天降る国〜星巡る国

第38話

 朝日に照らされ、俺はどうするかと内心頭を抱えていた。

 というのも、ノリと勢いでアークベルトに“風舞う国”で働けなどと言ってしまったが、これでは立派な侵略ではないか。あくまでも王命を受けたのはヴェインこいつらであり、俺はでしかないというのに。


「あー、くそっ」


 頭をガリガリと掻き、前を歩くアークベルトの背中を蹴り上げる。多少回復したらしいアークベルトが「痛い!」と声を上げるが、何も聞こえないフリをした。


「ねぇ、ガレリア。なんでディアスはあんなに怒ってるの?」

「駄目よぉ、ヴェインちゃん。侵略者と馴れ合っちゃ」

「侵略者……?」


 ヴェインとガレリアの二人はコソコソしてるつもりだろうが、はっきりと聞こえている。


「おい、誰が侵略者だ」


 ギロリと睨んでやると、ガレリアが「ほら、怖いわぁ」とわざとらしく笑った。舌打ちをしてからリーフィに「おい」と話しかければ、フェリカが間に入るように立ち塞がり、


「こ、こここ、来ないでください、変質者!」

「誰が変質者だ、せめて侵略者だろうが」

「ボクの裸、見ましたよね!?」


と最悪なことを口走りやがった。

 リーフィの目がす……とゴミを見るように細められ「最低」とその口が動く。ガレリアは背を向け肩を震わせているし、ヴェインは「そうなの?」と首を傾げている。

 俺が悪者扱いに納得いかないが、そんなことを言っている場合ではない。このまま国へ連れ帰っては俺の立場も、いや国の関係すらも危うい……とため息をつけば――


「ディアスくんっ、久しぶりだねっ」


 何年かぶりに聞いた耳障りな声に、俺はさらに頭が痛くなるのを我慢しながら、館の屋根を振り返った。

 長い髪を左右で三つ編みにしたその女は、左右で色を分けた髪と服をひらりと翻し、俺の前に「とおっ」と降りてきた。右側はピンク、左側は水色というあまりにも奇抜なその装いに、ヴェインが「お洒落だ!」と嬉しそうにしている。

 どこがお洒落だ。


「えへへっ、素直な子は大好きだぞっ。ってそうじゃなくてっ、ディアスくんっ」


 たんたんと軽い足取りで近寄ってきた女は、ずいと俺を覗き込んできやがった。


「なんだ」

「なんだとは失礼なっ。皆の大好きなノアたんだぞっ」


 レースをふんだんに使った服、ひらりとしたマント、手にはハートをあしらった杖。マントの留め具もハートで、パッと見れば可愛らしい服装だが、どう見ても少女とは言い難い顔は、厚化粧で誤魔化しているのを知っている。


「四十過ぎててそれはきつくないか」

「いくつになっても女の子は女の子なのっ。今度皆誘って女子会するんだからっ」

「女子会、ねぇ。淑女会にでも変更しとけ」

「酷いっ。そんな意地悪するんだったら、助けてあげないよっ?」


 そう言われてしまえば、俺も「うっ」と言葉を詰まらせるしか出来ない。それを知ってて、この女ノアは姿を出してきたのだ。


「ほうらっ、この“償いのしるべ”、ノアたんの手助けが必要だよねっ?」

「う……」


 視線を反らす俺とは反対に、ヴェインが「“償いの導べ”!?」と興味津々とばかりに身を乗り出してきた。あぁ、嫌な展開だ……。


は“償いの導べ”なの!?」

「お姉さ……やだもうっ、ちょっとこの子可愛すぎるっ。そうだよっ、お姉さんは“償いの導べ”のノア・タンデ・スーだよっ。よろしくねっ」


 ノアは心底嬉しそうに笑った後、ハートの杖をぶんぶんと振り回した。ルビリスが「相変わらずじゃのぅ」と笑うのを横目に、俺はノアから放たれるであろう言葉に、頭痛を感じずにはいられなかった。

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