コックリさん

グカルチ

第1話

 Aさんが小学生5年生ごろの話。この学校ではこっくりさんが昔からはやっていた。おおらかな校風で、教師もそれと知りながら止めることはなかった。


 Aさんも例にもれずこっくりさんをたのしんでいたが、年の暮れに裏山の稲荷神社が取り壊されることになった。Aさんたちは、裏の稲荷神社のお稲荷さんが、こっくりさんの犯人だとおもっていたので、相当落ち込んだ。


 なにせ、こっくりさんをしたあとに夢にキツネがでてきて、何事か一言かけてくれる。どうすればよくなるとか、これはしてはいけないとか予言めいたことをいいのこし、その夢を見た人がその通りにするといい事がおこるとか。


 実際、Aさんの周りでも体験者は多かった。Aさんもその一人だった。しかし、取り壊しの工期は遅れ、Aさんが卒業間近となったときに、ついに取り壊しの機会が来た。


 その頃には教師ではなく親たちが煩くなっていた。こっくりさんは危ないとか、それだけではなく、部活の時間を短くしろとか、校則を減らせとか、やかましくなっていたのだ。


 コックリさんを中止しろという教師もいた。コックリさんが行われた時に、参加してない生徒が同時時刻に怪我をしただとか因縁めいたことをいうのだ。が、たしかにそうした“偶然”はなぜか、取り壊しが近づくと頻繁に起こるようになっていた。


 Aさんは、そうしたものが気にかかってはいたが、取り壊されたらコックリさんにあえなくなる。もうこんな機会もないだろうし、卒業も近いので、というのでコックリさんをやる事にした。Aさんには、大好きなBちゃんという女の子がいたのだが、彼女含め、放課後ほかの男子二人と一緒にする事にした。


 いつものように順調に進む。コックリさんは、教師の私生活を暴いたり、クラスメイトの好きな人を当てたりして大盛り上がりだった。しかし、ある質問を機に、様子がおかしくなった。その質問とは

「またコックリさんをやってもいい?」

 コインをもった指先は、あちこちにあらぶって、Aさんは焦って叫んだ。これは、儀式の最後に必ずいわなければいけないもので、こっくりさんが、はいとこたえて、鳥居をくぐって帰るまで儀式をおえてはいけない。

「コックリさんお帰り下さい!コックリさんお帰り下さい!」

 しかし、コックリさんは返る様子もなく、Aさんは必死の思いで空いている片手で、全員を突き飛ばした。そして、最後に自分が指を放したのだった。


 それはこの学校に伝わる噂で、もしコックリさんが帰らなかった場合、最後に指を放した人が不幸になるという話だった。


 その日、眠っていると、妙な夢を見た。自分の前に姿を現したキツネがこういったのだ。

「オマエ、もう二度とコックリさんをやるんじゃないぞ」

 次の日、早朝に母親にたたき起こされた。

「Bちゃん、入院したんだって!!!昨日から意識不明で……」

「なんで……なんでBなんだ、なんで俺じゃなく」

 Aさんはその日仮病をつかって急いでBさんのもとに向かった。母親同士も知り合いだったので、母親は、簡単に言う事をきいてくれた。


 病室につき、ベッドに横たわっているBさんを見る。Bさんの母親がいった。

「テレビを見ながら食事をしていたら、コックリさんが、コックリさんが、っていって突然倒れたのよ」

(絶対、ちゃんと儀式を追えなかったせいだ)

 突然Aさんの頭がぐらぐらして、景色が遠のく、母親たちは気づかないが、全身の力がぬけたようだ。その場に倒れこんだらしい。しかし母親たちは話を続けている。


ふと、意識が真っ暗な空間にとび、鳥居の前で、キツネがまっていた。

「お前は、私が鹿用の罠にかかっているところを助けてくれた、だから、大目にみたのだがこれは警告だ、二度とコックリさんをするなよ」

「え?どうして」

 キツネはふとため息をついた。

「今までは私が……」


 Aさんにはわからなかった。警告?そして、なぜ恩返しならBさんがこんな目にあわされたのか。


 ふと、ぼんやりとした意識から目がさめる。皆を見渡す。

「あれ?B」

 病院にいるはずのBがたっている。コックリさんをしていたほかの二人も、教師も、自分はどうやら、学校の保健室のベッドの上にいるらしい。

「どうして、入院してたはずじゃ?」

 今見た夢について説明して、尋ねると、周囲の皆は言った。

「違うわ、あなたコックリさんがおわってから倒れて、いままで意識をうしなっていたのよ」


 Aさんは不思議な事を体験したな、と思ってその日はおとなしく家に帰ったが、その次の日、コックリさんを体験した皆が口々にいうのだ。

「こんな夢をみてさ」

 その夢の内容は皆一致していた。

「キツネがでてきていうんだ、“Aは自分の事では恐れを感じない、しかし、Aがもっとも霊力があり話がわかるので、少し痛い目にあわせてやった、Bが危険な目にあうという幻覚をみせて……”」

 キツネは遠い目をして続けた。

「わたしは他の場所に移転することになる、コックリさんの犯人はこれまで私がつとめてきた、だが、それは、わしが低級な霊や悪質な例から守り、おまえたちと“じゃれついていた”から起こったことだ、これからはお前たちを守ってやれない“コックリさんをやって、まったく違う場所で、同時刻にけが人が出る事もあっただろう?あれは、移転の儀式を進めていたため、私の力が弱まっていたからだ”だから、このような儀式はやめるのじゃ、ここはあまりいい土地ではないでな」

 最後にAによろしく、といって、キツネは去っていき、夢から覚めたのだという。


 Aさんは、これは一大事だと考え、教師にコックリさんを禁止するように告げた。それから、校内で禁止したおかげで、大した問題は起きていないのだそうだ。



 

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コックリさん グカルチ @yumieimaru

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