青いピエロのお兄さん

月寧烝

青いピエロのお兄さん

「大丈夫かい?」



テストの点が悪く、泣く子供。

それを慰めるお兄さん。


微笑ましい光景だ。


が、しかし、子供はお兄さんを見上げるとテストのことなど忘れてポカンと口をあけている。


「お兄さん、へんなの」


子供はそう言った。

そう、お兄さんと呼ばれた青年は優しそうな顔をしていたが、髪の毛が真っ青な海だった。


青年の髪は海で出来ていて海の上には、おもちゃのように小さいヨットがポツンと浮かんでいた。

時折そよ風でなびく青年の髪は海の匂いがした。



青年は勉強が嫌いだったが子供に一生懸命勉強を教えた。




「変なお兄さんだけど、いい人なんだね」


子供は純粋な眼差しで青年の頭のヨットを見つめた。


「僕は道化師なんだ。僕に会うと皆笑顔になるんだよ」


「道化師?ってなに?」


「まぁ、そうだな。いわゆるピエロみたいな…」


「へー、世界には色んな変態がいるんだね」


「ふふっ、喉が渇いただろう」


青年が指を鳴らすと、子供の手にはジュースが握られていた。


「わぁ!すごいマジックだね!これ飲んでいいの?!」

青年は笑顔で頷く。


子供はジュースを飲みながら、何かがひらめいたように勢いよく顔をあげ青年に飛び付いた。


「夏休みの自由研究、お兄さんのことを書いていいかな!?」





翌日、青年と子供はセミが鳴く木の下で待ち合わせをした。


「今日は、お兄さんのことを色々教えてね!」


青年は笑顔で指を鳴らし何処からか飛び出た帽子を子供に被せた。


「今日は暑いから気をつけてね」


子供は早速メモを取り出し、ペンを走らせた。

「お兄さんが指を鳴らせば帽子が出てきたっと」


子供は夏休みの間、毎日のように青年と遊んだ。



子供は初めて会った時から気になっていたことを聞いた。

「お兄さんの髪は何で海なの?何でヨットを浮かべてるの?」


「あはは!子供はグイグイ聞いてくるね」


青年は自分でも髪が海なのは謎らしい。







また別の日の夜、子供は塾の帰りに青年を見かけた。

青年の海の髪は嵐の海のようにうねっていた。


「あっお兄さん、…何か落としたの?」


青年は顔面蒼白で何かを必死に探していた。


「ヨットを」

青年はいつもの笑顔を忘れたかのように泣き出しそうに顔を歪め、事の始まりを子供に話した。


「気付いたら居なくなっていたんだ。ヨットだけは、誰にも渡せないんだよ」


子供は普段の青年と似ても似つかない今の姿に焦った。

「ヨットだよね、ヨット探すの手伝うよ。

あっちを探してくるから、お兄さんはここらへんを探しといてね」




子供は公園にて、水飲み場に浮かぶヨットを発見した。

「あった、はやくお兄さんのところに…」

子供はヨットを両手で掴み、青年の元へ走る。


「きゃっ、待って彼に渡さないで!もう自由がなくなるのは嫌!」


子供はヨットに乗る小さなお姉さんにギョッとした。

「お姉さんが喋ったの?」


「そうよ!」


「あのお兄さんが嫌いなの?」


「あいつ、何も言わず私を小さくしてヨットに詰めて、…とにかくずっとあいつと一緒にいたのよ!

だから彼に渡さないで!」


「でも、お姉さんがいなくなってお兄さんは悲しんでたよ」


「あいつはいつもそうなのよ!」


「?、とにかくお兄さんが待ってるから」


「あっこら!待ちなさい!」




「はぁっ、お兄さん!あったよ!」


子供は、落ち込んで探している青年の頭にヨットをトプンッと戻した。

青年の髪は先ほどまでとはうってかわって穏やかないつもの髪に戻った。


「もー!」


小さなお姉さんはプリプリと怒っていたが青年は嬉しそうに安心し、いつもの笑顔に戻った。




青年は子供の顔を覗き込む。

「いつものように元気のない人を笑顔にしていたらね、僕の海の髪が気になった幼い子供に髪を少し切られてしまったんだ。

その時は子供も笑顔だったから良かったんだけど、気付いたらヨットもなくなっていたんだ。

でも彼女も無事に見つかって良かったよ、ありがとうね」


子供を家まで送り届ける道すがら、青年はヨットのお姉さんのことを照れくさそうに話した。


「彼女は一人になってしまったんだ。

彼女は笑わなくなってしまったんだ。

寂しくないように僕が側にいる。

以前彼女が僕にしてくれたみたいに、僕も彼女の毎日を笑顔にしたかった。

ただそれだけなんだけどな…」


「大人なのに二人とも何も分からないんだね。

お姉さんが何も言ってくれないって言ってたよ。

お互い言葉不足なんだよ。

…お姉さんと少し話したんだけどお兄さんのことそんなに嫌いじゃないみたいだし」


「そうかい!?それなら良かったよ!」

青年は笑顔で指を鳴らし、いっぱいのお菓子を出し子供にあげた。


「君は幼いのにすごいね。…ほらもう君の家だよ」


「バイバイお兄さん!」










「で、出来た!!」

子供の自由研究は完成した。


その子供の自由研究は賞を取り、図書館に貼り出された。


それからしばらく、海の髪の青年は賑やか、おばちゃんたちのおかげで"恋に悩む若き少年"と瞬く間に広まった。

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青いピエロのお兄さん 月寧烝 @Runeshow

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