第23話

 フェアリー族。生態はほとんどが謎に包まれており、その姿を見ることさえなく一生を終える人間も多い。そのため、伝説やお伽噺の中でしか知られていないその一族は、だが確かに存在している。


「俺もフェアリー族について多くは知らん。だが奴らは、主に人間と同じように歳を取り、ある一定の歳を越えると若返っていく種族だと聞いた」


 それは人間でいう百歳を越えたあたりで表れ始め、十代を過ぎたあたりでその存在を目には見えないナニカへと変え、母胎へと宿るのだという。親子として血の繋がりはあるものの、魂は永遠とも云える存在でもある。


「それじゃ、自分の子供がフェアリー族かどうかなんてわからないんじゃないの?」


 律儀に体育座りで話を聞くヴェインが首を傾げる。


「能力開花と同じだ。フェアリー族は生まれてから十年ほどすると、背に羽根が生えてくる。同時にフェアリー族としての能力に目覚めるというわけだ」

「そうなんだ。あ、もしかして僕もフェアリーかも!?」

「その年で羽根が生えてねぇなら人間だ。最も、フェアリー族だったとしても幸せとは限らん。そうだろう、リーフィ」


 隅でフェリカにもたれかかっていたリーフィから「ん」と小さな肯定が漏れる。長命、不死、輪廻転生。どれを想像しても、今の俺にはピンとくるものなどなかった。


「ふうん、そっか。ディアスはその、アークベルトっていうヒトを知ってるの?」

「俺じゃなくても、知ってるやつは知ってるさ。なぁ、ガレリア」

「え? え、えぇ……」


 いつもは掴みどころのない態度のガレリアが、その表情を微かに曇らせ、それから「そうねぇ」と話を続けてくれた。


「能力は皆にあるものだけど、唯一無二のものもあってね、アークベルトは確かそのひとりのはずよ」

「“果てなき求道者”」

「そうそう! 流石はリーフィちゃん!」


 ガレリアとリーフィの説明に納得してくれたようで、ヴェインは「へぇ」と目を見開いた。


「だからディアスも知ってるんだね」

「あぁ、俺の仕事は記録係だからな」

「でも、なんでそんなすごいヒトがこんな酷いことをしてるんだろ……」

「さてな」


 他人の考えや思想、思惑などわかるわけがない。特にフェアリー族なんて、自分たちとかけ離れた存在であればあるほど。


「与太話はここまでにして、早く休め。ろくな飯もねぇんだ。体力だけでも残しておけ」

「はーい」

「お腹、すいた」

「リーフィさん、一緒に寝ましょう!」

「うん」


 寝るにしても布も火もないが、旅なんて所詮こんなもんだ。息を吐ききり岩に背を預けたところで、こちらを見るガレリアと目が合った。


「どうした」

「大変ね、記録係さんも」

「……全く。お前は嫌な女だよ」

「あら。それじゃ、きっとずっと、嫌な女のままね」

「早く休め」

「ふふ」


 まだまだ雨は、最悪なことに、降り続くようだ。

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