第41話

 その日の夜。


―― ワイワイ、ガヤガヤ……


 ジェシカの言う通り、酒場は開店と同時にこの村に住む若者達やガルス領からやって来た冒険者達が酒を飲みに続々とやってきた。うん、これは確かに給仕のアルバイトが欲しくなるわね。


 という事で私はすぐさまこの酒場で給仕の仕事を任される事となった。仕事内容としてはお客さんからの注文を聞いてそれをジェシカに伝える。そしてジェシカが作った料理と酒をお客さんに運んでいく。基本的にはそれだけだ。


 まぁ仕事内容は割と簡単なんだけど、でも休む暇もなくお客がどんどんとやってきているし、ジェシカは厨房に入ってオーダーを受けた料理をひたすらと作っているので、お客さんへの接客は基本的に私一人での対応となっている。


 そんなわけで私が想像していた以上にお客さんがやって来てとても忙しくて大変なんだけど、でも私にとっても初めての接客業という事もあって、とても楽しく給仕の仕事をやらせて貰っていた。


―― チリンチリン♪


「ようジェシカー、今から三人いけるかー?」

「んー? おう、いらっしゃい。今から三人大丈夫だよ。あっちのデカいテーブルを使ってくれ」


 次に酒場に入って来たのは三人組の女性のお客さんだった。年齢は二十代前半くらいで私よりも少し年上かなと思った。そして腰や背中に武器をさしているのでおそらくは冒険者のグループだろう。


「あぁ、ありがと……って、あれ? 今まで見た事のない顔だけど……もしかして新人のバイトの子かい?」

「え……あっ? 本当だ!? やっとバイトが雇えたんだジェシカ! あはは、良かったねー。でもこれで注文が早く出来るようになるといいんだけどなー?」

「おいコラ! それじゃあまるで私一人の時は全然注文出来なかったみたいな口ぶりじゃねぇか!」


 そんな冒険者達の喋り声を厨房から聞いていたジェシカさんは怒りながらそんな事を言ってきていた。


「あはは、だって本当の話じゃん! アンタ一人の時は自分達で勝手に酒を注いでけってセルフサービスで私達に全部やらせてたじゃんー」

「そうだそうだー! 飯は滅茶苦茶旨いけど注文するのに10分とか15分とかかかる事もザラにあったしなー。あ、それじゃあ早速注文しても良いかな?」

「あ、はい、どうぞ!」

「あぁ、それじゃあエールを三つと、肉の炒め物を二つ、それからチーズの盛り合わせも一つ貰おうか」

「はい、畏まりました。それでは少々お待ちください。オーナー、注文入りまーす」


 という事で私は早速冒険者のお客さんからの注文を聞き入れて、そのままジェシカに伝えていった。


 そして私はジェシカが料理をしている間にエールをジョッキに注ぎ入れて、それらをお客さんに提供していった。


「はい、おまちどおさまです。まずはエール三つです」

「おっ、ありがとー! あはは、これからはセルフサービスじゃなくなったのは本当に助かるー!」

「本当本当! これでさらにこのお店の居心地が良くなるわー! あはは、それじゃあ……かんぱーい!」

「かんぱーい!」


 そう言ってお客さん達はエールの入ったジョッキを豪快にゴクゴクと飲み干していっていた。


「……ぷはぁっ! いやー、仕事終わりのお酒は本当に格別だね!」

「うんうん! いや本当に今日も沢山働いたよねー。まぁでも実際には薬草集めてただけだけどさ、あはは」

「うーん、それにしても何だか最近は最近冒険者としての仕事あんまりこなせてないよね。魔物退治とか未踏の地を攻略とかも全然やれてないしさー」

「確かにね。まぁでも私達の故郷がマズイ事になってんだし、これからも薬草集めはしっかりとやっていかなきゃでしょ。それにこれも一応は冒険者としての依頼なんだしさ」


(……なるほど)


 私は駄目だとはわかっていたんだけど、ついついその冒険者達の話しを盗み聞きしてしまっていた。どうやら彼女達はガルス領からやって来た冒険者達のようだ。


(やっぱり、回復薬が枯渇した事によって領内では大変な事になっているようね……)


 という事で私はそのアルバイト中に隣の領地では大変な事になっている事を私はこのお客さん達からの情報で知っていく事が出来た。


(この話はなんとしてもランス殿下にお話しなくてはならないわね)


 そしてそのためにも私としてはもう少しガルス領の情報を知っていきたいと思った。ちょうどこのソラド村には沢山のガルス領からの冒険者達がやって来ているとの事だし、その冒険者達から詳しい情報を教えて貰えたりしないかな……。


「あ、すいませーん! お姉さん注文良いですかー?」

「……えっ? あ、は、はいっ! わかりました! すぐ行きます!」


 でも今はそんな情報収集をしている場合ではなかった。今は与えられた仕事を一生懸命に取り組んで行かなきゃだわ!


 という事で私は一旦冒険者のお客さん達の話を盗み聞きするのは止めにして、私は給仕としての仕事に戻っていく事にした。

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