第6話 二人が付き合っているとは限らない


 私は、斗真と白石さんの後姿を見て頭の中が真っ白になった。家に帰って自分の部屋の中で考えても、あの二人がどうやってあそこまで行ったのかなんて検討もつかない。


 確かに斗真と白石さんは同じクラスだけどそれだけでは説明が付かない。それに白石さんは学年でも一、二を争う美少女。一年の時から彼女に告白する男子は数えきれない。


 そんな人が、普通に見たら何の取柄も無い斗真、私だけが知っている彼の良さを知るはずもない。


 なんで、なんで、なんで、なんで、なんで。



 考えても、考えても斗真と白石さんのあんなに親密になる接点は見つからなかった。それに夏休み最後の日曜日に見た斗真らしき男の子と女性が白石さんだなんて、想像の斜め上を飛んで行っている。



 私は、お母さんから夕飯の支度が出来たと言われるまであの人達の事で一杯だった。夕食の時もお母さんから大丈夫?と聞かれてしまった位顔に出てしまった。


 お風呂に入ってもベッドの上で寝転がっても今日の事ばかりが頭に浮かんで来た。



 斗真は私の物。同じ大学を出て、結婚して彼との間に赤ちゃんを作って幸せな家庭を築く。それが私の未来予想図。それなのに…。



 結局その日は、ほとんど眠る事も出来ず、次の日木曜日いつもの様に起きて朝食を摂って制服を着て玄関を出るといつもの様に爽やかな顔をした斗真が待っていた。

「おはよ、美緒」

「……………」


「どうしたんだ。とても疲れた顔をしているぞ。昨日夜更かしでもしたのか?」

「何でもない。早く行こう」


 本当は馬鹿、知らないとか言って一人で駅まで駆け出すなんてラノベではあるんだろうけど、私のメンタルはそこまで強くない。


 あんな姿を見てもやっぱり斗真の傍に居たい。斗真と一緒に学校に行きたい。


「ごめん、昨日考え事して眠れなかった」

「えっ?!考え事。美緒、何か困った事でもあるなら相談に乗るぞ」

 あなたの事なのに相談なんて出来る訳ないでしょ。


「今はいい」

「そ、そうか。もし話せる時になったらいつでも言えよ」

「うん」



 この日は、いつもの様に明るく話しながらなんて出来なくて、口数も少なく一緒に学校に行った。


 教室の入口で

「美緒、今日は図書室開けるから」

「分かった」


 斗真の今日は一緒に帰ろうという二人だけが知っている合言葉。嬉しいけど素直に喜べない。

 私が自分の席に着くと


「おはよ、美緒…。はっ?どうしたの」

「おはよ、慶子」

「ねえ、どうしたの?」

「ねえ、今日昼休み相談に乗ってくれる?」

「それは全然構わないけど…」



 お昼休みになり、私は慶子に一言言ってからBクラスを覗いた。いつもと変わらない風景。斗真が他の男子と話をしながら学食に行く。


 白石さんも見たけど彼女は他の女子とお弁当を広げようとしていた。全く視線を合す事もない。益々分からなくなって来た。


 急いでAクラスに戻ると

「慶子。裏庭に行こう」

「いいけど…」

 美緒、どうしたんだろう。今も直ぐに教室を出て行ったし。



 私は、慶子と一緒に裏庭のベンチに行くと幸い先客はいなかった。慶子とお弁当を広げながら昨日見た事をポツリ、ポツリと話した。


「ふーん。確かにその雰囲気では二人が付き合っていると言ってもおかしくは無いわね。でも本田君と白石さんかぁ、ピンと来ないな」

「でしょう。だから全然理解出来なくて」


「ねえ、でももし付き合っていたとしてもだよ。美緒、本田君に告白とかした。告白までも行かなくても彼を好きだとかアピールした?」


 私は俯きながら首を横に振った。


「えーっ、じゃあ、あの二人が万一にも付き合っていたとしても何も言えないじゃない。だからー。前に早く告白しなさいって言ったのに」

「だって、だって。斗真が他の人と付き合うなんて想像も出来なかったんだもの」

 涙が瞼に溜まって来た。


「もう、言ったでしょ。本田君は裏では女子に人気あるんだって」

「わたし、そんなの知らないもん」

「当たり前じゃない。他の人は美緒と本田君が付き合っているとばかり思っていたんだから、あなたの前でそんな事言う訳ないでしょ」

「それは分かるけど」


 涙が止まらなくなって来た。

「もう、ハンカチで拭きなさいよ。ご飯に涙が溜まっちゃうよ」

「ねえ、慶子。私どうすればいいの。斗真は誰にも譲りたくない。斗真は私のもの。私と斗真は同じ大学に行って結婚して幸せになるの」

「はぁ、そこまで思っているなら。でももし本田君と白石さんが本当に付き合っているなら、今告白しても断られるだけ。

 それに本当に付き合っているとは限らないじゃない。何か事情が有って、偶々そういう事をした時、美緒が見てしまったのかも知れないし。

 とにかく、今は様子見ね。絶対に変な行動取っては駄目よ。ここは見て見ぬ振りをして、事実を確かめよ」


「どうやって?」

「それは…。そう時間が経てば絶対にボロが出るから。白石さんも本田君も今のままで行くとは思えないし」

「分かった。そうする」



 私は放課後、クラブ活動は無かったので授業が終わると直ぐに図書室に行った。斗真は一人で受付をやっていた。白石さんが来る訳でもなく、図書室を閉めると何事も無く一緒に家まで帰った。


 そうよね。あの時、偶々何かの理由であんな格好になったのかも知れないし。少し様子見るしかないか。


―――――


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