第42話

 深夜一時過ぎ。


 ようやく最後のお客さんが会計を済ませて酒場から出て行った。


 そしてジェシカは最後に出て行ったお客さんが店内から見えなくなったのを確認してから私の方に声をかけてきてくれた。


「お疲れさん、ソフィア! 今日はどうだった? しっかりと働けそうかい?」

「はい、お疲れさまです。何とか大丈夫そうですけど、でもまさかこんなにも客さんが来るとは思わなかったです。だから今日は流石に疲れたましたね……」

「あはは、こんな夜遅くまでありがとなー! でも今日は本当に凄く助かったよ! あ、そういやソフィアはお酒はいける口なのかい?」

「え? あぁ、まぁ多少は飲めますが……でもあまり強いお酒とかは飲めないですね……」

「あぁ、そうなのか。はは、それじゃあ……コイツをお前にやるよ、ほらっ」

「え? って、わわっ……!」

「あはは、やっぱ仕事終わりはこれで締めなきゃだよなー!」


 ジェシカは店の酒棚に置いてある酒瓶を二つ取り出して、その片方の酒瓶を私の方にそっと投げてきた。私はそれを慌てながらもしっかりとキャッチした。


「こ、これは?」

「んー? あぁ、これはこの村で育てられてる林檎から作られた果実酒だよ。ま、一応この村の特産品って事にはなるのかな? ちょっと甘味が強いかもしれんけど、でも味は保証するよ。マジでめっちゃ美味いから沢山飲んでってくれよなー」

「へぇ、果実酒ですか。それはとても美味しそうですね」


 ジェシカにそう言われてから私はその酒瓶をじっと見てみた。すると確かにラベルには林檎のマークが描かれており、さらにはソラシド村産という文字も小さく記載されていた。


「あぁ、めっちゃ美味しいぞー。それにこの村で作る酒は度数は低くなるように調整していて、口当たりもまろやかで良いからさ、きっとソフィアにも飲みやすいはずだよ。だからせっかくだし良かったら飲んでいってくれよ。これは私からの奢りだからさ……ごく、ごく……」


 そう言ったジェシカはそのまま酒瓶の蓋を開けてゴクゴクと果実酒を飲み始めていっていた。


「はい、それじゃあせっかくなので私もありがたく頂きますね。それじゃあ……ごく、ごく……んっ!?」


 という事で私もジェシカのように酒瓶の蓋を開けてそのまま一口果実酒を飲んでいった。すると……。


「ぷはっ……い、いやこれ……物凄く美味しいですねっ!」

「はは、そうだろ? 意外と旨いんだよなぁ、この村で作る酒はさ。ま、特産品って名乗るだけはあるよな、あはは!」


 ジェシカのいう通りとても甘いお酒になっているんだけど、舌触りがよくてかなり飲みやすく調整されているように感じた。そして私は今まで飲んできたお酒の中でもかなり上位に入るレベルで美味しいと思った。これはサクヤにも御馳走してあげたいくらいに美味しいお酒だわ。


「えぇ、本当にそうですね! これほどまでに美味しいのならお土産に何本か買ってから帰りたくなりますよ」

「おー、そいつは嬉しい事を言ってくれるねー! あ、それならさ、せっかくだし果実酒の原料となってる林檎も是非とも食べていってくれよ? この村で作ってる果物も本当にどれも旨いからさ!」

「なるほどー。あ、確かにそう言えば、先ほど村長さんにこの村を紹介して貰った時に林檎園のような所は至る所にありましたね」

「あぁ、そうなんだよ。何かよくわからないんだけどさ、アルフォス領のここら辺の土地って木々が育ちやすい性質があるらしくてな。だからウチの村では林檎とかの果物を作るのに力を入れてるんだ。まぁだからさ、良かったらこの村から旅立つ前に一回は食ってみてくれな?」

「はい、わかりました。それではその時はせっかくなのでジェシカさんにオススメされた果樹園で食べさせて貰う事にしますね」

「あはは、そりゃあ責任重大だな! まぁそれじゃあソフィアのために美味しい果樹園を探しておいてやるよ」


 私がそんなお願いをしてみると、ジェシカは大きく笑いながら私にそう返事を返していってくれた。これはまた一つ新しい楽しみが増えていった。


「あはは、でもソフィアに村の特産品を気に入って貰えて何よりだよ。それじゃあ私も……んく、んく……ぷはぁっ! うーん、今日もよく働いたなっと!」

「ふふ、とてもいい飲みっぷりですね。流石は酒場の店主さんですね」

「あはは、そうだなー。まぁ私はガキの頃から毎日仕事終わりには酒を飲むっていう生活を繰り返してたからさ、だから気が付いたらいつの間にか滅茶苦茶酒に強くなってたんだよな、あははー」

「へぇ、ジェシカさんは子供の頃から働かれてたんですね。その頃からずっと酒場で働かれてたんですか?」

「んー? あぁ、いや、違うよ。私は元々は冒険者をやってたんだ」

「え……えっ!? そうなんですか! それは凄いですね!」


 という事でこの酒屋のオーナーを務めているジェシカは何と子供の頃は冒険者として働いていたとの事だった。


 冒険者というのはこの世界に存在している職業の中の一つだ。国や町から要請された依頼をこなして金を稼ぐ事を生業にしている者達の事である。


 そしてそんな冒険者に届く依頼内容というのは多種多様な用件があり、薬草や鉄鉱石などの採取依頼もあれば、中には凶暴な魔物討伐や未開の地の情報収集などの危険な依頼も数多く存在していた。

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