第4話 気に入らいない子


 今年も文化祭が始まった。朝はいつもと同じように斗真と一緒に登校した。


「斗真の当番は何時なの?」

「今日の午前中と明日の片付けかな。それ以外はフリー。クラスのイケメン連中が、売った方が儲かるからな。俺は裏方だよ」

「ふうん。私は今日の午前十時の開始から午後十二時までと午後三時から午後四時半までを受け持っている。二日目も同じ」

「それって酷くない?」


「まあ、担当分けしているし、部員もそんなに多い訳じゃないからね。それに来客少ないだろうし」

「そんなもんか?」

「うん、そんなもの」

「斗真、お昼は?」

「クラスの仲間と購買で買って教室で食べるか、模擬店の物を食べるかかな。決まっていない」

「美緒は?」

「私も同じかな。二日とも担当だから」


 教室の前に着いて斗真と別れた。


 私は一度、教室に行ってから部室に行った。他の子達も最後の確認をしている。

「どうだい。二年目だからもう緊張しないだろう」

「あっ、部長、そうでもないですよ」


 私に声を掛けて来たのは、情報処理部の部長長瀬信也(ながせしんや)さんだ。フチなし眼鏡を掛けて体の細い人だ。

「俺もこの文化祭が部長として実質最後だ。宜しく頼むよ」

「はい」


 文化祭実行委員長の全館放送の開始の挨拶で文化祭が始まった。と言っても直ぐに誰か来る訳でもない。


 三十分位して、一年の男子生徒が二人来た。私の担当の最近のITの発展についてなんて興味なさそうだが、スマホのアプリ開発の手順の所で、大分熱心に聞いていた。


 偶に私の資料を聞きに来る貴重?な生徒もいたので、熱心に説明してあげた。暇な時間は部の仲間とおしゃべりして過ごした。斗真は今日の午前中って言っていたから今やっているのかな?



 やっと、午前中が終わり、一度教室に戻ると周防さんも帰っていた。

「どう、模擬店の方は?」

「まあまあだよ。クレーブだからそれなりには売れるけどさ。美緒の方は?」

「私のパートより、スマホのプログラム開発の仕方とか、PCの組み立ての仕方とかそっちの方が人気あるかな。だから忙しくない」

「そっかぁ。購買に行く?」

「そうね。明日は模擬店にしようか」

「うん」



「斗真、昼行くか」

「ああ、ちょっと外で食べる」

「そっか」


 俺は、クラスの仲間から誘われたけど断った。約束している人が居る。校舎の傍に並んでいる模擬店の横にある飲食スペースに行くと

「あっ、斗真。こっちこっち」

「待った?」

「ううん、食べ物買ってたから、私も今座った所。焼きそばとたこ焼きとフランクフルト」

「後で割り勘な」

「うん」


 俺達は食べながら、

「理央の当番は午後二時からか」

「うん」

「じゃあ、これ食べたら、体育館でやっている奴でも見に行くか」

「うん」


 食べ終わると器とジュース缶を片付けてから体育館に行った。ちょうど演劇部がロミオとジュリエットをやっていた。中々の迫力だ。


「ねえ、斗真、あれって本当にキスしているのかな?」

「まさかぁ」

「でも結構迫真の演技だよ」

「あっ!」

「あっ!」

「「やっぱりしている」」


「ふふっ、ちょっと刺激されちゃうね」

「文化祭の代休があるから」

「うんその時にね」



 その後、吹奏楽部が始まった。二人でそれを聞き終わった後、

「じゃあ、斗真。今日はここまでね」

「うん」



 理央は俺と別れると俺達のクラスの模擬店へ向かった。ここまでは偶然で済ませられる。そして俺はその足で、美緒の情報処理部の部室に向った。


「斗真、来てくれたんだ」

「勿論だよ。美緒の発表だもの」

「じゃあ、聞いてくれる」

「ああ」



 美緒の説明が一通り終わると

「どうだった?」

「パワポは良く出来ていて説明も上手かったけどって感じ。でも良いんじゃないか」

「なに、その取って付けた言い方って」

「いや、褒めたんだけど」

「本当?」


「ほんと、ほんと。じゃあ、他のクラスも見るから。そうだ明日、美緒の空き時間に一緒に回るか?」

「ほんと!うん。絶対に回る」

「じゃあな」

「うん」


 斗真は優しい。私の事も思ってくれている。



 帰りは流石に一緒に出来なかった。斗真は先に帰っていたみたいで、部屋の電気も付いている。安心した。やっぱりあれは気の所為だったのかな。もう忘れよう。



 次の日、文化祭二日目。私は昨日と同じ様に午前中と午後、部室にて説明担当要員だ。だけど慶子と昼食後は、文化祭を見て回ろうという事になっている。



 午前中は生徒の家族関係の人もいたので、結構聞いてくれる人が多かった。昼休みになり、私は慶子に

「ねえ、せっかくだから模擬店の物を買って食べようよ」

「いいね。そうしようか」


 せっかくだからと斗真のクラスの模擬店に行く事にした。彼は居ない筈だけど。行って見るとあっ、居た。でも同じクラスの白石さんと楽しそうに話している。何で?



 二人で模擬店の前に行って

「たこ焼き二つ下さい」

「はい、二つですね」


 斗真がこっちを見た。

「あっ、美緒。来てくれたんだ。ありがとう」

「うん」


 それだけ言うとまた彼は白石さんと話し始めた。気に入らない。私が来ているのに何で他の女の子と楽しそうに話してしているのよ。


 少しご機嫌斜めが顔に出たのか慶子と一緒に食べていると

「美緒どうしたの。たこ焼き買ってからご機嫌斜めだよ」

「えっ、そうかな」

「ふふっ、さっき本田君が白石さんと話をしていたから焼き餅焼いたんでしょ?」

「えっ、そんな事…」

「あるんでしょ。でもあの二人は同じクラスだし、模擬店の傍に居たら話をするんじゃない」

「まあ、それはそうだけど」


「あははっ、言ってやればいいじゃない。私の斗真と話をしないでって」

「そ、そんな事出来る訳ないでしょ。斗真とは幼馴染なだけなんだから」

「いつまでもそれでいるつもり。本田君、明るいし優しいから結構裏でモテるのよ」

「ほ、本当?」

「私だって、美緒が本田君が好きだと知らなければ声を掛けたかも」

「えーっ。それ駄目」

「ほら見なさい。先手必勝よ」



 慶子とは、それから自分のクラスのクレープも食べて少し一緒に回った後、また部室に戻った。

 告白かぁ、斗真ならうんて言ってくれるかな。でもなぁ。やっぱり難しいよぉ。


―――――


書き始めは読者様の応援が一番のエネルギーです。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひフォローとご評価★★★を頂けると嬉しいです。

宜しくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る