第47話

 朝、かどうかはわからんが、ここへ入った時間と感覚から、恐らくはそろそろ日の出だろう。

 基本、魔物は昼に活動が活発になり、夜には眠る。ヒトと同じだ。商人や傭兵は昼に移動や仕事をこなす。夜は安全に、少人数で見張りを立て、最小限のコストで眠るためだ。

 まぁ、夜に活発になる魔物ももちろんいるが、そもそもそういう奴らは知能が高い。ヒトを襲うより、もっと効率的に餌を取ることを学んでいる。

 そしてそれは、日が入らない遺跡でも基本的に変わらない。


「ねぇ、ディアス。この遺跡はどれくらい深いの?」


 ヴェインが腰に剣を差しつつ振り返った。俺は足先で火の始末をし、それから眠気眼ねむけまなこのリーフィの頬を「起きろ」と軽く叩いてやりながら、


「どれくらい、か。遺跡の気分次第だな」

「遺跡の? 生きてるの!?」

「まさか」


と今度はフェリカに「起きろ」と投げかけた。


「侵入者用のトラップというのは、大抵最初の一回しか発動しない。だが、たまに二回、三回と発動することがある」

「それは……、そういうもの、じゃないの?」

「なんだヴェイン。まさか本当に、遺跡が勝手に動いてトラップを張り直してるとでも思ってるのか?」


 違うのかと言いたげなヴェインに「行くぞ」と荷物を持たせ、だだっ広いだけのこの部屋を後にする。

 先へ進むと、直進する通路、右手側に上へ続く階段、左手側には小部屋がある場所までやって来た。小部屋はひと際明るく見える。壁や床の石が、あまり盗られていないからだ。


「さてヴェイン、さっきの続きを話そうか」

「さっきって、トラップの話?」

「あぁ」


 俺は屈み、足元にあった手のひらより多少大きな石を手に取ると、それを小部屋の中心に向かって投げ入れた。カツン、と石が転がる乾いた音に続いて、カチッと何かが動く音が響く。

 ギ、ギギギ、ギーッ。


「部屋が、動いてる?」


 その音は、小部屋ごと上へ動く音だ。俺たちの前に小部屋の壁だったものがせり上がり、そこには小部屋どころか、部屋の痕跡すらなくなってしまった。


「ど、どういうこと……」


 驚きを隠せないヴェインが、何もなくなった壁を何度も触り「何もない」と唖然としている。


「遺跡が造られたのがいつ頃か……、その記録が失われてから、随分と経っている。が、どうやら遺跡を造ったとされるその子孫がいるらしい」


 俺はヴェインの隣に並び、積み上げられた石をひとつひとつ小突いていく。コン、コン、コン、カン――


「ここか。ガレリア、槍の先でこの石だけ突けるか?」

「私は突くより突かれるほうが」

「よし、やれるな。やれ」


 有無を言わせず顎で石を示す。ガレリアは「せっかちさんねぇ」と笑いつつも、背中から槍を手に取ると、その尖端で石を的確に粉砕しやがった。


「おい、誰が砕けと」

「いいじゃないの。ほらほら」


 背中をぐいぐい押されては、俺も仕方なく壁と向き合うしかない。あるはずの壁は全てなくなり、代わりに剥き出しになった空間を見て、俺は嘘だろと口にする代わりにため息を吐いた。

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