よくわかるサンタクロースの生態

金澤流都

サンタクロース、その驚きの生態

 サンタクロースは今や、日本のどこでも見かける冬の風物詩である。しかしそれは日本人の商業活動と、異国の祝祭日がベストマッチしてしまった結果生まれたもので、もともと外来種であるうえに進化を遂げた、クリスマスというものを誤解した存在である。

 そもそも日本人は元来自分たちが2000年以上かけて育んできた文化があるのに、異国の祝祭日を取り入れるのが異様に好きである。だからいまはさまざまなサンタクロースの亜種がおり、「ジャック・オ・ランタン」であるとか「イースターバニー」といったその祝祭日の本質ではないかわいいキャラクターを自然界に脱走させてしまうのである。

 まあ宗教のことを堅苦しく言う気はない。ここでは「サンタクロース」という生物の生態について、少々解説してみようと思う。


 日本において、サンタクロースが発生するのは11月上旬である。生まれたばかりのサンタクロースは、まだプレゼント袋が発達しておらず、人目につかないところでひっそりとクリスマスお取り寄せチラシなどを摂取して暮らしている。幼体のうちはプレゼント袋の栄養を吸収しているという説があるが、これはまだ確認されたわけではないので正確な情報ではない。

 サンタクロースの活動が活発になってくるのは11月16日からである。11月15日は七五三という日本古来のイベントがあり、その日までスーパーは七五三一色となるからだ。

 七五三の時期が過ぎれば、サンタクロースたちは活発になる。店々にはクリスマスソングが流れるようになり、スーパーでも子供向けのプレゼントがぼつぼつと売られ始める。


 なお、サンタクロースの栄養となるクリスマスソングは、たとえば「ジングルベル」や「サンタが街にやってくる」といった、あくまで日本人らしい宗教観で当たり前に取り入れられるもののほうが、サンタクロースたちへの栄養分が多い。

 しかしクリスマス本来の「キリストの誕生を祝う」という趣旨に沿った讃美歌である「きよしこの夜」や「君なるイェスは今あれましぬ」などは、日本に生息するサンタクロースはあまり好まない。

 サンタクロースの祖先は聖ニコラスという聖人であるが、もはや日本のサンタクロースはその貧しい人に施しをした聖ニコラスとはかけ離れた形に進化している。

 要するに日本人の大好きなクリスマス商戦やクリスマスお泊まりデートには、クリスマス本来のありかたはいささか真面目すぎるのである。


 12月に入るとサンタクロースは盛んにケンタッキーフライドチキンや山崎製パンのケーキのコマーシャル、街のいたるところにあるイルミネーション、あちらこちらで流れているクリスマスソングを栄養にして激しく成長する。大きなプレゼント袋を持つ個体ほど栄養状態がよく、また分裂する際の個体数も多くなる。


 そう、サンタクロースは分裂するのだ。一体のサンタクロースではクリスマスプレゼントを配りきるのは難しい。クリスマス恒例のグーグルでサンタクロースを追えるというのは当然フィクションであり、実際は分裂により群体となったサンタクロースが人海戦術でプレゼントを配っている。

 そして、プレゼントを配り終えた12月25日の朝に、サンタクロースはいっせいに脱皮する。ぺろりんちょと「サンタクロース」という皮を脱ぎ捨て、ふつうの人間社会に入っていくのだ。そのさまはサンゴの産卵に近いとも、ザリガニの脱皮に近いとも言われている。


 みなさんも察しているとは思うが「ジャック・オ・ランタン」や「イースターバニー」も、行事が終わると脱皮して人間社会に混ざるのだ。だからそこを歩いているだれかや、電車で隣に座っているだれか、対向車線を走ってくるだれかは、もしかしたらサンタやカボチャやウサギかもしれない。いや、もしかしたらあなた自身が、全く無自覚に、サンタやカボチャやウサギなのかもしれない。


 脱皮したサンタクロースは街中で普通の人として生きている。そして、「今年も年の瀬だなあ」などとぼやきながら、餅や年越しそばやお高いアイスクリームやコーラを買ったりしている。もしかして灯油ストーブがいらないところならカニを買っているかもしれない。そして、紅白歌合戦やら格闘技やらお笑い番組やらを眺め、あるいは「どうぶつの森」のカウントダウンイベントを観たりしながら、一年が終わるのだ。


 人間にまぎれたサンタクロースはそのまま人間として生活を続ける。しかしごく稀に、サンタクロースとして生を受けたものはサンタのコスプレが好きな人となり、幼稚園や児童養護施設にクリスマスプレゼントを配りにいく。その慈善活動が好きな心根は、あるいは聖ニコラスに通じるものがあるのかもしれない。

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