ろくでなしの文学部

月夜葵

第0.5話 奇人 : 伊織夕

「オリジナルキャラクターを作りましょう」


 国語の授業だったか、はたまた何かしらのコンクールだったか。

 今となってはまるで覚えていないが、絵を描く空欄と白紙のプロフィールが印刷されていた一枚のA4用紙が、伊織夕という「奇人」の原点であることは確かだろう。



「(何を書こうかな?)」



 隣の席に座る比較的仲の良い同級生の紙を盗み見る。

 当時漫画やアニメ、そもそも世間一般のものに対してやや関心の乏しかった夕でさえ、一度は目にしたことがあったキャラクター。何となく、それに近い雰囲気を感じた。真剣だが楽し気に漏れ聞こえる単語から察するに、おそらくそれをイメージしているであろうことは想像に難くなかった。


 

「(悪くないかも。でも、何か、こう)」



 せっかくオリジナルのキャラクターを作るのなら、もっと独創性のあるキャラクターが作りたい。

 ただ単に、そう「思いついた」だけだった。

 今になって考えれば、これら一連の思考は、正に天啓のようなものであったのかもしれない。



「(とにかく書き出してみよう)」



 活発で朗らか、男勝りだけど心の奥はロマンチストな性格で。

 格好良いものも可愛いものも好きだけど、揶揄われるからと興味のないふりをしている。

 運動神経は良いけど、算数と社会が少し苦手。

 髪は肩まで伸ばした焦げ茶色、瞳の色はカラメルのような明るい茶色。肌はほんのり小麦色。


「(花も好きそう。ひまわりとか似合いそうだし。虫は、あまり得意じゃなさそう。あとは……)」



 次から次へとアイデアが湧き出てくる。

 好きな食べ物、嫌いな食べ物。

 趣味、特技、将来の夢。

 嬉しいこと、不満なこと。

 普段は優しいけど、ちょっと意地悪な所。そしてそんな自分に自己嫌悪するところ。

 あらゆるものに興味の薄い自分とはまるで真反対の、生き生きとした女の子が命を吹き込まれていく。

 良い所もダメな所も併せ持った、人間らしい魅力を持つ彼女ヒロインが。


 そして、彼女の誕生は。



「(これ……ずっとやっておきたいかも?)」



 現実と仮想の境界を壊そうと目論む「奇人」の萌芽でもあったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ろくでなしの文学部 月夜葵 @geranium2nd

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ