキャッチ。

 勝利の女神はなんとも気まぐれな、奥の深いゲームである。


 こうして僕らは広島を、最高に楽しんできたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

本当にあったオバケ捕獲の話 ~広島での実体験をラノベ風に書いてみた~ 赤月カケヤ @kakeya_redmoon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ