江戸川乱歩を深掘りしてみる

 今回は日本ミステリーの祖・江戸川乱歩について深掘りしてみます。そうはいっても個人では限界があります。そこはお許しください。



 さて、江戸川乱歩の基礎情報ですが、さっそく人だよりです。有栖川有栖氏の『本格ミステリの王国』から引用させていただきます。



 三重県生まれ、早稲田大学卒。

 1923年に『二銭銅貨』を発表。

 『屋根裏の散歩者』『人間椅子』などで注目される。



江戸川乱歩は三重県出身なのですが、現在の名張市に位置します。名張市といえば「名張毒ぶどう酒事件」がパッと思い浮かびます。この連想、かなり狂っていると自覚があります。



 いくつかの作品について簡単に感想を書きます。ただ、有名どころを全部網羅は出来ていません。手元に新潮文庫の『江戸川乱歩傑作選』しかないためです。また、すべての感想を書くとだらだらしてしまうので、私の独断で重要そうな作品を選出しました。すみません。



 以下、ネタバレを含みます。ご注意ください。念のため、空白を設けます。




















 かなり空白を設けました。



・二銭銅貨

 乱歩の処女作であり、日本初のミステリーで暗号物です。序盤に挿入された話により、臨場感が増しています。後半の暗号の解き方では「ベイコンの暗号」、「ポーのGold bug」などの具体例を挙げています。乱歩が本作を執筆するまでに、かなりの知識を詰め込んだのが想像できます。


 そして、オチが素晴らしい。泥棒が盗んだ大金と思いきや、作中の「私」の仕掛けた悪戯だったのです。とんでもなく手の込んだ悪戯です。



・D坂の殺人

 名探偵明智小五郎の初登場作です。当然、事件が起きるわけですが、作中の「私」はとんでもないことを書いています。「私はこれが犯罪事件ででもあってくれれば面白いがと思いながら、喫茶店を出た」。


 本作品にもポーの『モルグ街の殺人』やドイルの『スペックル・バンド(注:まだらの紐)』など、密室ものの作品名が登場します。後半の推理パートでは『心理試験』のはしりが見られます。



・人間椅子

 女性作家のもとに手紙とおぼしきものが送られてきたところから始まりますが、内容が不気味です。手紙を書いた「私」の転機になったのは、自分の入った椅子に女性が腰掛けたことですが、記述がかなり「エロい」です。これを機に「私」の目的が盗みから変わります。


 途中の感想は省きますがオチが秀逸。エロ、ホラー、オチの三拍子。30ページ前後ですが、きれいにまとめられており、濃密です。



 以上、三作品の感想でした。『人間椅子』はかなり不気味な要素が多いです。どちらかというとホラー要素が大きいですね。



 さて、日本ミステリーの祖である乱歩ですが、小説だけではなく、海外作品のトリック、動機について分類しています。その一部が『探偵小説の謎』や『続・幻影城』に収録されています。これらは膨大な量の海外作品を乱歩が読んだことの証左です。



 そんな乱歩ですが、自分にまつわる情報を収集したスクラップブックを作っていたようです。ここからは有栖川有栖氏の『本格ミステリの王国』より引用です。



「現在に生きていたなら、インターネットの検索エンジンをフル活用して、自分に関する書き込みを片っ端からダウンロードしただろう」



 まさにその通りでしょう。簡単に想像できます。

 しかし、インターネットのない時代だからこそ、乱歩は紙で海外作品を読みあさり、トリック集を作れたのでしょう。

 


 乱歩のトリック分類は例えば『続・幻影城』でいうと、「犯人(又は被害者)の人間に関するトリック」を225例としています。膨大な作品を読み込んでいます。そして「一人二役 130例」とさらに小分類しています。ここから人間に関するトリックは半数が一人二役であることが分かります。



 もしインターネットの時代に乱歩が生きていたら、翻訳されていない小説までフォローしないでしょう。我々が乱歩のトリック分類の恩恵にあずかれるのも、乱歩が生きた時代の産物なのです。



 文字数が多くなってきたので、この辺で終わりにします。無理やりコンパクトにして、この量です。江戸川乱歩の偉大さを実感しました。

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