24.リヨン=マクレイガー=トロイトの死
病院のスタッフにリヨンが出て行った方角を聞いて、足跡を追う。
探索魔法に引っかかってくれたのは運が良かった。
病院のすぐ裏には広大な森がある。郊外に位置するこの森は『魔獣の森』と呼ばれ、魔獣を森の外に出さないための結界が張られている。
足跡は、結界を超えて森の奥に続いていた。
ウィリアムとノエルは結界を超え、足跡を追って森の奥へと歩みを進めた。
(結構、奥まで入ってきちゃったけど、大丈夫かな。ユリウスが気付いてくれるといいけど)
どこかで待機しているはずのユリウスが、指輪でノエルの位置を探し出してくれるかもしれない。
しばらく歩くと、木々が開けた場所に出た。大きな岩山の前で、足跡は止まっていた。
「いませんね」
足跡の消えた付近に人の気配はない。
「まだ何分も経っていない。そう遠くへは行っていないはずだが」
ウィリアムが空を見上げた。
「飛行魔法を使われたら、追えないな」
飛行魔法は風属性の魔法だ。
リヨンは光と土属性に設定していた。飛行魔法は使えないはずだ。
(世界観と人物設定が変化していなければ、だけど。なんか自信なくなってきたな。そもそも事故前のノエルの行動が、かなりモブを逸脱しているし)
知らない新事実が、ざくざく出てきて理解が追い付かない。状況が状況でなければ、多分泣いている。
前を歩いていたウィリアムが突然、立ち止まった。
手でノエルを制し、人差し指を立てて口元に添えている。何かを見付けたようだ。
「あの岩の一部、ステルスが掛かっていないか?」
大きな岩肌の一部に魔力を感じる。
「壊してみましょうか? とんでもない何かが出てくるかもしれませんが」
「ここまで来て今更、引き返す気になるか? 魔獣が出ても進むしかないだろう。嫌なら、私一人で進むが?」
ウィリアムが腕白小僧みたいな顔で笑う。似合わない表情だ。
「そうですね。私も、ここで引き返すなんて、御免です!」
岩肌に攻撃魔法をぶち込む。
勢いをつけすぎて、岩が派手に砕けた。
「ノエルは普段、大人しいが、魔法は派手だなぁ。そこまでしなくても、あのステルスは壊せたと思うぞ」
「勢いあまって、つい」
ははは、と乾いた笑いを零す。
土埃が消えると、洞窟が現れた。
「やはり何かあったな。中を確認しよう」
歩き出したウィリアムに続く。
予感していた答えは、洞窟に入ってすぐに、見つかった。
リヨンが自身の胸に短剣を突き立てて死んでいた。
(最初から死ぬつもりで……? いや、殺されたのかもしれないな)
倒れているリヨンに歩み寄り、魔力の残影を探る。
(ユリウスみたいに巧く出来ない。もっと練習しておけば良かった)
本来、魔力を観測すること自体が難しい。残影ともなれば、微量な魔力の残りカスを探すようなものだ。高い精度を誇るユリウスが異常なのである。
ウィリアムが悔しそうに岩壁を殴りつけた。
「ウィリアム様、これ、もしかしたら呪いかもしれません」
短剣が刺さっている部位に手をかざす。ほんのわずかに闇魔法の残影を感じる。光と土の属性しかないリヨンからは、本来、感じるはずのない気配だ。
(直後だったせいか。私でも感じ取れる程度に残影が残っていて助かった)
「リヨン殿は呪い持ちだったということか?」
「正確には、違うのではないかと。私が束縛魔法と予測したものが、実は呪いだったのではないかと、思ったのです」
「しかし、こうも都合よく呪いが発動するのは、妙じゃないか? ……いや、誰かが意図して発動を促したのか?」
「直接触れなくても、呪いの構成要素を知っている闇魔術師なら遠隔操作できる、かもしれないと、思いませんか?」
ウィリアムが黙り込む。
「それが可能なら、闇魔術で呪いに別の魔術を付加することも、不可能ではないな」
ノエルは頷いた。
「おそらくは、それも可能と考えます。リヨン様は言葉に気を付けていたように見えました。別の条件が付与された呪いを受けたと、自覚があったのかもしれません」
実際、『呪い』に魔術付加は可能な設定だ。
ゲーム内では他の条件を付与したイレギュラーな呪いもいくつか登場する。だが、それらは極端に数が少ないし、何よりリヨンを殺す手段ではない。
(禁句、というより、封筒がトリガーだったのかもしれない。呪いに関する情報漏洩に繋がる行動、とか、そんな感じかも)
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