ガンゲーム2


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同日 八時三〇分

ブレイズロック基地 室内射撃場

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 対物ライフルも抜けなさそうなぶ厚い鋼鉄の扉に、射撃場の扉は事故が起こった際外に被害が出ないように防弾仕様になっている。

 武器庫を開けたイヴァに、リレーサは一番に銃を受領すると重たい扉を押し開けて射撃場に入る。

 換気された空気に、射撃場は洗われた洗濯物のような綺麗な空気で満たされていた。

 壁際に設置されたテーブル。

 リレーサの役職はアサルトで、敵の建物に突入するのが仕事だ。そんなリレーサの銃はメインがM4A1でサブが1911。

 無臭な空間を早く火薬の匂いで満たそうとリレーサは銃を机に置くと早速弾の入った箱を開ける。


「どういうメニューでするの?」

「ワントランジションワンしてから、一から順番に撃って途中トランジションするドリルでどう?」


 トランジションの練習がしたいと言ったのはリレーサだ。

 弾込めを行うリレーサに、二番目に銃を受領したエリシーは尋ねる。

 トランジションとは、メインウェポンからサブウェポンに武器を切り替えることだ。

 トランジションを行うのは大抵がメインの弾が切れたときだ。その為、トランジションの練習をするきは直ぐ弾切れが起こるようにマガジンには僅かにしか装填しない。が、この僅かが一発なのか数発なのかは行うトレーニングによって異なる。


「どういうメニューでするの?」

「ワントランジションワンしてから、一から順番に撃って途中トランジションするドリルだって」

「分かった」


 訊いてきたキリエにエリシーが伝言ゲームのように答える。

 ワントランジションワンとは、メインで一発撃ってトランジションをしてからサブで一発撃つというものだ。用意するマガジンはメインは二本で一本は一発だけ入ったもの、もう一フルのもの、サブはフルのものを一本。


 コンコンとマガジンの背中を叩く。弾込めが終わったリレーサはガンベルトを巻くと、ハンドガンとマガジンをホルスターとマグポーチに収める。そしてアサルトライフルに手を伸ばし掛けたところではたとその手を止めた。

 撃つ準備は出来たが肝心な物の準備がまだだったことに気づいたリレーサは、立ち上げると振り返ってしゃがむ。

 クッションなどは無く辛うじて面取りだけはしているそれは椅子と言うよりは長方形のデカい木の箱だ。

 椅子は収納が付いている。


 射撃場には銃を扱う上での注意事項がいくつかある。その一つに人に銃口を向けるな、というものがある。

 横一メートル、奥行き五○センチ程の引き出し。しゃがんだリレーサが引き出しを引っ張ると出て来るのは段ボールでできたマンターゲットだ。

人の上半身を模ったターゲットは脳と心臓のある位置は最高得点となっている。

 注意事項とは矛盾しているようなターゲットに、そんなこと考えもしないリレーサは撃ちまくるだろうとターゲットをごそっと取り出す。

余ったら後で仕舞えばいいとばかりに取り出されたターゲットの束に、リレーサはそれを机に置くと一枚取ってそれをレーンにセットする。


 室内射撃場は全長が二五メートル程あり、二五ヤード(二二・八メートル)のレーンが八レーンある。

レーンに射撃場で見るような仕切りはない。それはここが色々な射撃を想定して設計されているからだ。

例えば、レーンごとに仕切られていればそのレーンの的しか撃てないが、仕切りが無ければ複数枚の的を撃つことが出来る。他にも、仕切りがあればそれ以上前には行けないが無ければ前進や後退しながらの射撃も出来る。


 銃を取りに机に戻ったリレーサは、左手だけ手袋をすると銃を手に取る。

手袋をすれば引き金を引く感覚やグリップの感覚が鈍るという理由から逆利き手は手袋をしても利き手は手袋をしないというプロも居る。

 リレーサの利き手は右だが、手袋をしないのはその様な理由からではない。リレーサは右手で魔法を発動するのだが、爆破魔法を放つ際手袋をしていると手袋にも穴が開くからだ。

魔法を発動するときだけ脱げば解決する問題だが、だからといって毎回脱ぐのは面倒くさいリレーサは最初から付けないことにしている。


「誰か計って」

「じゃあ計ってあげる」


 本人にそんなつもりはないが片手だけの手袋に玄人感を漂わせたリレーサが言うと、二番目に射撃場に入ったエリシーが答える。

 床には五ヤード、一○ヤード、一五ヤードと五ヤード(四・五メートル)ごとに線が引かれている。

 リレーサはスリングに体を通すと、一発だけ装填されたマガジンを手に五ヤードの線に向かう。

 チャンバークリアは受領時に行っている。銃口を的にマガジンを挿入するとチャージングハンドルを引いて装弾する。プレスチェックを行うと、フォアードアシストを押し、ダストカバーを閉めるとライフルとの準備は完了だ。

 ライフルをだらんとぶら下げると、ハンドガンとハンドガンのマガジンに手をやる。


 抜いたハンドガンはいつ見てもカッコよく、惚れ惚れするフォルムについつい眺めてしまう。殺しの道具であるがそれだけではない。日本刀に美があるように、このハンドガンは美しい。

だからリレーサは後悔している。帝国では銃の所持が法律で認められている。一方で軍に登録している銃は訓練や任務が終われば武器庫に戻す必要がある。

ずっと手元に置いておきたいのにどうして自分は登録したのだと。

 メイドインUSAのフレーム。

 鏡のように磨き上げられたフィーデングランプ。スライドは前部にもセレーションを施し引きやすくしている。サイトは視認性を上げる為フロントが赤く塗装してある。サムセイフティはアンビシステムで左右どちらかでも扱える。トリガーはトリガーストップによって調節可能になっている。リングハンマーに、ハイグリップ用に削り込まれたビーバーテール。それだけじゃない。ほぼ全てのパーツが念入りに吟味され、カスタム化されている。

 黒のフレームにバレルやトリガーなどのシルバーパーツ。黒とシルバーのツートンカラーの銃は匠の一丁だ。

 昔はドワーフは刃物を作っていたが、今彼らが作っているのは鉄砲だ。

 スライドに掘られたオペレーターの文字。

 イヴァはガンスミスでもあり、この銃はリレーサがイヴァに頼んで拵えてもらった世界に一丁だけのカスタムガンだ。


 ベルトに二本差したハンドガンのマガジンに、手前にあるマガジンを一番とするのなら、リレーサが抜いたのは二番目のマガジン。銃口を的にマガジンを挿入すると、スライドを引いて装弾し、プレスチェックの後セイフティを掛けてからホルスターに戻す。


「準備OK?」

「OK。何時でもいいよ」


 ライフルを掴みローレディの姿勢を取ったリレーサに、ショットタイマーエリシーを手にしたが尋ねる。


「アーユーレディー、スタンバイ」


 アーユーレディーとは準備は良いですか? 的な掛け声で、スタンバイとはよーいドンのよーいの部分だ。

 邪魔にならないよう短く切られた金髪に、リレーサはその碧眼でターゲットを見据える。

 全神経を集中させドンの合図を待つ。

 エリシーがボタンを押すとピーと短い電子音が鳴った。

 刹那ドン、パンと銃声が轟く。


「二・一五」


 弾切れになるようライフルには最初から一発しか装弾されていない。引き金を引き弾切れになったライフルに、直ぐにハンドガンに持ち替えてもう一発撃つリレーサ。

 リレーサは良いタイムが出せたと思うと振り返り、何秒? と急かしてくる。

 振り返らないリレーサに、エリシーはリレーサの背中にタイムを言う。速いタイムではあるがリレーサにとってはまだまだのタイムだ。


「ぶっつけ本番はダメかー。二秒は切りたいなー」


 リレーサはそう言うと待ってとばかりにハンドガンから弾を抜く。ライフルから弾を抜かないのはライフルには弾は入っていないからだ。

 セイフティを掛けハンドガンをホルスターに戻すと、ライフルのボルトストップを押す。


 ライフルを的に向け引き金を引いたらハンドガンに持ち替えて引き金を引く。

パチン、パチンと空撃ちをする銃に、再度空撃ち出来るようにすると、再度ライフルを的に向け引き金を引いたらハンドガンに切り替えて引き金を引く。

反復練習のように繰り返される動きに、それは言わば野球でバッターがバッターボックスに入る前に行う素振りだ。

 ドライファイヤで動きを確認するとリレーサは銃に弾を込める。ハンドガンは普通に、ライフルは装弾した後タクティカルリロードを行う。


「アーユーレディー、スタンバイ」


 銃に弾を込めるというのは準備完了のサインだ。ローレディの姿勢を取ったリレーサにエリシーはタイマーのボタンを押す。


ドン、パン。


「何秒?」

「一・八一」


 今回は振り返ったリレーサ。キリエはタイムに視線を落とすと告げる。

 ドライファイヤのお陰か二回目にして二秒は切れていた。的には一回目と合わせて四つの穴が開いており、ただ早く撃ったのではなくちゃんと精度も確保されている。

 良しと言える結果だがリレーサはライフルに弾を込める。まだ二回目、全く撃ち足りていないのだ。

 再度ローレディの姿勢を取ると、リレーサは三回目を行う。


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同日 一○時○○分

同所

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 撃たれまくり中央にぽっかりと穴の開いた大量の段ボール。

各々が自分の中で良いタイムを出し、結果に満足した所でメニューは次に移る。先程の準備運動であり、これからが本番だ。


 床に並べた四枚のターゲット。カランカランとスプレー缶を振ったリレーサはそこに一から四の数字を書いていく。


「順番はどうする?」

「最初に撃ち始めたのリレーサだし、リレーサからでいいんじゃない?」

「私、エリシー、キリエ、シーナの順?」

「それでいいよ」


 射撃場に居るイヴァに、それは今からするドリルにリレーサが呼んで来たからだ。


「イヴァちゃんマガジンよろしく」

「じゃ、リレーサ出ていって」


 扉を指さし軽い口調で言ったイヴァに、言われたリレーサは射撃場の外に出る。

 椅子に座るイヴァにその眼前にあるのは二個のサイコロ。先程のトレーニングではメインには弾が一発しか入っていなかった。その為、弾切れになったからサブに切り替えるのではなく、一発撃ったからサブに切り替えていた節がある。

 今ら行うドリルはそうならないように二から一一の間でランダムな数弾を込める。そうすることで何時弾切れになるのか分からないようにしている。

 弾の数が上限一一、下限二なのは、一一よりも多いとトランジションをせずに撃ち切るからで、二よりも少ないとマガジンを見た際一発だと分かるからだ。


 ルールは、一から四の数字か書かれた的を一三二四や四三一二といった感じでランダムに並べる。

撃つ距離は五ヤードの距離から。射手は的に背を向けて立つと、スタート合図と同時に振り返りランダムに並べられた数字を一から順に三発ずつ撃っていく。

そして、四を撃ち終わったタイムが自身のタイムとなる。

 このドリルでは最下位の者が全員にジュースを奢ることになっている。イヴァが呼ばれたのは賭けを公平にするためだ。

 振ったサイコロの出た目だけ弾を込める。出目の数ぐらいであれば後ろを向かせておけば良いが、リレーサを外に出したのはマガジンに装弾する音で何発か数えられないようにする為だ。


「<メッセージ>いいよ」


 射撃場は防音になっており、銃声よりも大きな声でなければ外には届かない。伝達魔法で呼んだイヴァにリレーサが戻って来る。


「五発以上入ってますように」


 そう言ってマガジンを受け取ったリレーサに、リレーサがそう言ったのはハンドガンの装弾数からだ。

リレーサが使う1911の装弾数は七発で、このドリルでは一二発撃つ。もしメインの弾が四発であれば四+七の一一発になり、残りの一発はリロードをしてから撃たなくてはいけない。

このドリルではトランジションの速さを競うもので、リロードの速さを競うものではない。誰もリロードなしに撃つ中一人だけリロードをしていればそれは大きなタイムロスとなり、結果最下位になる。


 レンジにまだ的は並んでいない。受け取ったリレーサは的の無いレンジに向かうと銃口を正面に弾を装弾する。

それは、的が並べられた状態でレンジに向かって装弾すると順番を覚えてしまうからだ。ではと、レンジに背を向けた状態で装弾をすれば皆に銃口が向いてしまう。


「じゃあセットお願い」


 的が並べられる前であれば順番を覚えることも、皆に銃口が向いてしまうこともない。

 セイフティを掛け銃口を真下に向けたリレーサは、レンジに背を向けると正面に居るエリシーに言う。

 的は次に撃つ人が並べることになっている。エリシーは的をセットするとタイマーを掲げた。


「アーユーレディー、スタンバイ」


 鳴ったブザーに、リレーサは振り返りながらセイフティを解除する。

 三二四一と並んだ的。右端にある一の的に、右回りで振り返ったリレーサは即座に初弾を撃つことは出来なかったが、撃ち始めてからは早かった。

記憶した順番に二の的を撃ち終わった所でライフルの弾が切れる。六発入っていたマガジンはリロードの必要がない物だった。

視線を三にやりながらハンドガンを抜くと、撃ち終えたリレーサは銃口は前に向けたままエリシーの居る方向へ振り返る。


「四・六五」


 タイムはと尋ねる顔にエリシーがタイムを言うと、それを聞いたリレーサはオフロードをすると上機嫌で席に戻る。


 次はエリシーの番だ。

 エリシーは常に帽子を被っている。流石に朝食時などは寝起きなので被ってはいないが、被った黒の野球帽に映える若竹色の髪。

短く切り揃えられた髪の隙間を割って覗く長く尖った耳に、翡翠の目をしたエリシーの種族はエルフだ。


 一旦射撃場を出たエリシーは戻るとマガジンを受け取る。

「はい」と渡されたマガジンに、エリシーはリレーサのように何発以上入ってますようにとは願わない。

それはエリシーのサブがブローニングハイパワーだからで、ブローニングハイパーの装弾数は一三発で、リロードなしに全て撃つことが出来るからだ。


 逆にエリシーは少ない方が良いなあと思いながらマガジンを受け取った。

 エリシーの役職はスナイパーで、狙撃や偵察が仕事だ。

 昔はエルフは弓の名手だった。そして今エリシーが手にしているのはマークスマンライフル使用のFAL。

 リレーサのM4A1と比べ重たい銃に、また撃つ弾もリレーサの銃は小口径なのに対して、エリシーの銃は大口径弾で反動も大きい。

タイムを競う射撃にははっきり言って向かない銃だ。であれば、弾切れでさっさとハンドガンに持ち替えた方が良いタイムが出せる。


 的の並びが固定であれば二番以降が有利になる為的の並びは毎回変わる。今はまだ変わっていない的の並びに、エリシーもリレーサ同様に銃に装弾すると、的を背に銃口を真下にして立つ。


「キリエお願い」

「アーユーレディー、スタンバイ」


 エリシーの銃にはスコープが付いている。

一三四二と並んだ的。振り返ったエリシーはスコープを使わずに撃つ。それは、覗けばタイムロスになるからで、五ヤードという距離は覗かなくても腰だめで当てることが出来る距離だからだ。

 バシュン、バシュンと鳴り響く銃声。

 引き金を引くと同時に伝わる肩を突く強い衝撃に、普段はバイポットを使ったり何かに依託をして撃っていた為然程感じていなかったが、こう撃つと大口径弾の強烈な反動を直で感じる。

それは人によっては鎖骨が折れる程の衝撃だ。


「五・九八」


 撃ち終わるとエリシーは肩を落とす。鎖骨が折れたわけではない。

 少ない方が良かったマガジンには九発と結構弾が入っていた。結果メインを多用することになり、思うようなタイムを出すことができなかった。


 次はキリエの番だ。

 キリエの役職は忍者で、追跡や潜入、偵察を行うのが仕事だ。

 キリエのメインはMP5で、サブはワルサーPPK/S。

 キリエが使っているワルサーPPK/Sの装弾数は、リレーサの1911と同じ七発で、その為キリエは五発以上入っていますようにと、リレーサと同じことを願いながらマガジンを受け取る。

 的に向かって立ったキリエは引っ掛けていたチャージングハンドルを叩くとHKスラップで弾を装弾する。

カチャッと響く金属音にHKスラップは何百回とやっているが、それは何千回と聞いても聞き飽きない気持ちのいい、そして楽しい金属音だ。


「アーユーレディー、スタンバイ」


 キリエは桜色の髪を後ろで結んでいる。

 ブザーが鳴ると同時にキリエはそのポニーテールを勢いよく揺らすと振り返る。

 四一三二と並んだ的。一の的を撃ち終えるタイムは誰よりも早かった。そして、二の的に二発撃ち込んだとき弾切れが起こった。


 イヴァに呼ばれ射撃場に戻った時、リレーサが何やら言いたげな表情でこちらを見つめていたのをキリエは覚えている。

それがこれかとキリエは思う。

 リレーサやエリシーは弾の多い少ないの他に弾が三の倍数であるかを気にしていた。そして、それはキリエも同じだ。

ルールでは三発撃つと次の的に移れる。装弾数が三の倍数であれば次の的を探しながらサブに切り替えることが出来る。が、装弾数が三の倍数でなければ、キリエの場合であればサブに切り替えて一発撃ってから次の的を探さなくてはならない。

 これはタイムロスに繋がり、リロードが一番最悪ならばこれは二番目に最悪なことだ。

 キリエは桜色の瞳を二に固定したままトランジションを行うと一発撃ってから三に視線を向ける。


「五・八九」


 撃ち終えると同時にホールドオープンした銃にリロードだけはせずに済んだ。

 良いとは言えないタイムだが最下位は免れたキリエ。


 現在の順位は一位がリレーサでタイムは四・六五秒、二位がキリエでタイムは五・八九秒、三位がエリシーでタイムは五・九八秒となっている。

 最後に撃つシーナに、的は最初に撃ったリレーサが準備する。


 シーナの役職はメディックで、治療を行うのが仕事だ。

 そんなシーナのメインはモデル870で、サブはモデル19。モデル870はショットガンで、モデル19はリボルバーだ。

 リレーサやエリシー、キリエの銃は自動で次弾を装弾するのに対し、シーナのモデル870の作動方式はポンプアクションで手動で次弾を装弾しなければならない。

皆がセミオートで撃つ中、一人だけ手動で撃っていれば負けは確実だ。その為救済措置としてシーナのみ少しルールに変更が加えられている。

 射撃場を出たシーナに、これまではサイコロを二個振っていたイヴァは一個だけ振る。


 戻って来たシーナは銃を受け取ると、微笑みながらガシャンとポンプアクションショットガンの凶悪なコッキング音を響かせる。

ルールは、ショットガンに限り三発撃って次の的に移るところを一発で次の的に移っても良いという風に変更された。対象はショットガンだけである為ハンドガンは、三発ずつ撃たなければならない。

そもそも何故一つの的に三発ずつ撃つかと言うと、三発撃てば大体の人間は死ぬからだ。そして、ショットガンであれば一発喰らえば人間は死ぬ。だから、三発ずつ撃つところをショットガンだけは一発になった。


「アーユーレディー、スタンバイ」


 鳴ったブザーに、四二一三と並んだ的。

 的には小さな孔がぽつぽつと開いていた。九つある孔にそれは先に撃ったリレーサ達のものだ。

ショットガンに装填されているのは12ゲージのダブルオーバック。それを五ヤードの距離から。

遠目からでは開いているのかいないのか分からないサイズの孔に、シーナが撃つと的に拳サイズの孔が開く。

それはまさに人を一発で葬れる威力だ。

 二発目を撃った所で弾切れになったショットガンにシーナはリボルバーに持ち替えると撃つ。


「四・七八」


 皆が三発の所を自分だけ一発で良かったのだ、一位になれるのではと思っていたシーナはリレーサのタイムを抜けなかったことに少しだけがっかりする。

 席に戻ると銃を置くシーナ。

 全員が撃ち終わり結果は、一位がリレーサでタイムが四・六五秒、二位シーナでタイムが四・七八秒、三位がキリエでタイムが五・八九秒、四位がエリシーでタイムが五・九八秒となった。


「何にするの?」


 射撃場を出ると冷蔵庫がありそこではジュースが一本一リブラで販売されている。


「私コーラ」

「じゃ、私も」

「私もそれでお願いします」


 立ち上がったエリシーに、リレーサ、キリエ、シーナが言う。注文を聞き買いに行こうと扉に向かおうとしたエリシーはその言葉に振り返った。


「私も」


 リレーサ達に混じり注文してきたイヴァにエリシーはそっと手を伸ばす。


「一リブラ」


 買って来てあげるからお金と手を伸ばしたエリシーに、イヴァはえっ、と驚愕の表情を浮かべる。


「私にはないの?」

「参加してないでしょ」


 これはドリルを行った者の中での賭けだ。参加していないのだから無い。そう理論を展開しようとしたエリシーはイヴァのえっ、あからさまに驚いた声を出す。


「参加したよ、ディーラーとして」


 残弾を決めたのはイヴァだ。そしてカジノではディーラーへのチップはエチケットの一部として行われる。


「勝利のチップが欲しいなら三人に要求しなさいよ」


 ただディーラーへのチップは勝者が渡すもので、敗者から巻き上げるものではない。


「サービスに対するチップが欲しいんだよ」

「十割取る必要ないでしょ」

「それにいいじゃん、私も仕事あるなか付き合って上げたんだから」


 それを言われたら買うしかない。射撃場を出ると冷蔵庫がある。冷蔵庫を開け中に入っている瓶コーラを人数分とったエリシーは、冷蔵庫横にある集金用の瓶にお金を入れると栓抜きを持って戻る。


「ありがとう」


 一旦全部を机に置き、その中から自分のを取ったエリシーは栓抜きで蓋を開けると、栓抜きを回す。ゴクリと鳴る喉に訓練は休憩になっていた。

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