第25話  ~㉕~

 いつもの占い部のメンバーが、放課後、一年二組の教室に集まる。先輩二人はいつも遅れてやってくる。っていっても、決まった集合時間とかはないんだけどね。

 ジュンちゃんたちも、いつものように帰らないで残っていて、ちらちらとこちらをうかがいながら、なんか話をしている。ナオもソウタもいつもいるとこを見ると、アマチュア無線部というのは、あまり活動をしない部活らしい。

「あのさ。サヨカちゃん。まだ正式に部は決まらないの? ほらさあ。部室とかさあ。いつも教室だとさあ。あれだから」

カヨちゃんは、ジュンちゃんのこそこそとした視線を気にしながらいった。

「私も何回か石田先生に相談してるんだけど、このあいだ先生がいってた職員会議を開いてくれたそうよ。それでいろいろと打ち合わせとか、根回しとかいうやつが必要らしいの。根回しっていうのは、あらかじめ上手くいくように、みんなの意見を合わせておくようなことらしいわ。もうほとんど決まったことだから安心してほしいって、石田先生いってたわ。もう一度会議を開いて、そこで決定されるみたいなの。だからもうちょっと辛抱してね。いろんな意味でね」

「うん。いろいろ大変だよね。部を立ち上げるってさ」

カヨちゃんは、どうやらジュンちゃんの視線を我慢しているみたいだ。

「なんなら私がダウンジングで占ってあげようか?」

と、イッちゃん先輩は制服のポケットかペンデュラムを取り出して、カヨちゃんの目の前でそれを揺らしてみる。

「い、いりません。遠慮しときます」

ケンタ先輩はさっさと水晶玉を机の上にセットして、さっきから「見えるぞー。見えるぞー」って、何かを占っている。

「うう……。あやしげな相が出ている。気をつけた方がいい。トモちゃん」

ケンタ先輩がまた何かしゃべり出した。こういうとき、決まってよくないことが起きるんだよなあ。

「ああー。ケンタ先輩のお告げだー。トモちゃん、きっとまたかわいいおばけのことだよ。ぷぷぷ」

ナミちゃんは、ケンタ先輩の占いがおもしろくて仕方ないらしい。

「ちょっと。やめてよ。ナミちゃん。嫌だよ。トモ」

と、トモちゃんがジュンちゃんたちの方を振り返ると、ソウタがこっちに向かって歩いてくるとこだった。

「トモちゃん。ちょっといいかなあ。ぼく、ソウタってみんなに呼ばれてるんだ。だから君にもソウタって呼んでほしいんだ。ぼくもトモちゃんって呼んでるから」

ソウタ、そりゃあいきなりすぎるだろう。

「ええー。ど、どうしよう。いいよ。別にそれくらいなら」

トモちゃんは恥ずかしがりながら、あわてた様子で答えた。

い、いいのかよ。トモちゃん。なんだよ。それ。

「うん。ありがとう。それでさあ。今日はちょっとトモちゃんにお願いがあるんだ」

「ええー。な、何?」

俺がいわれたわけでもないのになんかドキドキして、ソウタの言葉を待った。たぶんこの場にいたみんなが緊張して、ついにこの日がきたかといった感じだったんだろうと思う。

「中庭で待ってるから、部活終わったらきてほしいんだ。ぼく待ってるから」

というと、「じゃあ」っていって、ソウタは駆け足で教室を出ていった。

 うわあー。突っ走るなあ。ソウタのやつ。だけどそのときのソウタの背中が

なんだかかっこよく俺には思えたんだ。

「げえっ。ほんとにコクる気だよ。ソウタのやつ」

俺はたまらずジュンちゃんたちの方へと、早足で向かっていった。

「みたいだなあ。まあ、ほっときゃいいんじゃあねえか?」とジュンちゃん。

「後でそうっとさあ。見にいってやろうかにゃあ」

「やめとけ。ナオ。結果はわかってるだろ? ソウタがかわいそうだ」

と、ジュンちゃんはいうが、俺も実はこっそり見にいってやろうかと、思っ

てたとこだ。ソウタのことを思うと、やっぱりそういうのはいけないよな。

「アキオ。とにかくソウタにまかしておけばいいって。どうにもなりゃあしな

いだろう。心配いらないさ。おまえはあっちいってろよ」

「わかった」

ジュンちゃんが妙に落ち着いてるんで、なんでだろうと、不思議に思ったんだ。

まるでもう結果はわかりきっているとでもいうように、お通夜みたいな暗い感じになっちゃってさ。ここはテンション上げていくとこだろうに。

 俺はまた占い部のみんなのとこに戻った。

 戻ると、女子たちが大騒ぎをしていた。サヨカちゃんだけは、興味なさそう

にしていた。

「うわあー。これってコクられってやつじゃん。やるねー。トモちゃん」

ナミちゃんは驚いた様子で、はしゃいでいる。

「だから私のいったとおりになっちゃったじゃあない。どうするの? トモちゃん」

イッちゃん先輩もどこか動揺しているようだ。

 そりゃそうだ。中学生になってほんの二、三か月でコクられるなんて、めったにあったもんじゃあない。ソウタはやっぱ宇宙人なんだよ。

 トモちゃんは黙って考え込んでいる。

「ねえ。どうするの? トモちゃん。嫌ならいかなくていいんだよ?」

カヨちゃんが心配そうにトモちゃんにたずねる。

「トモ、一応いってみようかなあ。あいつなんていうのか気になるし」

「ええー!」

トモちゃんの言葉を聞いて、サヨカちゃん以外の女子が、みんないっせいに驚いた。

「それにさあ。あいつは他の男子と違って、まっすぐでストレートじゃん。だから、一応話だけ聞いてみようと思って」

「トモちゃん。それ本気なの?」とカヨちゃん。

「うん。部活終わったら一応いってみる。だってあいつはずっと待ってるんでしょ?」

「マジで? トモちゃん?」

と、トモちゃんがどうかしたかのように不思議がって、ナミちゃんが聞く。

「うん。まあね」

と、トモちゃんが答えたので、また女子のみんなが、「ええー!」と、驚いていた。

今度はサヨカちゃんもちょっと驚いた様子で、トモちゃんを見ていた。

 やっぱ男子はストレートな方がモテるのかあと思いつつ、俺は内心、心臓の鼓動がドキドキしっぱなしで止まらなかった。友達が女子にコクると聞いただけで、これだもんなあ。

 水晶玉で「見えるぞー。見えるぞー」って、さっきから占っているケンタ先輩の方にぱっと目をやると、イッちゃん先輩がケンタ先輩をにらんでいた。

 ケンタ先輩は、「なんだい?イッちゃん」といったきり、また水晶玉で、「見えるぞー。見えるぞー」ってやっている。

 ケンタ先輩はほんとにそういうことに興味なさそうなんだ。へたをしたら俺もケンタ先輩みたいになっちまうんだろうかと、変な不安におそわれそうになる。

 だってソウタが特別すぎるんだよ。何もソウタみたいじゃあなくてもいいや。俺はまずは占いを、サヨカちゃんみたいにできるようになりたいんだよ。ほんとにそれだけなんだからな。

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