はてなきときのユートピア/超文明世界出身の彼が無双してもう一度超文明世界に戻ってくる話

スリスク110

~極点編~第1話 真相の塔と幻惑の森 / 忘却森にあるという、入ると死ぬかもしれない塔に入るか?という話

───何かやらなければ。何か使命があった筈……僕はもう、それを思い出せなくなっていた。


“忘れた”という事はさほど大切な事では無いのかもしれない。

でも、わざわざその使命を僕に託したという事は、その人にとっては大事な事だったのかも……?

いやいや、やっぱり大した頼みでは無い?


分からない。


僕は一体何を信じれば良い?

何に従えば良い?


本当に忘れているだけ?


結局生きて、考えて、見つけて、実際に確かめるしかない。だから、進み続ける。

何が好きで、何が嫌いで、何を望んで、何を託されたのかを思い出す為に。


───確かそんな事も言った気がする。


ここはクリフォトの森。

死を司るセフィロトの塔と対になる、生を司る黒き悪魔の森。

長く居れば居る程、その幻惑に強く罹り、

そして、その幻惑は万物を忘却させ、幻を見せるという。


……確かそうだった筈だ。たぶんあってる。

自分の身体に宿る生存本能が、微かに覚えているのだ。

要するに直感。元も子もない怪しげななんとなくではあるのだが、

この感覚を今は信じる事にする。


この森でやる事は、この森で木をきって、それで、

あの光り輝くセフィロトの塔へ持ち帰り、還元する事だ。


僕は不意に左の黒い掌を見た。

『経過時間:測定不能。"第一地球時間換算"にて、約"数千億年以上"が経過しています。』

『緊急通知:警告!警告!潜入限界期間から13カ月以上経過しています!至急帰還してください!』

黒手の掌に交互に赤く点滅する不快な紋様。

意味のある絵の列のようにも感じるが、その意味は良く分からない。

一体何がしたい?

正直、気味が悪いし、見て居たくもない。

もしかしたら、かつての自分はこの意味が分かったのだろうか?


カァーン……。カァーン……。


黒い樹海に鳴り響く斧の打撃音。

その音の方へ飛んで向かうと少女がアホ顔で立ち尽くしていた。

「あっるぇ!?きれんぞコレぇ~?」

彼女は僕と同じく、白いコートに黒手を着用している。

どうやら仲間のようだ。


「その樹は横ではなく、縦に切るんだ。」

咄嗟にそんな言葉が出た、別に何か考えたわけではない

不思議とほぼ条件反射的に口がそう言った。


「おぉ!?なるへそ~!!」

少女は頭に電球のアイコンが出たような顔をした後

黒い斧を上にかざした。

彼女の長い白髪がブワッと広がり、斬撃が縦に発生した。


「セツダァァァァァン。」と、そう斬撃の声が森にこだました。


しかし、樹は依然としてそこにそのまま立ち尽くしていた。

「ん~~~?やっぱ斬れないよぉ?」

「根まで一気に斬ってみるんだ。」

「なるへそ~!!」


与えたアドバイスを元に彼女は再び黒斧を上にかざすと、

その質感不明の斧の刃の部分が

一瞬キラリと光り、

「セツダァァァァァン!!」

「スパコォォォォォン!!」


切断の声。そして、樹が切断される声が同時に森へ響き渡った。

樹は真ん中から根っこまで斬られ、真っ二つに縦に割かれていた。

「おぉぉ~……!!」


感嘆の声を漏らした彼女は

樹を更にバラバラに砕いて拾い集めた。


彼女が縦に斬った時点で手ごたえはあった。

カァーンと音がしたのではなく「セツダァァァァァン」と声が響いてきた。

更に木肌に入った傷。これは横に斬っていたら入らない物だ。


僕達は回収した木材を背負って、身体が覚えている方角へ向けて歩き出した。


白と黒だけのモノクロ色の樹海を進んでいく最中、

僕は、咄嗟に彼女へこんな事を口走った。

「不思議な物だ。どうもこの世界が現実だと信じる事ができずにいる。」

「へぇ~。なんでぇ?」

「……縦にしか斬れない樹。上にかざして念じるだけで切断現象が発生する斧。

そんなもの、本来現実にありはしない。普通はない筈なんだ。」

「はぁ~?そうなのぉ?」

「あぁ、そうさ。それにこの森は忘却と幻惑の森。もしかしたらこの景色すら偽物。僕もキミも偽物。この感覚も感情も意識も偽物。僕らは小説の中の文字の世界の人間で、誰かに沸いたイメージなだけの存在……!あはは!何も信じられないな。な?」「ねぇ!おちついて!ダメだよ!」


全身の鼓動が異常な速さを観測している。


「そういえば、僕は昔から何も信じられなかったなぁ……。誰も何もかも。自信を持つのが怖かった。疑ってばかりだ。自信を持つ人間がすべからく善行を成していたわけではない。平気で他人を傷つけ、それに気づかず平然と笑っていて、自分もああなってしまうんじゃないかって、実は自分も手遅れで沢山の人に対してもうしてしまっているんじゃないかってさ!そうさキミの事もこれっぽちも信じちゃいないんだ僕は。あははは。不安で不安で不安で不安で不安で……だから知りたいのさ。何でも知りたい何でも壊したい。知るには破壊が必要なんだ。知識欲の権化たる我は好奇心と破壊の権化なり。全部壊セ。殺セ。壊セ。壊セ。殺セ。殺セ。アア……そうだイイコト考えた。ナイスアイデア。神がもたらした天啓だ。チョウドイイ。まずはお前ヲ。」


……気が付いた。両目が濡れている感覚があった。僕は彼女に抱きしめられていた。

「ハート(愛)を忘れて、マインド(思考)に呑まれてはダメだよ。ハカセ。あなたに教えてもらったんだよ。何を忘れてもそれだけは忘れてはダメなの。絶対に。」


「……ごめん。あぁそうか、そうだったのか。僕はハカセで、キミはコノヨだったね。」

「うん。」

「使命は覚えているね?」「うん。この木をあの塔に持っていくの。」

「私はハカセの事信じてるから。」「うん……ありがとう。僕の大切な子。」


コノヨの頭を優しく撫でると、彼女は嬉しそうにほほ笑んで、

もう一度僕を抱きしめた。


先へ進み、光り輝く塔の前まで来た。

「この塔の中に入れば、僕たちはこの塔に暴かれる。それは、僕たちの存在も正体も暴かれ、もう二度と会えなくなる可能性がある。例えば僕たちがそもそも死んでいたとしたら、この塔に入った瞬間お互いに消滅する事になる。もしも僕たちの正体が宝石なのだとしたら、宝石の姿に戻るだろう。」「でもぉ、この牧をこの塔の最上階まで持っていく事が私達の使命なんだよね。」「あぁ。」


「でも、怖いよな。」「ハカセと一緒ならいいの。」

「離れ離れになってしまうかもしれないよ。僕が生きて、君が消えて。」

「ならハカセの幸せを祈るの。幸せになってねって。」

「逆に僕が消えて、君が生きたら?」「ありがとうハカセ、だいすきっていうの。」

なぜか、また目頭から溢れてきそうになった。


「ハカセはどうなのぉ?」「……正直、耐えられないかも。」

「どうして?」「どうしてだろうな。たぶん君よりはずっと長生きだからさ。歳を取ると素直さを失う事がある。そうしてため込んで、言葉に出来ずに耐えられなくなって、本当はどうなのか言えなくなって、どうでもいいやと後悔と一緒に忘れてく。」

「本当はどうなの?」「コノヨと一緒に決まってる。」

「えへへ、ハカセめんどぉくさいね。」「ふふっ、そうだな。さぁ、また大切な事を忘れてしまう前に、……いこうか。」


「うん。」


塔の中に足を踏み入れ、僕たちの正体は暴かれた。


暴かれた僕たちはどうなったのか端的にいうと、僕たちは互いに消滅しなかった。

特段肉体にも精神にも影響はなかった。


しかし塔の外を見ると、様々な僕たちが映し出されていた。

・独りになり泣き崩れ、僕は自らの脳と心臓に杭を刺した。

 それでも僕は死なず苦しみ続けていた。大切だったんだ。あの子の事が。

 独りで行かしてしまった自分に罰を与えたが完全無欠最強無敵の

 不死身の身体にはどんな罰も罰になり得なかった。

・独りになり立ち尽くすコノヨ。立ったまま石になり動かなくなっていた。

 生命は気枯れていくと鈍重になっていき、やがて石に、意志だけの存在になる。

 コノヨはイシになった。

・僕たちは、青と赤の宝石だった。2人は一対の割れた石。

 ようやく一つになれたのだった。

・「私は生きるよハカセ。生きるのは死ぬこともセットなんだよ!」

 ああ、知ってる。知ってるからこそ、戻ろう。クリフォトの森でもう一度

 悠久の時を……


と言った具合に、ハカセとコノヨ。

互いのあり得た可能性が次々と投影されていった。


「なに、これ?」

「あり得たかもしれない可能性の僕たちだ。」

「……真相とは何かが分かった。それはあらゆる状態を複合しているという事だ。」

「どういう事?」

「僕たちは、宝石にも成り得たし、お互いに消滅、取り残される事もあり得た。もしかしたら敵同士で殺しあってたかもしれないし、結ばれていたかもしれない。可能性は無限大で全てが複合されている。」

「じゃあ私たちは何故ここにいるの?」

「一つは、僕たちがそう祈ったからさ。そうなりたいってね。

そして、この世界に繋がる全てがそう祈ったから。それはこの世界全体がそう祈ったとも言えるし、もっと僕らが認知しえない存在がそう祈ったのかもしれない。例えば、僕たちに繋いだ作者の様な存在がいるとして、その作者がそうなるように祈った。意乗りした。もしかしたら、読者だってそう意乗ったのかもしれない。"なんでそうしないんだ!"って読者が文句言って、作者が折れれば今の僕たちは存在するだろう?」


「だとすると私たちは幸せ者だね。」

「あぁ、逆に作者は、あの外の僕らのようにする事もできたんだ。そう、ありえたし、そうして完結させることもできた。でも僕たちはこうして存在している。

僕も君も、誰も彼もがそれが良いと選んだんだ。

それが紛れもない真相さ。」


━━━塔と、森の世界は崩壊を始めた。


真実は決してこの極点の世界だけでは無かった。

少しずつ、断片的ではあるがこの世界に来た経緯を思い出し始めた。

僕たちは、とある手段を用いてこの世界に逃げてきていたのだ。


敵から僕たちは逃げてきた。そしてこの世界の夢に罹った。


でも結局、真相に辿り着いた僕たちは、夢から醒めざる終えなくなった。


それでも良かったのかもしれない。


僕はコノヨを大切に、愛情を与えることに喜びを感じていた。

そして、彼女の温度の乗った言葉に何度も救われてきた。


ダメだ、僕は◯◯失格だ……。


なんて言ったらまた怒られてしまうな。


……さて、もうすぐ目覚めの時が来るだろう。

世界は色付き、確かな肉体の感触を以って。。。


■■■


僕の名前は、愛結崎 カズヤ。proto01というとある研究の実験体として産まれ、

後にハカセという呼び名を与えられ、紆余曲折あって今こうして覚醒の時を迎えた。


立っていたのは、白く硬い材質がタイル状に敷き詰められた空間だった。

そして目の前にあるのは、立方体を半分に切ったかのような

不気味な半顔のバケモノ。


その半顔の断面からは、ドロドロとした黒いモノが流血のようにあふれ出し、その中から今度は黒いバケモノが出てきた。2つの目が赤く不気味に光る悪魔。


━━━99.99%の純度で顕現した極めて純粋なる悪魔。

この果ての時を終わらせるために産まれた悪魔。

僕はこの悪魔に打ち勝たなくてはならない。

でないと先へは進めないのだ。


終焉の次には、すぐに始まりがある物だ。

その始まりの前の前座。

終わりの始まりが、

始まり前の終わりの始まりが、始まろうとしていた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

コホンコホン。あー、あー、伝わってるかな?

ヤッホー!……。コノヨです!ですでっす!

今ね〜、ここに繋がってる人、つまりこのメッセージを見てくれる人に

言葉を送って良いって許可もらったんだよぉ!凄いでしょ!


あー……。私の方には、あなたの声は何も聞こえないんだけどね〜

カナシー。


私ね、もとの世界に戻ったら〜、ハカセにいっぱいヨシヨシしてもらうんだ〜!

だってハカセは、ハカセは、本当は………私のパパだから。

私が我儘な事言っても、優しく一緒に考えてくれて。色々教えてくれるの。

あっちでは1人でいる事多かったんだけど、寂しがり屋なのかな……。

ぎゅっと抱きしめたとき、小さい子みたいに感じたりする事もあるの。

大人なのに不思議だよね。あれ?でも姿は子供のようだったけど、

あれあれなんでだ〜?

よし!これもあとで教えてもらおう!……。


メッセージおしまい!

顔が見えないと言いたい事ズルズル言っちゃうよね。


……はやく会いたいな。


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