スカー

 姉の顔には、結構な傷跡がある。


額の生え際に4センチ程の縫った跡。

右目の目尻にも小さいが縫った跡。

そして、何より目立つのは左眉の傷。

これに関しては、赤くアザが残ってしまっている。

ピアスを引っこ抜かれた時の傷跡だ。

なので、姉の左眉は途中何ミリか禿げていて、赤いアザが露出している。

これがまたパンクっぽくて、それなりにクールだ。


姉は、まだ良い方だ。


 バンドメンバーのショウくんは、顔面だけで20針以上縫っているという。

喧嘩で投げ飛ばされ、ガラスを突き破って大怪我したらしい。

ハーフっぽい顔でイケメンなのに。


レイちゃんに関していえば、顔中傷跡だらけで、唇の左側に縦に割れて縫合した跡がある。

だいたい脇腹を刺された傷跡が勲章だとか言っている。


 いったいどんな生活をしていたのか。

ロンドンで相当手荒いことをやっていたのだろう。

パブで飲んで泥酔し喧嘩三昧の奴らの中に、姉も入っていたということなのか?


 日本の女の子にしては大きい方ではあるが、身長はせいぜい168センチ位。

さらには、ガリガリに痩せ華奢もいいところだ。


バンドメンバーのレイちゃんとショウくんは180センチあるが、欧米人の中に入ってしまうと華奢な方だと言っていた。


「お姉ちゃん!

ロンドンのミュージシャンって、そういうものなの?

喧嘩して怪我して傷だらけ」


「まさかぁ!

ロンドンのスタジオのメンバーが悪かったんだよ」


「いつもよく言ってるレッドフォーズ?」


「そうだね。

下町生まれで言葉も汚いし、喧嘩っ早いし。

でも、みんな良い奴だったよ。

仲間思いだったし」


「だからって、華奢なお姉ちゃんが加勢して、役に立ってたの?」


「失礼な!

私だって、それなりに役に立ってたよ。

だって、必殺技教えてもらったもの」


「えー!必殺技って何?」


「金的、目つぶし、頭突き」


「それって全部、反則技じゃないの?」


「ストリートの喧嘩に、反則技なんてないよ。

っていうか、反則だらけだよ」


「そういうのに、自分から参戦してたわけだ」


「いつもじゃないよ。時々ね!」


「っていうか、レイちゃんが言ってたけど、発端はだいたいお姉ちゃんだって」


「だって、みんな私を馬鹿にするんだもん。

で、私が泣いたり、叫んだり、ぶん殴ったりしたら、それが合図で大乱闘みたいな!」


結局みんなから愛されていたわけだ。

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