51.宰相シエナからの誘い
王城の門を潜ってから馬車を乗り換えた。
本城の前でまた馬車を乗り換え、別邸に連れてこられた。親しい人間を持て成すため、あえてこじんまりと作った邸宅らしい。
(時代劇風にいうなら離れみたいなもんか。密談とか、こういう場所でするよな)
精霊国の王城に関しては、正直、設定資料集に書かれている以上の知識はない。シナリオにはほとんど出てこないからだ。
(キャラによっては国王に謁見しないからなぁ。国王ジャンヌは私好みの強くて格好良い女性に仕上げたけど)
権力を笠に着ることなく、公平に物事を判断できる才女。文武両道の彼女は男女問わず皆の憧れだ。
(今日はシエナとの会合だけど、ちらっとでも見られるかな。本物のジャンヌ)
別邸といっても充分に広い家の中を歩く。
窓の外にはバラの庭園が広がっていた。奥の応接間に通される。
部屋にはすでに、シエナとウィリアムが待っていた。
(ん? 実家に帰っているとは聞いていたけど、ウィリアムも同席するのか。まぁ、クラブメンバー全員が今回の件に関わっているし、ウィリアムはリーダーだしな)
「ノエル、体調は戻ったか? 元気そうに見えるが」
シエナが立ち上がり、ノエルに歩み寄った。
「ご心配、ありがとうございます。私は軽傷でしたので、問題ありません」
どうにもシエナには距離を取ってしまう。宰相という立場を考えれば仕方ないのだが、あまり信用して良い人物とも思えない。
(そういうキャラだから仕方ない。そういう付き合いをすればいい。根は悪い人ではないからな)
「魔力が戻り切っていないと報告を受けているが」
「自覚はあまりないのですが、そのようです」
シエナがちらりとユリウスに視線を移した気がした。
「障りないなら、何よりだ」
シエナがノエルのイヤリングに触れる。
ウィリアムがシエナに並んだ。
「迷惑を掛けてしまったね。兄上共々、礼をさせてほしい。本当に感謝している。ユリウス先生にも、御迷惑をおかけいたしました」
ウィリアムがノエルとユリウスに深々と頭を下げた。
「ウィリアムも被害者だ。気にすることはないよ」
「そうですよ。皆で切り抜けたんです。全員生きていて、本当に良かったです」
まだ目覚めないマリアとアイザックのことを思うと、手放しでは喜べないが、あの状況で死者が出なかったのは僥倖といえるだろう。
席に着き、改めて会合が始まった。
「堅苦しい席ではないから、気楽にしてくれ」
侍女がティーセットを準備してくれた。紅茶の香りが漂い、小腹が空いてくる。
「うちのスコーンは絶品なんだ。どうだい?」
「いただきます」
ウィリアムが手頭から取り分けてくれる。
「ジャムは?」
「クロテッドクリームだけで。あ、やっぱりブルーベリーもお願いします」
「だったら、ミルクティーを淹れようか? ノエルは好きだろ?」
「良いんですか? やったぁ」
何種類もジャムがあって色々試したくなる。
他にもスタンドに乗るケーキやサンドウィッチを眺めて、うっとりする。
二人のやり取りを眺めていたシエナが何気なく呟いた。
「手慣れているな。リアムはいつもそうやってノエルを餌付けしているのか?」
「餌付けって……」
確かに、皇子殿下にスコーンを取り分けさせ、あまつさえミルクティーを手配させるというのは、我ながら如何なものかと思う。
「なんか、すみません。学院の食堂みたいな気持ちでいました。ごめんなさい」
「ノエルは本当に美味しそうに食べるからね。つい、色々与えたくなってしまうんだ」
来たばかりの頃は、まともな食事が久しぶりだったせいもある。だが、この世界のご飯は普通以上に美味しい。
「ノエルは妹みたいなものだからな。もっと甘えてくれて構わないよ」
「……ありがとう、お兄様」
気まずさからウィリアムに乗っかった。
「なるほど、仲が良いのは良いことだ。なぁ、ユリウス?」
シエナがユリウスに視線を送る。
ユリウスはさらっとその視線を流していた。
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