第17話 厳しめざまぁ編

「小さな膿は大公閣下が残してくださった証拠が大変役に立ちました。

国王という後ろ盾がなくなれば、あの証拠で簡単に裁けましたよ」


 サイモンが残した金庫代わりの地下室には国王たちの帳簿だけでなく、国王たちの横暴な金遣いを手伝っていた貴族たちの犯罪証拠もあった。その筆頭がメドリアル公爵である。メドリアル公爵はサイモンの差配で国政には携わらなかったが悪知恵は群を抜いており地方公爵であっても随分と悪事を働いていた。


「国王夫妻の裁きは心を痛めたのではないですか?」


 イエット公爵が王家に多大な忠誠心の持ち主であったことは誰もが知ることである。


「いえ。あの帳簿を見れば忠義など霧散しました。前王は病に伏せるまでは大変ご立派な方でしたのに」


 イエット公爵は悲しげに笑う。


〰️ 〰️ 〰️


 クーデターから一週間後国王夫妻は市中を粗末な服と裸足で五日間歩かされ、その度に罵声を浴びせられ石を投げられていた。


 地方の国民は国名が変わったことも生活が苦しいのは国の責任であるということもわかっていないが、王都に住まう者たちは日々の暮らしと簡単に広まる噂話で悪政の主役を知っている。

 けばけばしい服を着て派手派手しい馬車で数十台の馬車と数十人の護衛騎士を連れて地方視察という名の道楽に向かう国王夫妻に頭を下げつつも憎しみを積もらせてきていた。


『その馬車に付いている宝石一つあれば娘は医者に見てもらえたのに』


『あの馬一頭で数ヶ月は食べられるのに』


『戦いのない場所に行く兵士に食べさせる物をどのくらい積んでいるのだろうか?』


 国王夫妻を笑顔で見送る者など王都にはいなかった。


 そこを罪人として練り歩けば当然そうなる。


 公開処刑は夕刻と発表されたにも関わらず朝から磔られた国王夫妻に最後の恨みをぶつけるため多くの王都民が態々石を持参してそれを投げていた。


 処刑時刻には肌は青くない場所はなく肉がえぐれているところまであった。


「死にちゃくない……」


「たひゅけて……」


 それでも最後まで反省するでなく命乞いだけをしていた。


〰️ 〰️ 〰️



「国が変わるという大事の象徴となれたのです。最後にやっと国王夫妻らしい仕事をしていただけたとホッとしています。

私の忠誠心は王家ではなく国に捧げたのです」


「国の安寧のための地方周りですからね。確かに国王のために地方周りをしていたわけではないですね」


「はい。その通りです。なので、国王夫妻粛清に心は痛みませんよ」


「その……ご子息は?」


「大公閣下でしたらご存知だったのかもしれませんが、奴らも国庫に手を出していましてな。クーデターより前にスラム街へ放逐したのです。離宮に入れておくのも大金がかかりますし、かといって時期が時期だけに奴らに時間をかけるのも惜しい状態でしたから」


「なるほど」


「元うちの者だったあれはそこで我慢ができず、一旗上げると息巻いて王都を出ました。しかしどうやら野盗に襲われたようです。数日後に商人が遺品のような物を持ってきました。遺品と言っても粗末な剣一本です。商人が森に埋葬したという容姿背格好からティスナーと思われ門兵が私へ報告に来ました。

真面目に働くではなく一旗上げられると信じるなど馬鹿気た思考です。自分の実力も判断できない者だったようです」


「他の者たちは?」


「ノイタール元殿下は彼を追いかけてきた王城メイドに囲われて……。消息はわかりません。ただ、その女はメイドを辞めて王都の食堂で働いていたのですが、しばらくして別の男に鞍替えしたようです。丁度その頃、元殿下と同じ髪色の男が川に浮いていたのですが、顔が腫れ水に浸かっていたため腐敗が激しく元殿下であると確証はできていませんが、詳しく調べる必要もないでしょう。

メイドにまで手を出していたことが発覚し呆れております」


 サイモンはきっと確証する何かがあるのだろうと思った。例えば新しい男が元殿下を殴り殺すところを監視者が黙認目視していたなどは充分にありえる。


「ボイド公爵の元子息は奴隷として売られました」


「え?! それはヨルスレード君だけ最初から厳しい罰ですね」


 サイモンは驚き目を瞬かせた。


「もちろん最初からではありませんよ。

ボイド公爵の元義父母がなかなかの癖のある方々だったことは先程の話でわかっていただけると思うのですが、その元義父母がヨルスレードを庇いまして金銭を渡したのです」


「!! それはまた……」


「ヨルスレードはその金をギャンブルに使い足りなくなって義父母に連絡しましたがその頃には連絡はつかず、それでもギャンブルを止められず借金をしました。その貸金業者に連れていかれました」


 イエット公爵はチラリとライシェルを見た。


「キオタス侯爵家の元子息エリドですが……」


「それは義父から聞いております。大公閣下にもご報告いたしましたわ」


 ライシェルは言わなくてもいいとイエット公爵に優しく見えるように目を細めたが、悲しみは隠せていなかった。


 エリドは憲兵に連れていかれたスラム街の家から一歩も出なかった。クーデターから数週間後、憲兵がその家に入ると一番奥の部屋で餓死していた。一応遺体はキオタス侯爵家へ運ばれた。キオタス侯爵家の領地の小さな村に埋葬された。


「気の小さいエリドらしいです」


「そうでしたか。

それから元男爵令嬢ヒリナーシェですが、スラム街に捨て置かれたその日に自分から娼館へ行き、生活の保証を得て娼婦になりました。

元々、マリリアンヌ嬢を貶めようとするほど肝の座った女でしたので逞しく生きていきそうです」


 あくまでもスラム街放逐以上は良くも悪くも手は出さない。ティスナーは王都を出た時点で監視は解いたのだろう。

 サイモンは元殿下の死亡確認をしていると確証を持ったがそれを問い詰めることはしない。

 

 二人の対談から半年後、首都をシュケーナ大公領に移し『シュケーナ公国』と名乗ることになった。サイモンは統一国のシュケーナ大公陛下、ケルバは大公妃陛下となる。


 サイモンはボンディッド王国中央部と西部の問題のある貴族以外はそのままの爵位を名乗らせ、問題のある貴族の再編はボイド公爵とイエット公爵に一任した。

 数名は公開処刑、数名は鉱山送り等二人の差配で裁かれていった。

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