こーへん🐾

 壊されていく鍋島の町。

 すると化け猫は、逃げ遅れた一人の男性を追いかけはじめた。

 と言うか、あれって……。


「ああ、あの襲われてる人、うちのお隣の家のおじさんだよ!」

「なんだって? もしかしたらアイツ、君が見つからないものだからターゲットを、従兄弟の更に従兄弟の友達の近所の人の子孫から、そのお隣さんに変更したのかも?」

「更に遠くなってる!」


 この調子じゃ、本命のお侍さんの子孫に辿り着くのはいつになるやら。

 それに無駄な被害だって、たくさん出るよね。

 これは何としてでも、私達で止めないと。


「それじゃあ行くよ白ニャン。化け猫、お前の相手はボク達だ!」


 ミーこと黒ニャンが飛び出していって、私も後に続く。

 化け猫はこっちに気づいて振り返り、その間におじさんは逃げて行ったけど、ここで黒ニャンがポーズを取る。


「闇を祓う気高き獣! 魔法猫少女黒ニャン!」


 ポーズを決めて、名乗りを挙げる黒ニャン。

 そして「君も名乗るんだ」と言いたげに、チラリとこっちを見てくる。

 ええっ、でも急にふられても……。


「し、白ニャンです。よろしくお願いします」


 自己紹介をして、ペコリと頭を下げる。


 ああ、黒ニャン。そんな冷たい目で見ないでよ!

 しょうがないじゃん、名乗り方もポーズも、考えてないんだもの!


 と言うか黒ニャンは、よく咄嗟にできたよね。さてはこの日のために、前から考えてたね!


 するとそんな私達に、化け猫が襲ってくる。


「シャアアッ!」


 鋭い爪が振るわれたけど、私達は左右に跳んで回避する。


 って、凄い。今私、5メートルは跳んだよ。変身したら、本当に強くなるんだ。


「今だ白ニャン。魔法の杖を出して!」

「うん……って、そんな物どこにあるの?」

「念じれば出てくるよ」

「そうなの? じゃあ、出てきて魔法の杖!」


 すると手の中に、魔法の杖が現れる。と言うかこれって……。


「ね、猫じゃらし?」


 現れたのは杖と言うより、大きな猫じゃらし。

 見れば黒ニャンの手にも同じ物が握られてるけど、黒ニャンは化け猫めがけてそれを振り回す。


「さあ、白ニャンもやって!」

「う、うん」


 とりあえず言われた通りやってみたけど……あ、化け猫ってば猫じゃらしを、ペシペシ払いはじめた。

 まるでオモチャで遊んでもらってる猫ちゃんみたい。


「ちょっと可愛いかも。それで、この後どうするの?」

「こうやって奴を遊び疲れさせるんだ。そしたら恨みなんて忘れて、お昼寝しちゃうから」


 え、戦うってそんなやり方なの!?

 だいたいこの化け猫、昔主人を殺された恨みで化けたんだよね。なのに忘れて寝ちゃうなんて。

 私としては助かるんだけど、それでいいの~!? 

 だけどそうしていると、化け猫は本当に疲れたみたいで。丸くなって寝始めちゃった。


「よしトドメだ。二人同時に、アイツめがけて杖を振るうよ!」

「杖って言うか、猫じゃらしね」

「細かいことはいいの。ボクの後に続いて、呪文を唱えるんだ。いくよ……コネコネコネココネコネコネコ、合わせてネコネココネコネコネコ!」


 え、それが呪文!?

 呪文って言うか、早口言葉じゃん!

「こ、コネコネコネココネコネコ、合わせてネコネココネコネコ!」

「赤コネコ青コネコ黄コネコ! トナリのネコはよくネコこねるネコだ!」

「あ、赤コネコ青コネコ黄コネコ! トニャりの……」

「何やってるの。ちゃんと詠唱してよ!」


 そんな事言われても、こんなの難しいよ~。

 だけどたどたどしいながらも詠唱を続けていると、猫じゃらしからキラキラした光の粒が出てきて、化け猫を包み込む。

 あ、ここはちゃんと、魔法少女っぽい。


 すると光に包まれた化け猫は徐々に姿が薄れていって、やがて完全に消えちゃった。


「いったいどうなったの?」

「浄化したんだよ。恨みを忘れて、安らかに眠らせる。これなら君も納得するでしょ」

「う、うん。良かったー、化け猫ちゃんを止められたんだー」


 鍋島の町はそこそこの被害が出てるけど、これであの化け猫も静かに眠れるよね。


 それにしても、いきなり化け猫に襲われたかと思うと、魔法猫少女に変身して戦うなんて、ビックリだよね。


 私達は変身を解いて、元の人間と猫の姿に戻る。


「ありがとねミー。それにしても、これでお別れなんて寂しいなあ」


 短い間だったし大変だったけど、ミーとお喋りするのは悪くなかったのに。

 だけど、ミーは言う。


「何言ってるの。君は魔法猫少女になったんだよ。これからもボクと一緒に、ニャミ堕ちした猫を浄化していかなきゃ」

「ええ、さっきので終わりじゃないの? 聞いてないよー! と言うか、ニャミ堕ちした猫って他にもいるの?」

「いるよ。奴らは熊本県の根子岳にある、化け猫屋敷を本拠地に集まってる。ボク達はそいつらと、戦わなきゃいけない」


 熊本県の根子岳の化け猫屋敷。それも昔話で聞いたことがある。


 化け猫屋敷には人間にいじめられた猫達が集まっていて、山で迷って屋敷にやってきた人間をお風呂に入れてあげるんだけど、お風呂に入った人間は猫になっちゃうの。

 そしてその元人間の猫を、一生こき使う、だったっけ。


 そんな怖いニャミ堕ちした猫ちゃん達がいるなんて。


「というわけで、これからよろしくねコネ子。いや、白ニャン」


 ポンと肉球で私の足を撫でる、黒ニャンことミー。

 よろしくって言われてもさあ。


 けどどうやらもう、もう後戻りできないみたい。

 えーい、もうわかったよ。魔法猫少女でも何でも、やってやろうじゃないの!


 こうして私はミーと一緒に、魔法猫少女をやることになったの。

 この後たくさんのニャミ堕ちした猫ちゃん達を助けたり、猫耳を生やしたとってもイケメンな猫少年くんとライバル関係になっちゃったりするんだけど、それはまた別のお話。



 それじゃあみんな、またね~🐾




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魔法猫少女ののんきな戦い ~佐賀県鍋島、化け猫騒動編~ 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi

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